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「ジラードさま。剣をお納めください」
オリヴィアは、緊張と恐怖で足が竦んで動かなくなる前に、シグルドとマーラの前に出て、ジラードと対峙した。
「そちらの狙いはやはり暗殺か。陛下に害を成すつもりなら止めさせていただく」
「オリヴィアさま。離れてください。危ないです」
庇ったはずのシグルドがすぐにオリヴィアの前に出てしまった。その手には短剣ではなく長剣が、抜き身の状態で握られていた。
「ジラードさま聞いて。暗殺するつもりなら、我々が到着した初日の夜に実行していますわ。陛下に危害など加えるつもりなど、ありません」
オリヴィアは二人を刺激しないように、なるだけゆっくりと、なだめるようにジラードに話しかけた。
「だから二人とも、危ないから剣を下げなさい」
オリヴィアはもう一度、震える足を動かし、二人の間に割って入った。
ミディルの護衛騎士が剣を抜き、皇帝の首を狙っている。と思われれば前回同様に、開戦のきっかけになる。それだけは何としても止めたい。
ジラードとシグルド両方に、引きなさいと、目配せをする。
睨み合っている二人が不服な顔をしつつも剣を収めかけたときだった。騒ぎに気付いた他の者たちが、「見ろ、決闘だ!」と声を荒げたのが聞こえた。
――大変。気付かれた。
背中を冷や汗が流れて行く。もう一度、強く止めようとしたときだった。二人が話し合わせていたように、オリヴィアの視線から消えた。
「え……」
銀色の髪が風でなびく。
思考が追いつく前に後方で、複数人の走る音を聞いた。噴水がある中庭の方向だ。障害物は少なく、剣を振るの適している場所だ。
「シグルドさま!」
マーラの叫び声が耳をつんざく。
振り返ったオリヴィアの目に飛び込んできたのは、まさに二人が斬り結んだ瞬間だった。
「や、やめ……!」
叫びながら駆け出そうとしたが、足がもつれた。
双方打撃を繰りだし、拮抗していた。お互いが再び剣を大きく振って、斬りかかろうと足を踏み込む。
――誰か、二人を止めて……!
もうだめだ。間に合わない。取り返しのつかない惨状を想像し、血の気が引いたときだった。
二人とは別にもう一つの人影が、ふっと現れた。
「はい、一旦止まれ」
あいだに割って入ったのは、カルロスだった。
シグルドは、剣を振りかぶった上段の構えのまま手首を片手で掴まれて、動きを止められている。
ジラードのほうも、カルロスが抜いた剣でこちらも片手で受け止められ、剣を振り抜けずにいた。
交戦中のところへ入っていくのは至難なことだ。更にほぼ同時に二人の動きを止めてしまった。
カルロスはまばたきをするほどの一瞬で、シグルドとジラードの剣を払い落とした。
「いくら遊びとはいえだめだよ。俺、抜刀の許可を出してないから」
カルロスが剣を鞘に戻しながら笑う。するとまず先に動いたのはジラードだった。皇帝の前に素早く跪いて頭を下げた。シグルドも我に返ったらしく、同じようにあわてて跪いた。
「陛下。申しわけございません、でもこれは……」
「遊んでいて、悪ふざけが過ぎた。そうだろうジラード」
遮ったカルロスの声は、止めに入ったときの声音とは違い、怒気が含まれていた。
騒ぎに気づいて集まってきていた臣下たちは、カルロスの殺気に飲まれ、一様に声を噤んだ。
「お互いに思想も、考えも相容れないとろこがあるだろう。ケンカして仲よくなることは許そう。だが、命を取り合うのはやめろ。許可しない」
死を賜る覚悟をしていたのだろう。意外な温情をかけられたシグルドが息を飲んだのがわかった。
「どうした二人とも。ケンカの続きしていいよ。武器の使用は認めないから。拳を使え」
カルロスは落ちている剣を拾うと、近くにいた護衛騎士に投げて渡す。そして、他の臣下たちに手を振って追い払う。
「さあ、やれ」
カルロスは「どっちが勝つかな?」とにこにこ笑顔だ。見学するつもりらしい。
ジラードとシグルドはさっきまでの殺気を失い、困惑していた。
「あれ。どうした? ケンカしないの? 俺が邪魔したからか気が逸れた?」
オリヴィアが呆然と見ていると、カルロスと目が合った。爽やかな笑みを浮かべた彼は、こちらへ歩みの寄ってきた。
オリヴィアは、緊張と恐怖で足が竦んで動かなくなる前に、シグルドとマーラの前に出て、ジラードと対峙した。
「そちらの狙いはやはり暗殺か。陛下に害を成すつもりなら止めさせていただく」
「オリヴィアさま。離れてください。危ないです」
庇ったはずのシグルドがすぐにオリヴィアの前に出てしまった。その手には短剣ではなく長剣が、抜き身の状態で握られていた。
「ジラードさま聞いて。暗殺するつもりなら、我々が到着した初日の夜に実行していますわ。陛下に危害など加えるつもりなど、ありません」
オリヴィアは二人を刺激しないように、なるだけゆっくりと、なだめるようにジラードに話しかけた。
「だから二人とも、危ないから剣を下げなさい」
オリヴィアはもう一度、震える足を動かし、二人の間に割って入った。
ミディルの護衛騎士が剣を抜き、皇帝の首を狙っている。と思われれば前回同様に、開戦のきっかけになる。それだけは何としても止めたい。
ジラードとシグルド両方に、引きなさいと、目配せをする。
睨み合っている二人が不服な顔をしつつも剣を収めかけたときだった。騒ぎに気付いた他の者たちが、「見ろ、決闘だ!」と声を荒げたのが聞こえた。
――大変。気付かれた。
背中を冷や汗が流れて行く。もう一度、強く止めようとしたときだった。二人が話し合わせていたように、オリヴィアの視線から消えた。
「え……」
銀色の髪が風でなびく。
思考が追いつく前に後方で、複数人の走る音を聞いた。噴水がある中庭の方向だ。障害物は少なく、剣を振るの適している場所だ。
「シグルドさま!」
マーラの叫び声が耳をつんざく。
振り返ったオリヴィアの目に飛び込んできたのは、まさに二人が斬り結んだ瞬間だった。
「や、やめ……!」
叫びながら駆け出そうとしたが、足がもつれた。
双方打撃を繰りだし、拮抗していた。お互いが再び剣を大きく振って、斬りかかろうと足を踏み込む。
――誰か、二人を止めて……!
もうだめだ。間に合わない。取り返しのつかない惨状を想像し、血の気が引いたときだった。
二人とは別にもう一つの人影が、ふっと現れた。
「はい、一旦止まれ」
あいだに割って入ったのは、カルロスだった。
シグルドは、剣を振りかぶった上段の構えのまま手首を片手で掴まれて、動きを止められている。
ジラードのほうも、カルロスが抜いた剣でこちらも片手で受け止められ、剣を振り抜けずにいた。
交戦中のところへ入っていくのは至難なことだ。更にほぼ同時に二人の動きを止めてしまった。
カルロスはまばたきをするほどの一瞬で、シグルドとジラードの剣を払い落とした。
「いくら遊びとはいえだめだよ。俺、抜刀の許可を出してないから」
カルロスが剣を鞘に戻しながら笑う。するとまず先に動いたのはジラードだった。皇帝の前に素早く跪いて頭を下げた。シグルドも我に返ったらしく、同じようにあわてて跪いた。
「陛下。申しわけございません、でもこれは……」
「遊んでいて、悪ふざけが過ぎた。そうだろうジラード」
遮ったカルロスの声は、止めに入ったときの声音とは違い、怒気が含まれていた。
騒ぎに気づいて集まってきていた臣下たちは、カルロスの殺気に飲まれ、一様に声を噤んだ。
「お互いに思想も、考えも相容れないとろこがあるだろう。ケンカして仲よくなることは許そう。だが、命を取り合うのはやめろ。許可しない」
死を賜る覚悟をしていたのだろう。意外な温情をかけられたシグルドが息を飲んだのがわかった。
「どうした二人とも。ケンカの続きしていいよ。武器の使用は認めないから。拳を使え」
カルロスは落ちている剣を拾うと、近くにいた護衛騎士に投げて渡す。そして、他の臣下たちに手を振って追い払う。
「さあ、やれ」
カルロスは「どっちが勝つかな?」とにこにこ笑顔だ。見学するつもりらしい。
ジラードとシグルドはさっきまでの殺気を失い、困惑していた。
「あれ。どうした? ケンカしないの? 俺が邪魔したからか気が逸れた?」
オリヴィアが呆然と見ていると、カルロスと目が合った。爽やかな笑みを浮かべた彼は、こちらへ歩みの寄ってきた。
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