炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

碧空宇未(あおぞら うみ)

文字の大きさ
上 下
32 / 100

氷の皇帝の望むしあわせ

しおりを挟む
「古老たちが早く妃を娶れとうるさいからそうしたが、来るのが隣国の魔女だ。同盟国とはいえ、魔女を皇后にすることに反対している者がいまだにいる。彼女が根本的な完治が無理だと気づき諦めるまでは付き合うが、故郷へ帰りたいと言えばすぐに願いを叶えてあげるつもりでいる」

 ジーンはにこりと笑った。

「令嬢の気持ち、身の安全が最優先ということですね。さすが我が主。自分の都合よりも相手の気持ちを慮るなんてとてもご立派です。しかし、陛下の家来として、……親友として言わせてもらえば、もう少しご自分の幸せについても欲張っていただきたい」

 リアムは眉根を寄せた。宰相として小言ばかりの彼の目が今日はとくに真剣だ。

『生きて、陛下も幸せになってください』

 ――俺の幸せか。……令嬢も同じことを言っていたな。

 死の間際の師匠も、弟子の幸せを口にしていた。だがしかし、その願いは叶えられない。
 彼女のいない世界に、幸せなど存在しないからだ。

 人生を共にするパートナーが欲しいと思えない。血の繋がった子どもがいる未来が、想像できない。

「俺の幸せは、みんなが幸せになることだよ」

 ――この命は師匠からいただいたもの。守られた命は無駄にはできない。
 
 今いる大切な人のために使うことだけが、リアムの唯一の願いだった。

「陛下……!」
「静かに」

 リアムは不服そうな顔をするジーンの言葉を手で遮った。雪を踏みしめる音が聞こえたからだ。
 振り向いた先には、炎の鳥を肩に乗せたミーシャがいた。

「あの、ごめんなさい。お話の邪魔をするつもりはなかったの。起きたら陛下がいなかったので、心配で……」

 ミーシャはリアムが初日に渡した白い外套を羽織っていた。雪の中、佇んだままの彼女に近づく。

「俺を探しに来たのか?」
「はい」
「今後は探さなくていい」

 彼女はなにか言いたそうに口を開きかけたが、すぐに唇を引き結んだ。お辞儀をして「仰せのままに」とさがる。
 雪交じりの風が、彼女の朱鷺色の髪をさらりと揺らす。朝陽に透けて輝いて見えた。

「きみの髪は、やっぱりきれいだ」

 ふと、いで出た言葉に、目を見開いている彼女より自分が驚いた。炎の鳥が空に舞いあがる。
 リアムは咳払いをすると外套を脱ぎ、ミーシャの肩にかけた。

「えっと……、陛下。私、外套はもう……炎の鳥もいるので平気です」
「それでも着て。そんな薄着では炎の鳥がいても風邪をひく」

 ミーシャは苦笑いをすると、白い外套マントの上に、黒の外套《クローク》を羽織った。
 隣に立つジーンが「いや、重そうでかわいそうっす」と呟いたので、彼の足をぎゅっと踏みにじむ。

「早朝に起きるのが日課なんだ。きみは寝てていい。という意味だ」

 彼女はゆっくりと頬をゆるめた。

「わかりました。次からは寝るようにします」
「戻ろう」
「陛下、待ってください。……流氷の結界を、近くで見せて欲しいです」
「氷の泉を?」

 ミーシャは真剣な顔でこくりと頷いた。リアムはジーンに視線を向ける。

「はいはい。お邪魔虫は退散しますよ。ミーシャさま。どうかごゆるりと」

 ジーンは胸に手を当て臣下の礼をすると、足早に去って行った。二人だけになってからリアムは口を開いた。

「俺はきみを信用している。だが、残念だがそうは思っていない者もいる。一緒にいるときはかまわないが、一人では結界に近づかないように」
「……承知しました。以後、近づかないように気をつけます」

 ほとんど魔力がないミーシャには結界に細工などできないが、事情を知らない者には不安を抱かせる。できれば誰にも、誤解や怖い思いをさせたくない。

「こっちだ。案内する」

 リアムはミーシャの背に手を当て、歩くように促した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります

柚木ゆず
恋愛
 婚約者様へ。  昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。  そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

処理中です...