炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

碧空宇未(あおぞら うみ)

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新しい侍女

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「お初にお目にかかります。ユナと申します」
「サシャでございます」

 部屋に入ってきたのは、二人の侍女だった。ライリーよりも少し年上のようだ。硬い表情のまま、ていねいにお辞儀をした。

「ユナとサシャ、これからお世話になります。よろしくお願いします」

 ミーシャが頭をさげると、二人は驚いていた。お互いの顔を見て少し困惑している。

「ミーシャさま、いつも言っているでしょう。侍女に敬語はいりません」

 ライリーにこそっと注意されて、苦笑いを返す。
 身分を隠して街をうろついていたミーシャは、初対面の相手にはまず敬語を使っていた。その癖がつい出てしまった。

「今は二名だけですが、すぐに増員をいたします。しばらくは不便をおかけしますが、お許しください」
「私にはライリーもいますし、侍女はそれほど必要ありませんよ」

 薬の調合は危険を伴うこともある。人が多いと逆に不便だ。

「この部屋はそういうわけにはいきません。人員配置もありますし、陛下のようすも気になるので私もこれでさがらせていただきます」
「ジーンさまお待ちください。一つだけ、よろしいですか?」

 部屋を出て行こうとする彼をミーシャは引き留めた。

「陛下が、炎の鳥を欲したら、すぐに知らせてください」

 リアムの体調について知っているのは一部の者だけ。
 言葉を伏せて伝えたが、ジーンにはちゃんと伝わった。彼は目を細め「かしこまりました」とほほえんだ。

「では、さっそく準備に取りかかりましょう」

 ジーンがさがると、ライリーがきびきびと動きだした。彼女は衣装部屋の中へ入るなり、歓喜の声をあげた。

「ミーシャさま、見てください! すごいです。豪華です! すてきなドレスがいっぱい。装飾品もたくさん。……よだれが出そうです!」
「よだれはやめて……」

 ミーシャも中をのぞいた。
 部屋の真ん中、一番目につくところには、星空を思わせる黒に近い紺色のドレスがあった。裾に向かうほど小さな宝石がたくさん散りばめられている。

「そちらのドレスは陛下がお選びになったドレスです」

 ユナの説明のあとに、サシャが口を開く。

「イヤリングとネックレスは、よかったら陛下の瞳の色に近い、サファイアをお勧めいたします」

 ミーシャはユナとサシャに笑みを向けた。

「すてきな提案ね。ありがとう」
「ミーシャさま、今日は思いっきり、飾りたてますからね。覚悟してくださいね!」
「わかってるわ。ライリー」

 前世のときから自分を飾りたてるのが好きじゃなかった。だけど、今夜ばかりはしかたがない。ミーシャは苦笑いを浮かべつ つ、頷くしかなかった。

「ユナとサシャも、支度を手伝って?」
「はいっ」
「かしこまりました」
 
 ユナはドレスを、サシャは身につける装飾品のチェックをはじめた。

 お花の香りがする風呂で汗を流したあと、ライリーが髪を結い上げた。左側の襟元だけ一房、残してたらす。シンプルなお花のヘアドレッドを乗せて完成だ。

 質素に目立たないように生きてきた。ミーシャとして自分を飾りたてるのは初めてで、鏡に映る自分を見ていると、なんだか落ち着かなくなった。

「ミーシャさま、長旅と支度でお疲れですよね。遅くなって申しわけございません。軽食と、お茶をお持ちしますね」

 ユナがぺこりと頭をさげる。サシャもミーシャのもとへ来た。

「私は、片付けをしますが、ご用があればお声かけくださいませ」

 ミーシャはてきぱきと動く二人を眺めた。
 ユナとサシャは優秀だとすぐにわかったが、人手不足でばたついている。手伝おうと何度かしたが、ライリーに断られた。

 ――陛下の婚約者に、侍女二人だけは少なすぎる。きっと、サシャとユナ以外は魔女を恐れてやりたがらなかったのね。

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