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1話

私って?

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0 あの日からのことを忘れてしまった私に残ったものなど何もないとあの日まではそう思っていたの。
あの日大切なものを大切だと気付くまで。
これは私が奪われた記憶を取り戻すまでの話だ。

01 「好きです、付き合ってください」
告白された。ストレートに。けれど答えは
「ごめんなさい。私、ずっと忘れられない人がいるのでお付き合いは出来ません。告白してくれてありがとうございます。応えられなくてごめんなさい。」
と断った。忘れられない人、かぁ。そんな人がいればよかったのに。私の何を見て、何を知って、好きだと言うのだろう。勿論なにかは刺さったのだろう。けれど私には何もないのに。__何故ここにいるかも分かってはいないのに。
私が思い出せるのは10歳までだ。そこからの記憶は積み重なってはいない。名前や年齢は分かる。通っていた小学校の名前も。長期記憶というのだろうか、生きるために必要なことは分かる。けれど、誰と仲がいいだとか、昨日食べたものだとか、恋人の有無だとか、近くのコンビニとかそういうことが分からない。分からないというよりは思い出せない。何故思い出せないかも分からない。思い出せるのは11歳の誕生日、住んでいた家や、家族、お母さんが焼いてくれたケーキが真っ赤に染まっていったこと。それから病院に運ばれて、一時的に入院をした。そしてその日以降の記憶が積み重ならないことが分かった。診断結果は「家族を失ったことによる一時的な記憶喪失」。それから様々なことがあった、のだろう。それを思い出せない。入院中やその後のことが写真に残っているからそれを見れば自分の成長は分かる。一緒に写っている人の名前や顔は見ても思い出せない。本当は入院していた方がよかったのだろうけれどその病院ではそれ以上の治療が出来ないこと、などその時期にあったことが記載された書類が渡された。そう、そこまでは分かる。分からないのはそこからだ。何故私が高校や大学に通えていたのか。私は今本当は幾つなのか。鏡を見る限り20歳くらいには見える。けれど肉体年齢だけを見るのも違う気がする。そんなことを考えながら一人暮らしのアパートに着く。ここまでの道中は携帯電話の待受に地図として書いてある。だから辿り着くことは出来る。そして階段を登り玄関口に目を向けると見知らぬ女性がいた。会釈をする。相手方も同じように会釈を返してくれる。
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