15 / 100
陛下の外套⑵
しおりを挟む
「抑止力。隣国カルディアに、攻められないようにですよね」
「そうだ」
「戦争を避けるために、流氷の結界が必要なのはわかっております。ですが、凍化病を発症するほどの大きな魔力が必要ならばやめるべき。陛下は、尊い存在だからです」
思いが伝わるように、リアムの目をまっすぐ見て伝えた。
「広大な国土すべての川に魔力をそそぐのは、さすがにやりすぎです。どうしても結界が必要というのなら一部だけにするとかはどうですか?」
リアムは、視線を窓の外に向けた。
「グレシャー帝国には北に高い山脈があり、その麓に帝都クロフドと氷の宮殿がある。上流のここから魔力をそそぎ下流へ、国全体へ伝っていくことで結界を発動させている。たとえば、他国と接している国境付近だけに結界を張るなど、一部だけはできない」
「そうですか……。仰るとおり、魔力をたくさん持つ陛下しかできない。ですが、冷の耐性を超えるのはやはり賛成しかねます。私のように、炎の鳥など、他から補うのがよろしいのでしょうが、陛下より魔力が備わっている者は存在しないでしょう。困りましたね」
「魔力の補助なら、すでにしている」
ミーシャは、「え?」と驚いて聞き返した。
「氷と雪の精霊が、力を貸してくれている。だが、それでも凍化病の進行は止まっていない」
「魔力が相当必要なんですね」
リアムは、自分の身体がどうなろうがおかまいなし。あらゆる手段を用いて結界を維持しているということだ。
直接説明を聞き、流氷の結界を自分の目で見て正解だった。ただ、思っていた以上に打つ手がない。どうすればいいのかはすぐにいい案が浮かばず、ミーシャは頭をかかえた。
――冷の耐性を超えて凍えてしまわないように温める。今は、それしか方法がない。
「少し、考えてみます。治療、というか魔力消費をしない方法が浮かぶまでは、炎の鳥を呼んで、お渡しする対処療法を続けましょう。薬草とかも色々と試してみたいと思いますのでご協力をお願いします」
「令嬢。万が一、治療がうまくいかなくても、気に病むことはないからな」
どの薬草を使ってみようかと、あれこれと考え込んでいたミーシャは顔をあげた。
「公爵令嬢。あなたが俺を心配してここまで来てくれたことには感謝する。だが、前にも言ったが俺は、生きながらえようとは思っていない」
胸に、殴られたみたいな痛みが走った。彼をきっと睨む。
「陛下のその考えも、改めていただきます」
強い口調で言い返すとリアムは目を見開いた。
「俺に指図するというのか?」
十歳年上の成人した男性、しかも皇帝であるリアムにすごまれて、正直怖い。しかし、元師匠のプライドにかけて、怯まずに見返す。
「誰がために、自らを犠牲にしようとする陛下はとても立派で尊敬いたします。ですが、限度というものがあります。陛下に負担を強いてまで救われてたとして、みんなが喜ぶでしょうか?」
「だが、王家の俺がやらねばならない。甥のノアにはさせられない。帝国の民すべてを守れるのなら、この身体がどうなろうとかまわないんだ」
リアムは炎の鳥を空中へ手放すと、立ちあがった。
「令嬢は病の緩和と、魔女の印象を良くするように務めてくれるだけでいい。春になれば国へ帰ってもらう」
それはつまり、用がすめば帰れということだ。
フルラには戻る。だけどそれは、リアムを治してから。
「陛下、おかけになってください。まだ治療の途中です」
「もう十分温まった。俺は執務に戻る。令嬢は夜のお披露目パーティーまで休まれよ」
「まだ不十分です、陛下!」
リアムは制止を無視して、そのまま部屋を出て行った。
――根気よく研究するのは得意よ。たとえリアムに嫌われようとも、しつこく治療方法を探してやる!
「そうだ」
「戦争を避けるために、流氷の結界が必要なのはわかっております。ですが、凍化病を発症するほどの大きな魔力が必要ならばやめるべき。陛下は、尊い存在だからです」
思いが伝わるように、リアムの目をまっすぐ見て伝えた。
「広大な国土すべての川に魔力をそそぐのは、さすがにやりすぎです。どうしても結界が必要というのなら一部だけにするとかはどうですか?」
リアムは、視線を窓の外に向けた。
「グレシャー帝国には北に高い山脈があり、その麓に帝都クロフドと氷の宮殿がある。上流のここから魔力をそそぎ下流へ、国全体へ伝っていくことで結界を発動させている。たとえば、他国と接している国境付近だけに結界を張るなど、一部だけはできない」
「そうですか……。仰るとおり、魔力をたくさん持つ陛下しかできない。ですが、冷の耐性を超えるのはやはり賛成しかねます。私のように、炎の鳥など、他から補うのがよろしいのでしょうが、陛下より魔力が備わっている者は存在しないでしょう。困りましたね」
「魔力の補助なら、すでにしている」
ミーシャは、「え?」と驚いて聞き返した。
「氷と雪の精霊が、力を貸してくれている。だが、それでも凍化病の進行は止まっていない」
「魔力が相当必要なんですね」
リアムは、自分の身体がどうなろうがおかまいなし。あらゆる手段を用いて結界を維持しているということだ。
直接説明を聞き、流氷の結界を自分の目で見て正解だった。ただ、思っていた以上に打つ手がない。どうすればいいのかはすぐにいい案が浮かばず、ミーシャは頭をかかえた。
――冷の耐性を超えて凍えてしまわないように温める。今は、それしか方法がない。
「少し、考えてみます。治療、というか魔力消費をしない方法が浮かぶまでは、炎の鳥を呼んで、お渡しする対処療法を続けましょう。薬草とかも色々と試してみたいと思いますのでご協力をお願いします」
「令嬢。万が一、治療がうまくいかなくても、気に病むことはないからな」
どの薬草を使ってみようかと、あれこれと考え込んでいたミーシャは顔をあげた。
「公爵令嬢。あなたが俺を心配してここまで来てくれたことには感謝する。だが、前にも言ったが俺は、生きながらえようとは思っていない」
胸に、殴られたみたいな痛みが走った。彼をきっと睨む。
「陛下のその考えも、改めていただきます」
強い口調で言い返すとリアムは目を見開いた。
「俺に指図するというのか?」
十歳年上の成人した男性、しかも皇帝であるリアムにすごまれて、正直怖い。しかし、元師匠のプライドにかけて、怯まずに見返す。
「誰がために、自らを犠牲にしようとする陛下はとても立派で尊敬いたします。ですが、限度というものがあります。陛下に負担を強いてまで救われてたとして、みんなが喜ぶでしょうか?」
「だが、王家の俺がやらねばならない。甥のノアにはさせられない。帝国の民すべてを守れるのなら、この身体がどうなろうとかまわないんだ」
リアムは炎の鳥を空中へ手放すと、立ちあがった。
「令嬢は病の緩和と、魔女の印象を良くするように務めてくれるだけでいい。春になれば国へ帰ってもらう」
それはつまり、用がすめば帰れということだ。
フルラには戻る。だけどそれは、リアムを治してから。
「陛下、おかけになってください。まだ治療の途中です」
「もう十分温まった。俺は執務に戻る。令嬢は夜のお披露目パーティーまで休まれよ」
「まだ不十分です、陛下!」
リアムは制止を無視して、そのまま部屋を出て行った。
――根気よく研究するのは得意よ。たとえリアムに嫌われようとも、しつこく治療方法を探してやる!
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中

婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる