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眩しく、朗らかな人
しおりを挟む*リアム*
リアムの朝の日課は、庭で剣の鍛錬と、白狼と遊ぶこと。
いつもは一人だが、今日はミーシャと一緒にきた。白狼を見せると前に約束していたからだ。
『私は、陛下の婚約者ですよ。全力で守ってください。私も全力であなたを守ります』
求めに応えてくれて、素直に嬉しかった。
昨夜のミーシャは日が暮れても薬草採取に没頭していて、ようすがおかしかったし、リアムに対していつもより心を閉ざしているように感じ、放っておけなかったからだ。
皇帝という立場上、頼られることは多い。しかし、彼女には頼られたいと思った。
――こんな感情を抱くのはいつぶりだろうか。
「はじめまして。白狼さん」
いつもの庭にくると、白狼があらわれた。ミーシャは喜び、笑顔で話しかけたが、雪と氷の精霊獣の白狼は炎の魔女を警戒し、一定の距離をとった。
「精霊獣は気まぐれだ。気にしないでいい」
「そうですね。近くで見られただけでもよかったです」
残念そうにしながらも彼女は笑顔を浮かべている。
「賑やかなフルラ国とは違い、氷の国の朝は静かだろう」
白狼と、雪を眩しそうに見つめる彼女に話しかけた。
「はい。フルラにいたときは、鳥の鳴き声で目を覚ましていたので、この国にきてからは起きるのが遅くなりました」
「国に、帰りたいか?」
問いかけると、ミーシャは目をまたたいた。
「陛下の治療で頭がいっぱいなので、帰りたいなんて思ったことがありません」
彼女の返事に安堵する自分がいた。白狼を手元に呼び寄せる。
「実は最近、カルディア国についての報告が毎日のようにあがってくる。動きが活発で、先日、白狼に国境のようすを見てきてもらったが、あまりよくない状況だった」
「カルディアが攻めてきそうということですか?」
白狼の頭を撫でながらリアムは頷いた。
「数日以内に宮殿を出て、カルディアとの国境へ向かう」
「そんな危険なところへ、陛下自ら行かなくても……」
「陽動のような気もするが、行ってみないとわからない。この目で確かめてくる。この国で一番強いのは俺だからね。戦争を防ぐか、最小限にするなら先に動いて、被害を抑えたほうがいい」
「でも、そしたら陛下の身体が……」
「凍化病は酷くなるだろうね」
ミーシャは顔をしかめた。つらそうに首を横に振る。本気で心配してくれているのが伝わってきて、リアムの胸は締め付けられた。だが、自分には使命がある。
「帝国民あっての王族、王族あっての帝国民だ。もう、民の犠牲はこりごりなんだ。今こそ、俺がどうにかしなければならない」
「私は魔女の末裔で、フルラ国の守護を司る一族です。フルラに危機が迫れば、まず、みんなを守るために動きます。……なので、陛下の気持ちはわかります。だけど……陛下の体調は万全ではありません。万が一のことがあってからでは、遅いです」
「万が一が起きないように結界を張っている。大丈夫。現状を把握するために見てくるだけだ」
リアムはミーシャに向き直った。
「ミーシャ、俺の治療を一旦あきらめて国に帰るならそうしてくれてもいい。カルディア王国に向かう道中であなたを送り届ける」
「凍化病が酷くなるとわかっている人を置いて国へ? 無理です。帰るなんてできません」
「だったら、一緒にカルディアへ行くか?」
ミーシャは目を見開いた。
「私も、一緒にカルディアへ、ですか? 他国の魔女の私が、軍の最前線へ、ついて行ってもいいのですか?」
「きみを全力で守ると約束した。だから戦の最前線でもミーシャのことは俺が必ず守る。心配はいらない。が、無理強いはしない」
オリバーがなにを企んでいるのか不明の今、氷の宮殿に彼女を置いていくほうがリスクが高い。彼女を国に帰すか、一緒にいるほうが守れる。
「私も陛下を守ると約束しました。ついていく以外、選択肢はありません」
望んでいた答えだったが、ミーシャ本人の口から言ってもらえて、内心、浮き立った。
「ありがとう。ただし令嬢は無鉄砲なことをする人だと知っている。俺の傍をはなれないこと。無理は絶対にしないのが条件だ。いい?」
「では、私も条件を出します。陛下も無理をしない。お互い監視できていいですね」
ミーシャは朝陽のように眩しく、朗らかに笑った。
――どうしても願ってしまう。この笑顔をずっと見ていたいと。少しでも長く、傍で……。
「出発は数日以内。しばらく出兵の準備で忙しくなるが、警戒も怠らないように」
「わかりました。陛下、私にできることがあったらなんなりと言ってくださいね。……ひとまず、エルビィス先生の薬をすぐに調合しましょう」
「ああ、頼む」
白狼がリアムのもとを離れ、白い大地を駆けていく。そのようすをミーシャと見送ってから、室内に戻った。
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