炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

碧空宇未(あおぞら うみ)

文字の大きさ
上 下
23 / 100

陛下の寵姫⑵

しおりを挟む
リ……陛下!?」

 目線が一気に高くなった。彼の両腕が自分の足を支えている。向かい合い、密着した体勢で彼を見下ろす。

 ――た、縦抱っこ……! なんでいきなり?

 リアムはにこりとほほえんだ。

「私の凍える心を温めることはできる」

 顔が、かっと熱くなった。

 ――さっきからなに? 近いし、触ってくるし、抱っこまで!

 ミーシャがパニックになっていると、彼は「身体を反るな、力を抜け。抱きにくい」と、ため息を混ぜながら言った。

「だって、この体勢! 私、子どもじゃないです。下ろしてください!」
「俺の妃は美しい魔女だと、見せつけているだけだ」

 心臓が、ばくばくと高鳴っていた。
 炎を司る魔女なのに、燃えるように熱い身体を制御できない。碧い瞳を細める彼から顔をそらすのがせいいっぱいだ。

「私は、見せつけて欲しいわけじゃありません!」
「ははっ。すごい、必死な顔」

 向けられた眼差しはミーシャを慕うようなやさしいものだった。まるで、師と弟子だったころに戻ったみたいだ。

「陛下、もう十分です。目立ちすぎです!」
「気にするな」
「無理です。気になります。お願い、早く離して」

 リアムは涼しい顔のまま、列席者に向けて声を張った。

「みんなもう理解したな。炎の鳥も、炎の魔女も怖くないと」

 その場にいた人たちは呆気にとられている人ばかりだった。さっきまでの硬い表情がゆるんでいる。納得したようすの者は、次々と臣下の礼をするため胸に手をあて頭を下げていく。
 ノアは一人、満面の笑みで手をあげ、雪と炎の鳥を見ていた。

 みんなの反応に満足したのか、リアムはふっと笑うとまた声を張った。

「私の麗しい寵姫は今日、この地に参り降りたばかりで疲れている。我々はさがらせてもらうが、あとは引き続き心ゆくまで楽しんでいってくれ」

 言い終わったあと、リアムは再びミーシャを見た。そのまま動かない。

「陛下。もういいでしょう? 早く下ろして……」

 こそっと話しかけると、彼は不敵に笑った。

「だめだ。魔女は危険ではないともう少しアピールしよう。どうぞ」
「どうぞって、なに?」
「……鈍いな」

 リアムはわざとらしくため息をつくと、唇の端をあげた。

「俺にお願いをしたいならまず、キスをして。そしたら、この場から立ち去ってやる」

 ミーシャは目を丸めたまま絶句した。

「……アピールは、もう足りています!」
「いや、足りない。それともこのままみんなに見せびらかしたいのか? 俺はそれでもいいが」
「追い打ちかけないで!」

 会場内に白い雪と、炎の鳥からこぼれた火の粉がふわふわと降り続け、きらめいている。

 ミーシャは幻想的な光景に見とれる余裕がなくなった。体温が上がっていく。涸渇している魔力が満ちているのか、それとも……。
 わからない。ただ、彼が本気で言っていることだけはわかった。

「俺は、きみから親愛の証を賜りたい」

 懇願するような瞳を向けられて、心臓がひときわ強く跳ねた。
 手は、身体を支えるためにリアムの両肩に置いている。そっと、彼の襟元を握った。

「……わかりました」

 肘をゆっくりと曲げて、リアムのきれいな顔に近づいていく。せっかくまとめていた髪が乱れて垂れ下がると、カーテンのように自分たち以外の人の視線を遮った。

 朱鷺色の髪のカーテンの内側で、鼻先が触れる距離まで近づいてもリアムの表情は崩れない。自分だけ動揺していて悔しくなった。彼をにらむ。

「キスしたら、下ろしてくださいね?」
「もちろん」
「……こんな、いじわるな人だとは思わなかった」
「冷酷とはよく言われるが、いじわるは初めて言われた」

 リアムの髪は、夜の雪原に浮かぶ、銀色の月の色をしている。さらさらで柔らかいのは昔と変わらない。

 ミーシャは、美しい彼の前髪にそっと、自分の唇を押し当てた。

 冷たい額に触れた瞬間、熱が彼に伝わっていく。
 親愛の証のキスなのに、クレアだったころとは違う感情が、胸の奥から湧いてくる。

「いじわるだけど、あなたは冷酷じゃない。やさしい、氷の皇帝です。あなたのことは私が、……必ず守ります」

 ミーシャは心から、リアムに笑いかけた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。 月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。 ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。 けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。 ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。 愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。 オスカー様の幸せが私の幸せですもの。 ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...