炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

碧空宇未(あおぞら うみ)

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月がきれいだった夜⑴

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 数時間後、ミーシャは日が暮れても、炎の鳥を明かり代わりに雪を掘り、草花を探し求めた。冷えすぎて手先の感覚がなくなると、息を吹きかけて温める。

 ライリーには何度もとめられた。だが、ミーシャは手を動かし続けた。雪をかき分けているあいだは無心になれたからだ。

「もう、そのあたりでやめておけ。暗くてなにも見えないだろ?」

 耳に届いた声に、ミーシャは固まった。

「きみの大事な侍女たちが凍えてしまう」

 さくさくと雪を踏みしめ、近づいてくる人がリアムだとわかっていても、ミーシャは振り向かなかった。しゃがみ込んだまま草花を仕分けして袋に入れる。

「侍女とイライジャさまには懐炉と炎の鳥を持たせています」
「なるほど。それで令嬢の傍にはいつもいる炎の鳥が少ないのか」

 急に背中が重くなった。振り返ると、リアムの外套が肩にかけられていた。あわてて立ちあがる。

「私は大丈夫です。陛下のほうが身体を冷やしてはだめです」
「魔力を使っていないから大丈夫。寒いだけなら平気だから」

 リアムは外套の前を止めると、さらにマフラーをミーシャに巻き付けた。

「迎えに来た。帰ろう」

 やさしくほほえまれて、なぜか泣きたくなった。情けない顔を見られたくなくて顔を逸らす。

「……片付けたら帰ります。陛下はお先に戻っていてください」
「手伝おう。なにをすればいい?」

 ミーシャは首を横に振った。

「イライジャさまとライリーたちで道具を運びます。陛下の手をわずらわせるわけには……あれ?」
 
 ふと周りを見ると、イライジャもライリーもいなくなっていた。スコップなどの道具は持って行ったらしく、なにもない。

「イライジャの護衛は昼のあいだだけだ。侍女たちにはお風呂の準備を頼んだ」
「そう、ですか……」
「食事もまだなんだろう。どうした? きみが周りが見えなくなるなんて。らしくない」

 リアムはミーシャとの距離を縮めると、手を伸ばしてきた。

「陛下に、会いたくなかったからです」 

 肩を竦めて身構えていると、彼の手がミーシャに触れる前に止まった。

「……なにか、気に触ったか?」
「陛下は、なにも悪くありません。無力な自分がいやで、顔を合せられなかっただけです」
「無力? 昨夜も言ったが、きみには十分助けられている」

 ミーシャは下を向いたまま「十分じゃありません」と答えた。

「あらためて、思ったんです。陛下の病は緩和するだけじゃなく、完治してこそだと」
「それで、焦ってこんな時間まで薬草探しか」
「私が陛下の役に立てるのはこのくらいですから」
「……やはり、今夜のきみはおかしいな。なにかあった?」

『あなたはクレア師匠を思い出させ、過去に縛りつける。陛下の傍にいるべきじゃない』

 イライジャに言われた言葉が頭を過ぎった。

「なにも。ただ、……私があらわれたばかりに、陛下とナタリーさまの関係を難しくしてしまったんじゃないかと思いまして」
「どうして今、ナタリーが出てくる」

 リアムは理解できないと言いたげに目を細めた。 

「昼間、陛下とナタリー嬢が一緒にいるところを見かけました」
「危篤だったエルビィス先生が意識を取り戻したんだ。その報告を受けていた」

  ミーシャは目を見開き、顔をあげた。

「……エルビィス先生、容体が悪かったんですか?」

 驚きのあまり、無意識にリアムに詰め寄っていた。

「具体的に今、どのようなようすなんですか? いつからですか?」
「きみは、エルビィス先生を知っているのか? まだ、話してなかったはずだが」
「あ、えっと……、母から聞いておりました」

 エルビィスがリアムの教育係だったことを知っているのは、クレアの記憶があるからだった。ミーシャはあわてて取り繕った。

「先生は、ずいぶん前から悪い。最近は昏睡状態だったから、今朝お見舞いに行ったんだ。それから数時間後に意識を取りもどしたらしく、ジーンの妹君が嬉しくて、飛んで知らせに来てくれた」

「そうだったんですね。意識が戻ってよかったです」
「先生には我が国で一番優秀な医師と薬師を手配しているが、よかったらきみにも一度、薬を調合してもらってもいいか?」
「ぜひ。調合させてください」
「詳しいことはあとにして、室内に戻ろう」

 ミーシャは頷きを返した。草花を入れた袋をまとめていると、リアムがすべての袋を持ってくれた。
 先に歩いてと促され、しかたなく彼のつけた足跡を辿るようにして、前に進む。

「で? 俺と会いたくなかった理由にナタリーはどう関係してくる?」

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