炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

碧空宇未(あおぞら うみ)

文字の大きさ
上 下
35 / 100

冬の薬草探し⑶

しおりを挟む
「大声を出すなんてはしたない。ミーシャさまはいつまでたっても公爵令嬢としての自覚が足りないです!」

 ライリーの小言がはじまった。彼女は姉のように世話好きだ。どう切り抜けようかと考えていると、ユナがミーシャを呼んだ。

「ミーシャさま、ブレスレットを落とされております」

 振り返ると、ユナの横にいるサシャが雪の上を指差していた。

「あ、ごめん。ありがとう」

 あわてて金色のブレスレットを拾った。

「お気をつけください。それがないと魔力が使えないのでしょう?」

 ミーシャはこくりと頷いた。

 炎の魔女は火を操れる。宝石のガーネットを身につけると魔力を高めることができた。そこに目を付けたクレアはいろいろと手を加え、純度を高めることで魔力を帯びさせることができる『魔鉱石』を発明した。

 ブレスレットに埋め込まれている宝石は魔力を溜めることはできないが、ふつうのガーネットよりも魔力を高めることはできる。
 失敗作とも言えない代物。それでも用心して、侍女には触れさせないようにしていた。

「魔鉱石……」

 ――リアムの治療には薬草よりも魔鉱石のほうが、効果があるかもしれない。

 クレアは、この世にただ一つだけ残った魔鉱石を、死の間際にリアムに託した。
 しかし、皇帝となった彼は、魔鉱石は青色の偽物もクレアの本物もすべて燃えて消えたと発表している。その目的は、奪われ利用されないため。

 人々を苦しめた元凶を利用するのは気がすすまない。けれど他にいい案が浮かばない。

 ――もともと、魔鉱石はリアムのために作ったような物だし……。

 治療のため、期を見て提案してみようとミーシャは思った。
 ブレスレットを腕にはめ直すと、ライリーに「戻ります」と伝え、薬草採りを切りあげた。

 泉のそばを横切ったほうが近いが、近づかないとリアムと約束した。雪をさけるためにも屋根がある回廊へ向かう。

「それにしてもよく降るわね。……あれ?」

 ふと見つめた白い世界に、金色の髪の少年がいた。

「ノア皇子……!」

 雪の庭園にいる小さな皇子は、吹雪など気にするようすもなく白い仔犬と遊んでいる。他に人の姿はない。たった一人だ。
 声をかけようと庭に行こうとしたら、サシャが行く手を阻んだ。

「ミーシャさま、皇太子さまも陛下のように魔力に長けており、寒さにお強いです。遊んでいらっしゃるだけです」
「でも……」
「ちゃんと傍で見守る侍従がいるはずなので大丈夫です」

 ユナもサシャの横に並んだ。

「それよりも早くお部屋へ。閨の間で陛下をお迎えしなければ。伽の準備をいたしましょう」
「と、伽の準備!?」

 リアムの艶めかしい姿や仕草を想像してしまった。顔から火が出そうだ。

「ミーシャさま、我々にお任せください。陛下が満足するように私たちは、最・大・限! お務めさせていただきます!」

「満足ってなに?!」
 
 侍女たちはやっぱり仕事熱心だ。陛下のために主をどう飾りたてるかで盛りあがっている。

 ミーシャは「お願いだから、変なことはしないで!」と汗だらだらにしながら訴えた。
 侍女を諭したあと、一人で遊んでいる皇子が気になって振り向いた。
 吹雪の向こうにはもう、ノアの姿はなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

処理中です...