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もう一つの手段と強襲

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 中から急いで取り出した鍵を穴のない手錠に当てようとした時だった。

「いけない子だな君は。まだそんな手札を残していたのか。授業での冴えない点数はやはり目眩しか。中々の策士じゃないか」
「くっそ! 離せっ、それを返せ!」

 後少しだったのに鞄も鍵も取り上げられて遠くに放られてしまった。部屋の壁に当たって角で止まる。また次の手を考え無ければならない。

 ——いっその事ここから切り落としてしまえばいい……。

 調理場に向かって走ろうとした所で腕を掴まれてソファーの上へと投げられる。

「う……、う」

 木製の手すりに後頭部をぶつけてしまい、脳が揺れた衝撃で酷い眩暈がした。

「あまりにも悪ふざけが過ぎるようだね。アルフレッド君だけではなく、君の希望はここで全て摘んでしまおうか。私にとっても多少の痛手ではあるが、まあ致し方ないだろう」
「な、に……する……気、だ」

 近付いてくるメガルト公爵から距離を取ろうにも、視界が回っていて動けもしなかった。
 何とか身を捩って、ソファーの上から滑り落ちるも、すぐに引き上げられる。

「一度仕込んだ物を回収するだけの話さ。子宮ならまた作れば良い」

 戦慄が全身を駆け抜けた。

 ——狂ってる。

 どんな思考回路をしていればここまで残酷になれるのか理解が出来ない。
 止めていたボタンごとシャツを引き出される。ズボンも下履きと一緒に太ももまで下ろされた。

「離せ! やめろ! 誰か……っ!!」
「ここには君の味方は居ないよ」

 下半身を外気に曝け出される。

「随分と綺麗な色をしているな。女の経験はないか」
「あんたに、関係、ない!」

 正面から思いっきり睨みつけた。

「ふむ。もうすぐ主人になる私をあんた呼ばわりとはな。躾甲斐がある。そうそう、私の使う手術用器具はこの人差し指なんだ。最後まで気絶しないで楽しませてくれ」

 言葉と共にメガルト公爵の人差し指が異様に伸び始めて先端が刃物のように尖った。
 臍の下を人差し指で何度もなぞられて悪戯に遊ばれた。その度にヒリヒリする痛みが走りぬける。

「ヒッ、嫌だ。離せ! やめて、くれ……っ」

 グッと指を押し当てられ、食い込む度に発する痛みに目を瞑ろうとした瞬間だった。
 壁を破壊して現れた黄色の稲妻が、真横からメガルト公爵の体を掻っ攫うように突き抜けた。

 ——これ、アルフと創った雷龍!?

 直後にホールからも凄まじい破壊音が聞こえてきて、思わず身を竦ませる。
 まるで大きな鉄球を屋敷にぶつけているような音と振動がここまで伝わってきた。
 グルル、と獣が喉を鳴らす声もしている。

「魔獣だ! 早く逃げろ!」
「どうしてこんな所に大きな魔獣がいるの⁉︎」
「何だあの大蛇みたいな生き物は!」

 パニックになっている来賓客の悲鳴や逃げ惑う声が聞こえてきた。
 現れた魔獣は迷いもせずにこちらにやってくる。
 今は打つ手なしだ。魔獣が振り上げた腕に潰されるのを覚悟して目を閉じたものの、いつまで経っても衝撃が来ない。
 こちらの体が空に浮く程の振動ばかりが伝わってくる。それどころかフワリと体を持ち上げられた。

「エド! 遅れてごめんね!」

 弾かれたように目を開けると、アルフレッドに横抱きにされていた。

「アルフ! アルフ、生きていて良かった!」
「うん、何とか。あの子に助けられちゃったけど」

 視線の先には魔獣がいる。しかも見覚えがあった。大学院に居た時に襲いかかってきた魔獣だ。怯えているだけだったのが分かったので、治癒魔法を施して森の中に帰したというのに、どうしてここにいるのだろうか。

「何だお前、死んだんじゃなかったのか。あの怪我でどうやって生き延びた? それにしても素晴らしい肉体じゃないか!」

 ——死んだんじゃなかったのか……て、まさか……。

 魔獣からの追撃を受けながら、メガルト公爵の目が輝いている。己の死すら楽しめる根っからのサイコパス加減についていけない。
 慌ててホール内を見渡す。来賓客は全員外に避難しているようで、ホッと胸を撫で下ろした。
 また大きな音が響く。二階部分から屋敷全体が崩れ落ちてきている。

「メガルト公爵様!」

 駆け寄ってきたお抱えの魔法師三人が魔獣に攻撃を仕掛ける。

「うちの家族の闘いに手を出さないでくれる? 代わりに俺が相手してあげるよ」

 アルフレッドが大声を上げた。下におろされて背後に匿われる。脱がされかけていた服を急いで着直した。

「ちっ、クソガキが。そこを退け!」
「だっからさー……何度も言わせるな! 俺の家族に手を出すなと言っている!!」

 いつものちゃらけた喋り方でも緩い表情でもないアルフレッドを見るのは初めてで、つい食い入るように見つめてしまった。

「ογπιίΰν ίνάβκι&ηδκιξ νκάν!!」 

 雷龍が大きな口を開けながら上から降ってきたのと同時に、音として認識できない獅子の咆哮が攻撃魔法へと変わる。
 上からは電撃、前方からは見えない壁に正面から激突され、男たちの体は屋敷の外まで物凄い勢いで飛ばされていった。その後で、雷龍の追撃が落ちて大量の水に変わっていく。

 ——いつの間に雷龍を使いこなせるようになったんだ……。

 唖然として見つめた。

「あ、そろそろ魔法力ヤバい?」 

 途端にアルフレッドが両膝をつく。
 さっきは正面からしか見ていなかったが、アルフレッドの背中と腰に刺されたような傷があった。滴り落ちる血液の赤が床に広がっていく。

「アルフ……っ、何で治癒魔法をかけていない? 大丈夫か!?」
「あは、バレちゃった。魔法力量を少しでも持たせておきたくてそのままにしてた。雷龍出したかったから、賊に襲われた時に途中で貝殻使っちゃったんだよね」
「待ってろ!」

 眩暈でよろけながらも、落ちていた鞄と鍵を取りに走った。
 


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