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氷の妖精リアム皇子⑵
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オリバーはリアムが作った拳大の氷の塊を窓の外に投げ捨てた。後続の護衛騎士が、「うわっ!」とあわてる声がしたが、叔父は笑顔のままリアムの頭をやさしくなでた。
「……僕、父さまよりもオリバーに褒められたい」
叔父は、目を見開いた。
「みんなに迷惑かけたくないし、魔力はコントロールできるようになりたい。オリバーがついてきてくれるって言うから、留学するって決めたんだよ」
「リアム、せめてオリバー叔父さんと呼びなさい……」
叔父は注意しながらも嬉しそうに表情をゆるめた。
「これから教えてもらう魔女の末裔クレアさまは、とてもやさしいと聞いている。けれどもしリアムをいじめるようなことがあったら、私が必ず魔女をやっつけてやるからな」
「なにかあってから魔女をやっつけても、遅い気がするけど」
「そうならないように力を尽くすよ」
「……うん、ありがと」
そっと、オリバーに抱きついた。
遠い昔、人はみんな魔力を持ち炎や氷、風や水を自由に操れたという。今は王家やその親族など、ごく一部の者だけだった。
皇帝陛下の父はいつも忙しく、めったに会えない。魔力の扱い方を息子に教える暇がないのならせめて、王弟のオリバーが教えてくれたらいいのにと、大好きな叔父の胸でリアムは思った。
馬車が森を抜けると開けた草原に出た。遥か先にはたくさんの家が並ぶ街が見える。
「うわあ、本当に雪がない。あ、大きな花が咲いてる!」
リアムは飽きることなく、馬車の外を眺め続けていた。フルラ国は色が溢れている。
木々は青い葉をつけ、花々は咲き乱れていた。嗅いだことがない葉の匂いと、耳を澄ませば鳥のさえずりが聞こえる。
城塞の北門から街へ入った。王宮まで続く大通りには、露店がいくつも出ている。見たことがない野菜や果物、調度品が山のように積み上げられていた。
絵本の中で見た楽園に入りこんだみたいで、リアムはずっとわくわくしていた。
しばらく進むと、川にかかった大きな橋を渡った。その先で馬車は停まった。
オリバーに続き、馬車を降りたリアムは目を見張った。
門前には、カラフルなドレスに身を包んだフルラ国の貴族数人と、何十人もの兵士が直立不動のまま整然と並んで待っていた。
豪華な衣装を着た貴族たちの後ろから、十代半ばくらいの女の子が現われた。
「フルラ国へようこそ」
彼女は一人だけ黒いドレスでデザインも質素だった。肌は白い真珠のように内側から光り輝くようだ。腰ほどまで伸びた長い髪は、赤く燃える月を静かな夜が包み込んだような色をしている。
瞳の色は紫。そして赤い唇。耳元には髪色と同じ、炎を閉じ込めたようなガーネット鉱石のイヤリングが揺れている。グレシャー帝国では見たことがない、美しく神秘的な彼女は、夜空に浮かぶ月のようで、リアムは一瞬で目を奪われた。
「お初にお目にかかります。あなたが、ガーネット公爵令嬢ですね?」
叔父の言葉にまばたきを繰り返した。ガーネット公爵は魔女の末裔だ。
これからが教えを請う相手で、もっと年上の女性だと思っていた。彼女はにこりとほほえむと、スカートの裾を手で持ち、お辞儀をした。
「お初にお目にかかります。グレシャー帝国大公殿下さま。そして、リアム殿下。クレア・ガーネットと申します」
クレアのあいさつは上品で、あまりの可憐さに見とれた。
「クレアさま。これが我が甥です。どうぞ仲よくしてあげてください」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします。殿下」
クレアと視線が合うと、心臓を跳ねあがった。オリバーの外套をつかむと、彼の後ろに隠れた。
「リアム。なにしてる。ちゃんとあいさつをしなさい」
「……ルイス国第二皇子の、リアム・クロフォードです。よろしく」
顔を半分だけ出してあいさつをするリアムを見たオリバーは、自分の頭に手を当て、空を仰ぐと小さく嘆息した。
「クレアさま、申し訳ない。我が甥をよろしく頼む」
彼女はあまり表情を変えることなく、こくりと頷いた。
「庭園で歓迎セレモニーの準備ができております。どうぞ」
リアムたち一行はさっそく会場へ案内された。
「……僕、父さまよりもオリバーに褒められたい」
叔父は、目を見開いた。
「みんなに迷惑かけたくないし、魔力はコントロールできるようになりたい。オリバーがついてきてくれるって言うから、留学するって決めたんだよ」
「リアム、せめてオリバー叔父さんと呼びなさい……」
叔父は注意しながらも嬉しそうに表情をゆるめた。
「これから教えてもらう魔女の末裔クレアさまは、とてもやさしいと聞いている。けれどもしリアムをいじめるようなことがあったら、私が必ず魔女をやっつけてやるからな」
「なにかあってから魔女をやっつけても、遅い気がするけど」
「そうならないように力を尽くすよ」
「……うん、ありがと」
そっと、オリバーに抱きついた。
遠い昔、人はみんな魔力を持ち炎や氷、風や水を自由に操れたという。今は王家やその親族など、ごく一部の者だけだった。
皇帝陛下の父はいつも忙しく、めったに会えない。魔力の扱い方を息子に教える暇がないのならせめて、王弟のオリバーが教えてくれたらいいのにと、大好きな叔父の胸でリアムは思った。
馬車が森を抜けると開けた草原に出た。遥か先にはたくさんの家が並ぶ街が見える。
「うわあ、本当に雪がない。あ、大きな花が咲いてる!」
リアムは飽きることなく、馬車の外を眺め続けていた。フルラ国は色が溢れている。
木々は青い葉をつけ、花々は咲き乱れていた。嗅いだことがない葉の匂いと、耳を澄ませば鳥のさえずりが聞こえる。
城塞の北門から街へ入った。王宮まで続く大通りには、露店がいくつも出ている。見たことがない野菜や果物、調度品が山のように積み上げられていた。
絵本の中で見た楽園に入りこんだみたいで、リアムはずっとわくわくしていた。
しばらく進むと、川にかかった大きな橋を渡った。その先で馬車は停まった。
オリバーに続き、馬車を降りたリアムは目を見張った。
門前には、カラフルなドレスに身を包んだフルラ国の貴族数人と、何十人もの兵士が直立不動のまま整然と並んで待っていた。
豪華な衣装を着た貴族たちの後ろから、十代半ばくらいの女の子が現われた。
「フルラ国へようこそ」
彼女は一人だけ黒いドレスでデザインも質素だった。肌は白い真珠のように内側から光り輝くようだ。腰ほどまで伸びた長い髪は、赤く燃える月を静かな夜が包み込んだような色をしている。
瞳の色は紫。そして赤い唇。耳元には髪色と同じ、炎を閉じ込めたようなガーネット鉱石のイヤリングが揺れている。グレシャー帝国では見たことがない、美しく神秘的な彼女は、夜空に浮かぶ月のようで、リアムは一瞬で目を奪われた。
「お初にお目にかかります。あなたが、ガーネット公爵令嬢ですね?」
叔父の言葉にまばたきを繰り返した。ガーネット公爵は魔女の末裔だ。
これからが教えを請う相手で、もっと年上の女性だと思っていた。彼女はにこりとほほえむと、スカートの裾を手で持ち、お辞儀をした。
「お初にお目にかかります。グレシャー帝国大公殿下さま。そして、リアム殿下。クレア・ガーネットと申します」
クレアのあいさつは上品で、あまりの可憐さに見とれた。
「クレアさま。これが我が甥です。どうぞ仲よくしてあげてください」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします。殿下」
クレアと視線が合うと、心臓を跳ねあがった。オリバーの外套をつかむと、彼の後ろに隠れた。
「リアム。なにしてる。ちゃんとあいさつをしなさい」
「……ルイス国第二皇子の、リアム・クロフォードです。よろしく」
顔を半分だけ出してあいさつをするリアムを見たオリバーは、自分の頭に手を当て、空を仰ぐと小さく嘆息した。
「クレアさま、申し訳ない。我が甥をよろしく頼む」
彼女はあまり表情を変えることなく、こくりと頷いた。
「庭園で歓迎セレモニーの準備ができております。どうぞ」
リアムたち一行はさっそく会場へ案内された。
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