炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

碧空宇未(あおぞら うみ)

文字の大きさ
上 下
57 / 100

魔女が幸せになる物語⑴ 

しおりを挟む

 ナタリーはミーシャと目が合うと、カーテシーをした。お付きの者はなく、一人のようだ。

「ごきげん麗しゅうございます。ミーシャさま」
「お久しぶりですね。ナタリーさま。ちょうどよかった。私、あなたに渡したい物があるの」

 ミーシャは、中に入ってお待ちくださいと、部屋へ案内した。ナタリーが渋っていると、ライリーがドアを開け広げ、頭をさげた。

「私に用があって来られたのでしょう? どうぞお入りください」

 ミーシャが促すと、ナタリーは小さく頷いた。

「少々お待ちになって」と断リを入れて、調合するための作業台へ向かう。すでに準備していた袋を手に取ると、彼女のもとへ戻った。

「エルビィスさまの体調がすぐれないと聞いております。これを、よかったら試してみてください」

 戸惑う彼女の手を取り、薬が入った袋を渡した。

「大丈夫です。陛下のめいで作った薬です。毒ではないので安心して。不安でしたら今、私が服用してみせます」

「……私の父のために、薬を作ってくださったんですか?」
「はい。私の取り柄はこれくらいですので。今、飲まれている薬を邪魔するような物は入っていません」

「ミーシャさまは、噂どおり、薬に詳しいのですね」
「はい。 あ、ライリーの淹れる紅茶は美味しいんです。どうぞ召し上がってください」

 ナタリーは袋をぎゅっと握ると、「ありがとうございます」とほほえんだ。


 彼女はライリーに案内された席についても硬い表情をしていた。
 肩の力を抜いてもらおうと、ミーシャが先に紅茶を飲んで見せる。ほほえみかけると彼女もカップに手を伸ばした。紅茶を飲んだあと、ゆっくりと口を開いた。

「陛下から、カルディアとの国境の視察へ、一緒に向かうと聞きました。それで、ミーシャさまにごあいさつをと思って、立ち寄らせていただきました。立ち聞きなど不躾なことをして申しわけございません」

 彼女はぺこりと頭をさげたあと、ミーシャを見た。

「令嬢はクレアさまの生まれ変わりと聞こえてきました。……本当、でしょうか?」

 じっとミーシャを見つめる瞳は真剣で、事実を見極めようとしていた。誤魔化はよくない。ちゃんと答えようと目を閉じて腹をくくる。

「はい、本当です。私は、前世クレアの生まれ変わりです」

 ナタリーは目を見開き、驚いていた。

「前世の記憶を持ってはいますが、魔力は残念ながらないに等しいです。なので、なんの力もない、ただの娘ですよ」

 彼女を安心させようと、笑顔を向けた。

「ナタリーさま、ミーシャさまがクレアの生まれ変わりだと言うことは、ここにいる者以外、誰も知りません。ご内密にお願い申しあげます」

 ライリーが割って入った。

「ここにいる者って、……陛下もご存知ないということですか?」
 
 ライリーは「さようでございます」と答えた。

「ナタリーさま、お願いです。今聞いたことは、陛下には言わないでいて欲しいです」

「どうして言わないのですか? 陛下、ずっと、ずっとクレアさまを慕っておいでです」

 声を震わせるナタリーに向かってミーシャは頭をさげた。

「私はクレアの生まれ変わりとして、前世の罪を償う身だからです」

 彼女にわかってもらおうと、まっすぐ言葉をぶつけた。
 
「帝国民は、魔女を嫌っています。婚約者が、復活した悪魔女クレアだと知れ渡れば糾弾してくるでしょう。私を庇い立て、陛下の立場を悪くしてしまう。彼はクレアを慕っている。だからこそ、私の正体は陛下にとって足枷にしかならない」

「庇い立て、させたらいいのです。喜んで、リアムさまの足枷になりましょう」

 はっきりと言い切るナタリーに、驚いた。喜んで足枷になると言う発想がなかったからだ。

「それに、立場など、陛下は気になさらないでしょう」
「でも……、」
「クレアの正体が世間にばれるのがいやなら、帝国民や他の者には隠せばいいわ。リアムさまを含め、一部の者だけ承知していればいい」

「私がこの世に生み出した魔鉱石が原因で、たくさんの犠牲者が出ました。その帝国民に、自分の正体を偽ったままで、本当の正妃にはなれません」
「待ってください。ミーシャさま、リアムさまの正妃にならないおつもりでいらっしゃるんですか?」

 ナタリーは、今まで一番驚いた顔でミーシャを見た。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...