炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

碧空宇未(あおぞら うみ)

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魔女が幸せになる物語⑵ 

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「私は師匠失格です。とても、弟子の前には出られない。彼の病が完治すれば、国に帰ろうと最初から決めていました」
「国に帰るつもりだというお考えは、陛下は、ご存じですの?」
「もちろん。そういう契約、条件で私はこの国に参りましたので」
 
 ナタリーは押し黙ってしばらく考え込んだあと、顔をあげた。

「ミーシャさまは、師匠の立場とリアムさまの幸せ、どちらが大事ですか?」

 今度はミーシャが黙った。

「リアムさまのことを、どう思っていらっしゃるのですか? 今も、かわいい弟子ですか?」

 首を横に振る。

「陛下は人柄もとても立派になられました。弟子だとは思っていません。誰よりも尊敬している、大切な人です」
 
 そう答えると、ナタリーは表情を和らげた。

「よかった。弟子だと思っていらっしゃるのなら、私、あなたさまの正体を陛下にお伝えするところでしたわ。……ミーシャさまも陛下がお好きなのですね」

『陛下が好き』に反応して、勝手に顔が熱くなった。それを見たナタリーはくすっと笑い、そして、悲しそうにほほえんだ。

「わたくし以前、陛下の心を占める人はクレアさまだけと申しました。けれど、どうやら違ったようです。いえ、変わったんだと思います。陛下は、ミーシャさまを求めています。正妃にならないと申さず、どうか、求めに答えて受け止めて差しあげてくださいませ」

 ミーシャは彼女から視線を逸らし、自分の手を見つめた。

「この手は、血に染まっています。私はずっと、クレアの存在を消して欲しいと願っていました。忘れさせ、他に目を向けさせることが彼の幸せに繋がると、疑いもしなかった」
 
 師匠として迎えた最後の瞬間、血塗られた手で、彼に触れてはいけない。穢してはならないと思った。

 手を固く握ると、ライリーがそっと、手を重ねた。

「ミーシャさま。それは違います。この手は、人を想い、がんばる手です。血に染まってなどいません。あるのは、希望です。陛下を幸せにして差しあげられる人は、ミーシャさましかいませんよ」

「ライリー……」

 ――呪いではなく、祝福を。
 
 フルラを発つとき、エレノアにかけられた言葉が浮かんだ。
 

「本当に、いいのかしら。私が、この手で、リアムを幸せにしても……」

「いいに決まってます。幸せにして、そしてミーシャさまはこの国、いえ、世界一、幸せにしてもらってください。自分の幸せを望んでください」

 視界が、こみあげてきた涙で歪む。
 ライリーを引き寄せえ抱きしめると、彼女にありがとうと伝えた。

「わたくし、実は先ほど、陛下にきっぱりと振られましたの」

 ミーシャは驚いてライリーから離れるとナタリーを見た。
 目が合った彼女はにこりとほほえんだ。

「俺がこの手で幸せにしたいと思うのミーシャだけ、だそうですよ。物語ではよく魔女は悪役で、虐げられて終わりますが、幸せになる物語があったっていいじゃありませんか」

 ナタリーは、ライリーの手に自分の手を重ねた。

「どうか、ミーシャさまは陛下と、幸せな物語を綴ってくださいませ」

 ナタリーの言葉が、涙を押し出す。心が震え、ミーシャは胸が熱くなるのを感じた。

「ナタリーさま、ありがとう。私、この国にきて、あなたと友だちになれて本当に良かった」
「わたくしもです」

  ミーシャはナタリーのことも抱きしめた。

 涙を拭い、目を閉じる。
 幼少期のかわいいリアムの顔が浮かび、そして、大人になった今のリアムのほほえむ顔が脳裏に裏に浮かんだ。
 呼吸を整えると、ミーシャはゆっくり目を開け、二人を見た。

「二人ともありがとう。おかげで覚悟ができました。私、リアムにすべてを打ち明けます」

 リアムは魔鉱石を諦めろと言っていた。自分に使うつもりはないと。
 だけどやっぱり、他に方法はない。

 自分に自信が持てず、彼を説得するのは無理だと実行に移す前から諦めていた。自分の罪の意識ばかりに捕らわれ、ちゃんと、彼の気持ちを推し量れていなかった。

 ――そんなことでどうする。どうやって彼を救うというの。

「リアムを救い、共に生きる道を、探します」

 もう二度と、彼を悲しませたくない。なにがあろうとリアムを救って見せる。一緒に、幸せをつかみ取りたい。

 ミーシャは、内側から湧き上がる勇気と魔力を感じながら、前を向いた。
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