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希望と絶望
しおりを挟む「僕は…………、アルフと一緒に居たい」
一度口にしてしまえば、言葉も止まる事なく溢れ出てきた。
「お前と一緒に、色々な……所に行きたい」
「うん」
これから先は本当に言葉にしていいのか戸惑う。
それでも、アルフレッドが急かさずに待っていてくれるから、応えたくてまた口を開いた。
「どうせ死ぬなら……、お前と居たい。好きだ、アルフ」
「うん、俺も好きだよ」
「もう諦めるのは……嫌だ。自分の本当の気持ちを殺すのも嫌だ。ほんの僅かしか生きられないけど……っ、どうか僕を連れ去って……くれないか?」
つっかえながらも言葉にした。
メガルト公爵に仕組まれた出会いだったとしても、惹かれ合う事すら計算されていたのだとしても、計画された必然から得たのは抱えきれないくらいの希望だった。
隙間を埋めるように惹かれ合う……。
本当にその通りだと思う。メガルト公爵に言われた言葉の中で、その部分だけは共感出来た。
己とアルフレッドは違うようでいて、何かを渇望して飢えている。
互いに隠し持っていた異なったピースが一致するとあっという間に世界が完成した。
「愛してるよエド。明後日の夜八時半頃になると思う。約束通り攫いに行くから待ってて。遅れても、例え何があったとしても、必ずエドの所に行くから俺を信じて」
「うん。アルフを信じてる」
誓いの口付けが降ってきた。
***
披露宴はメガルト公爵邸で行われた。
パーティー用に作られたホールは人族だけではなく、他種族も入り混じり賑わっている。
立食形式でアルコールや食事が提供されている中、今回の主役である筈のエドウィンは一人で専用バーの椅子に腰掛けていた。
掛け時計を見上げて時間を確認する。時刻はもう夜の八時半を少し過ぎていた。
アルフレッドが約束を破るとは思えない。だとすれば何か予期せぬ事態になっているのだと容易に想像出来た。
——アルフ……っ!
無事でいて欲しい。ギュッと目を瞑り、怖くて震える手をそれぞれ握りしめる。
「主役がそんな顔をしていては皆が心配するぞ、エド」
「僕をその愛称で呼んでいいのはアルフだけだ!」
睨みつけると、引き攣った笑い声をあげてメガルト公爵が肩を震わせた。
一頻り笑った後に、背筋が凍りつきそうなくらいに冷たい笑みを浮かべられる。
「例えばの話をしようか。招待された会場へ向かっている途中に、何処ぞの賊から攻撃を受け、攻め入られたらどうなると思う? 魔法師は魔法力を封じられると何も出来ないだろう? 今の君のように……。私ははじめに言ったではないか『来られると良いんだがな』と」
その言葉にこれ以上開かない程に目を開いて、唇を引き結ぶ。
「あんた……アルフに何をした?」
「私は何も。ただ彼の首に多額の懸賞金をかけただけさ」
「ふざけるな!!」
頭に血がのぼりすぎてどうにかなりそうだった。気がつけば思いっきりメガルト公爵を突き飛ばしていた。
「きゃっ」
「公爵様、大丈夫でございますか?」
「公爵様!!」
「何て事をしてるの、エドウィン!! 今すぐ謝罪なさい!」
義母の金切り声が頭に響く。
「酷い事をしているのは……一体どちらですか……」
声が掠れて消える。
アルフレッドの事を思うと涙が止まらなかった。
財も地位も名誉も持つ大人ほど怖いものはない。何も出来ずに待つしか出来ない自分が余りにも情け無くて、唇を噛み締めた。
「ああ、良い良い。単なる夫夫喧嘩だ。お騒がせしてしまい申し訳ない。ほらエドも皆様に説明なさい」
「悪ふざけが……過ぎてしまい、申し訳……ございませんでした」
足早に自分の控室として与えられた部屋へと向かい、鞄を開けた。
いくら認識阻害魔法をかけているとはいえ、そのまま実家に置いておくと誰かに気付かれそうで、荷物は持って来ていた。
自分でかけた認識阻害魔法が災いして視覚でとらえる事は出来ないが、この中にあるのは分かっている。
——アルフを助けに行かなくては……っ!
頭をフル回転させて何か策がないかと逡巡する。
——駄目だ、落ち着け。落ち着いて良く考えろ。
何度も自分に言い聞かせて、顔を上げる。
「そうだ……貝殻」
自分の魔法力を込めているのなら、呪文を唱えながら貝殻を開くか壊せば良いのではないか? 何故その発想に今の今まで至らなかった?
自分の遥か想像の上をいっていたメガルト公爵に追い詰められ、まともな思考回路と精神状態じゃなかった。
鞄の中に両手を突っ込んで熱源を探る。
もっと自分を落ち着かせる為に大きく息を吸った。
開くのは無理そうなので破壊しようと上から拳を叩きつける。手に痛みが走った瞬間、縮小と認識阻害魔法の解除呪文を唱えた。
「ήάιήΰηηάοδκι」
パッと小さな光が白く輝き、鞄の中に荷物が現れる。
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