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第3話 侵入者
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前方に、武装した男たちが現れた。
――一人、いや、二人か。
こちらに気づき、剣を振り上げて駆け寄ってくる。
侵入者たちはフードを深くかぶり、布で口元を隠していて、顔がよくわからない。
「リラ、首謀者が誰かを吐かせる。殺さず捕えよ」
「了解」
リラは侵入者を迎え撃つために、駆け出しながら剣を抜いた。大きく足を踏み込み、剣を振り回す男と、激しく斬り結んだ。
リラより背が高く体躯のいい男は、力づくで剣を振り抜こうとしてきた。リラは、わざと力を抜いて剣をいなした。
バランスを崩した男の脇に膝蹴りを入れる。動きを止めた男の背中を思いっきり蹴って、もう一人の小柄な男にぶつけた。
二人が絡まりバランスを崩して倒れた。リラはすぐに間合いを詰めると、男の喉仏に剣の柄頭を振り下ろした。
気絶した大男の下敷きになっていた小柄な男が立ち上がろうとしたため、リラは剣の柄頭を彼のこめかみにも打ち込んだ。めきっと嫌な感触が伝わってくる。男は白目になって、前のめりに倒れた。
殺さないように気をつけながらリラは、数分で侵入者を倒した。
「殿下、お怪我は?」
「ない。リラこそ大丈夫?」
「かすり傷一つ、ありません」
ルーカスはふうっと安堵のため息をついた。
「きみが強いのは知っているが、……気が気じゃなかった」
「わたしも気が気じゃなかった。あとから現れた侵入者を、殿下、勝手に倒すから」
ルーカスの足元にはもう一人、男が転がっていた。
「それにしても、こいつらいい度胸だ。由緒正しい騎士の屋敷に夜襲をかけるなんて、いくらみんな酒が入っているからって、なめすぎだ」
「私を亡き者にして、バーナード家に責任や、罪をなすりつけるつもりだったんだろう」
リラはルーカスの言葉に眉間にしわを寄せた。
「なにそれ。許せない」
「とりあえず、中のようすが心配だ。戻ろう」
捕えた男たちを縄で結び、リラたちは宴会会場に戻った。そこにも侵入者が入って来たらしく、争ったあとが残っていた。椅子やテーブルは壊れ、皿やグラスが割れて、散乱している。
床には、気を失った侵入者が二人、転がっていた。
幸いにも身内に命を落とした者はいなかった。しかし、怪我を負った者は何人かいた。
「酷いことを」
リラは顔を歪めた。
「ルーカス殿下、ご無事ですね? よかった……」
ばたばたと駆け寄ってきたのは、父のワイアットだった。
「ワイアットもご無事で、なによりです」
「父さん、庭に侵入してきた男を三人、縛り上げている」
「わかった。他にも侵入者がいないか、調べつつ見てくる。リラとルーカスさまはここから離れないように」
「了解。ここは任せて」
ワイアットは頷くと、外へと駆け出していった。
「リラ、まずは重傷者から治療にあたる」
「はい」
ルーカスは外套を脱ぎ捨てると、袖をまくった。
近くの床にうずくまる使用人を抱き起こした。ガラスで斬ったのか、腕から出血していた。
「しっかりしろ。怪我を見せて」
若い使用人は、目の前に現れたのが王子だとわかり、顔を強張らせた。
「王太子さま、けっこうです。手当てしてもらうなんて……おそれ多いです!」
腕から出血しながらも首をふり、額を地面につけた。
ルーカスは彼の両肩を持つと、上体を引き起こした。
「きみ、名前は?」
「……ウエル、です」
「ウエル。身分はなんのためにあると思う?」
ルーカスは質問しながら、ウエルの手首に触れた。「うっ」と、彼の口からうめき声がもれる。
「答えは、弱い者を守るため。傷ついた人の前で、私は王族だ、貴族だと言ってなんになる。目の前で困っている人がいたら助ける。ウエル、それが最優先するべきことだ」
ルーカスは手際よく男の腕に包帯を巻いていく。
リラも治療に加わり、出血している彼の額に布をあてた。
「止血したが、応急処置だから早くちゃんとした治療を受けて」
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。王太子さま……」
ウエルは、目に涙を浮かべながら何度も頭を下げた。
「リラ、私は使用人やこの屋敷に詳しくない。治療の優先順位、指揮をとってくれ」
「わかっ……」
ふと、背後で、ガラスの破片を踏みしめる音が聞こえた。
「リラ、危ない!」
振り返って確かめるよりも先にリラは、ルーカスに押し倒された。
飛来してきたものを彼は右手で払い退けた。
手にぶつかった瞬間に弾け、綿のような白い物がふわりと舞った。
「殿下!」
ルーカスは、腕を抱えてしゃがみ込んだ。
――一人、いや、二人か。
こちらに気づき、剣を振り上げて駆け寄ってくる。
侵入者たちはフードを深くかぶり、布で口元を隠していて、顔がよくわからない。
「リラ、首謀者が誰かを吐かせる。殺さず捕えよ」
「了解」
リラは侵入者を迎え撃つために、駆け出しながら剣を抜いた。大きく足を踏み込み、剣を振り回す男と、激しく斬り結んだ。
リラより背が高く体躯のいい男は、力づくで剣を振り抜こうとしてきた。リラは、わざと力を抜いて剣をいなした。
バランスを崩した男の脇に膝蹴りを入れる。動きを止めた男の背中を思いっきり蹴って、もう一人の小柄な男にぶつけた。
二人が絡まりバランスを崩して倒れた。リラはすぐに間合いを詰めると、男の喉仏に剣の柄頭を振り下ろした。
気絶した大男の下敷きになっていた小柄な男が立ち上がろうとしたため、リラは剣の柄頭を彼のこめかみにも打ち込んだ。めきっと嫌な感触が伝わってくる。男は白目になって、前のめりに倒れた。
殺さないように気をつけながらリラは、数分で侵入者を倒した。
「殿下、お怪我は?」
「ない。リラこそ大丈夫?」
「かすり傷一つ、ありません」
ルーカスはふうっと安堵のため息をついた。
「きみが強いのは知っているが、……気が気じゃなかった」
「わたしも気が気じゃなかった。あとから現れた侵入者を、殿下、勝手に倒すから」
ルーカスの足元にはもう一人、男が転がっていた。
「それにしても、こいつらいい度胸だ。由緒正しい騎士の屋敷に夜襲をかけるなんて、いくらみんな酒が入っているからって、なめすぎだ」
「私を亡き者にして、バーナード家に責任や、罪をなすりつけるつもりだったんだろう」
リラはルーカスの言葉に眉間にしわを寄せた。
「なにそれ。許せない」
「とりあえず、中のようすが心配だ。戻ろう」
捕えた男たちを縄で結び、リラたちは宴会会場に戻った。そこにも侵入者が入って来たらしく、争ったあとが残っていた。椅子やテーブルは壊れ、皿やグラスが割れて、散乱している。
床には、気を失った侵入者が二人、転がっていた。
幸いにも身内に命を落とした者はいなかった。しかし、怪我を負った者は何人かいた。
「酷いことを」
リラは顔を歪めた。
「ルーカス殿下、ご無事ですね? よかった……」
ばたばたと駆け寄ってきたのは、父のワイアットだった。
「ワイアットもご無事で、なによりです」
「父さん、庭に侵入してきた男を三人、縛り上げている」
「わかった。他にも侵入者がいないか、調べつつ見てくる。リラとルーカスさまはここから離れないように」
「了解。ここは任せて」
ワイアットは頷くと、外へと駆け出していった。
「リラ、まずは重傷者から治療にあたる」
「はい」
ルーカスは外套を脱ぎ捨てると、袖をまくった。
近くの床にうずくまる使用人を抱き起こした。ガラスで斬ったのか、腕から出血していた。
「しっかりしろ。怪我を見せて」
若い使用人は、目の前に現れたのが王子だとわかり、顔を強張らせた。
「王太子さま、けっこうです。手当てしてもらうなんて……おそれ多いです!」
腕から出血しながらも首をふり、額を地面につけた。
ルーカスは彼の両肩を持つと、上体を引き起こした。
「きみ、名前は?」
「……ウエル、です」
「ウエル。身分はなんのためにあると思う?」
ルーカスは質問しながら、ウエルの手首に触れた。「うっ」と、彼の口からうめき声がもれる。
「答えは、弱い者を守るため。傷ついた人の前で、私は王族だ、貴族だと言ってなんになる。目の前で困っている人がいたら助ける。ウエル、それが最優先するべきことだ」
ルーカスは手際よく男の腕に包帯を巻いていく。
リラも治療に加わり、出血している彼の額に布をあてた。
「止血したが、応急処置だから早くちゃんとした治療を受けて」
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。王太子さま……」
ウエルは、目に涙を浮かべながら何度も頭を下げた。
「リラ、私は使用人やこの屋敷に詳しくない。治療の優先順位、指揮をとってくれ」
「わかっ……」
ふと、背後で、ガラスの破片を踏みしめる音が聞こえた。
「リラ、危ない!」
振り返って確かめるよりも先にリラは、ルーカスに押し倒された。
飛来してきたものを彼は右手で払い退けた。
手にぶつかった瞬間に弾け、綿のような白い物がふわりと舞った。
「殿下!」
ルーカスは、腕を抱えてしゃがみ込んだ。
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