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4話
そして研究施設へと向かう
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04
それからそのまま施設に行くことになった。
研究施設へは自動運転のロボットに乗って向かうことになった。こんなものが開発されていたのかと表情には出さずに驚きを覚えながら、道中真瀬さんに施設の詳しい話を聞きながら、分からないことはメモをしようとしたら、
「こちらをどうぞ」
とipadを渡された。
「そちらにはこれからの貴女様の記憶が積み重なるように記録されていきます。貴女様の指紋以外では決して開かないようになっておりますのでご安心ください。今までの貴女様の記憶は前述お話した通り返して行く手筈です。
ですが、これからの貴女様の記憶はもう奪わないという約束の元、そちらを貴女様にお渡し致します。...何か?」
私がずっと真瀬さんを見ていることに気付いたのだろう。
真瀬さんは私に向かって首を傾げる。
『あ、いえ、とても澱みなく話されるのだなと思いまして。慣れている、のですか?』
そう返すと真瀬さんは困ったように笑う。
「そう思って頂けたのなら幸いです。これは施設に着いてからお話する予定でしたが、これからは私が貴女様の担当をさせて頂きます。困ったこと、分からないことがあったら何なりとお申し付けください。...機密事項となりますので今からお話することは他言無用でお願い致します。」
そこで一息ついて私を見る。
「そうは見えないかもしれませんが、とても緊張しているのです。私はどうしても貴女様にこれ以上不愉快な想いをさせたくはないのです。今まで記憶を奪い続けていた、というだけで貴女様にはとても心労をかけているものだと思われます。ですから...」
私は真瀬さんに微笑みかけた。不思議そうな顔をする真瀬さんに伝わったかは分からないけれど、それでも一生懸命私に向き合ってくれる彼女の気持ちに応えようと。本来なら私が真瀬さんを始めとする、これから出会う方々に気を遣う必要はないのだと理解はしている。困惑や憤りならまだしも気遣いなんて向けるべきではないのだと。それでも嬉しかったから。こんな風に私に真っ直ぐに話しかけてくれることが、そのすべてが仕事だとしても、嬉しかった、と言えば真瀬さんはどんな顔をするのだろう。人と話すことに不慣れな私がそれをどう伝えるか迷う。そして今すべてを伝える必要はないのだと気付いた。これかは私はこの人に支えられながら記憶を取り返して行くのだ。だから一言、ちゃんと伝わるように真瀬さんの目を見て言う。
『...私のことを今だけでも孤独だと思わせないでくれてありがとうございます。』
それを聞いた真瀬さんは呆気に取られたような顔をして、少し頬を染めてふわりとまるで少女のように笑う。
「貴女様は不思議な方ですね。困惑や憤り、数え切れない感情を抱えながら私に放つただ一言がお礼などとは。けれど、礼には礼を尽くします。どういたしまして」
そう返してくれた真瀬さんに、私はなんだか泣きそうになりながら言葉を紡ごうとした。けれど言葉にならなくて不器用に笑う。それさえも出来ていたかは分からないけれど。
そして真瀬さんは前を見て言う。
「もうすぐ着きますよ。」
研究施設が見えてきたらしい。私の過去と現在と未来を繋ぐすべてがあそこにあるのなら。恐怖は勿論あるけれど踏み出そうと思った。
それからそのまま施設に行くことになった。
研究施設へは自動運転のロボットに乗って向かうことになった。こんなものが開発されていたのかと表情には出さずに驚きを覚えながら、道中真瀬さんに施設の詳しい話を聞きながら、分からないことはメモをしようとしたら、
「こちらをどうぞ」
とipadを渡された。
「そちらにはこれからの貴女様の記憶が積み重なるように記録されていきます。貴女様の指紋以外では決して開かないようになっておりますのでご安心ください。今までの貴女様の記憶は前述お話した通り返して行く手筈です。
ですが、これからの貴女様の記憶はもう奪わないという約束の元、そちらを貴女様にお渡し致します。...何か?」
私がずっと真瀬さんを見ていることに気付いたのだろう。
真瀬さんは私に向かって首を傾げる。
『あ、いえ、とても澱みなく話されるのだなと思いまして。慣れている、のですか?』
そう返すと真瀬さんは困ったように笑う。
「そう思って頂けたのなら幸いです。これは施設に着いてからお話する予定でしたが、これからは私が貴女様の担当をさせて頂きます。困ったこと、分からないことがあったら何なりとお申し付けください。...機密事項となりますので今からお話することは他言無用でお願い致します。」
そこで一息ついて私を見る。
「そうは見えないかもしれませんが、とても緊張しているのです。私はどうしても貴女様にこれ以上不愉快な想いをさせたくはないのです。今まで記憶を奪い続けていた、というだけで貴女様にはとても心労をかけているものだと思われます。ですから...」
私は真瀬さんに微笑みかけた。不思議そうな顔をする真瀬さんに伝わったかは分からないけれど、それでも一生懸命私に向き合ってくれる彼女の気持ちに応えようと。本来なら私が真瀬さんを始めとする、これから出会う方々に気を遣う必要はないのだと理解はしている。困惑や憤りならまだしも気遣いなんて向けるべきではないのだと。それでも嬉しかったから。こんな風に私に真っ直ぐに話しかけてくれることが、そのすべてが仕事だとしても、嬉しかった、と言えば真瀬さんはどんな顔をするのだろう。人と話すことに不慣れな私がそれをどう伝えるか迷う。そして今すべてを伝える必要はないのだと気付いた。これかは私はこの人に支えられながら記憶を取り返して行くのだ。だから一言、ちゃんと伝わるように真瀬さんの目を見て言う。
『...私のことを今だけでも孤独だと思わせないでくれてありがとうございます。』
それを聞いた真瀬さんは呆気に取られたような顔をして、少し頬を染めてふわりとまるで少女のように笑う。
「貴女様は不思議な方ですね。困惑や憤り、数え切れない感情を抱えながら私に放つただ一言がお礼などとは。けれど、礼には礼を尽くします。どういたしまして」
そう返してくれた真瀬さんに、私はなんだか泣きそうになりながら言葉を紡ごうとした。けれど言葉にならなくて不器用に笑う。それさえも出来ていたかは分からないけれど。
そして真瀬さんは前を見て言う。
「もうすぐ着きますよ。」
研究施設が見えてきたらしい。私の過去と現在と未来を繋ぐすべてがあそこにあるのなら。恐怖は勿論あるけれど踏み出そうと思った。
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