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初めから自由なんてなかった

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「その個体は獣人族との子を産んでからは随分と弱ってきたから人目につかない所へ捨てに行かせた。子はキメラとしての優れた要素も、獣人族としての身体機能も優れた魔法力も何も持たない通常の人族だったからこちらにも興味を失ってしまってね、施設の前に捨てたんだ。引き取ったのがクラーク家だった」

 ——クラーク家って……。

 この家には子は己しかいない。

「まさか……」

 さっきまでとはまた違った意味で心音が激しくなっていく。

「そうだよ。君がその時の子だ。もしかして君は自分が皆と同等価値で扱われるべき人間だとでも思っているのかい? 先ずそこから勘違いしている。君は単なる私の実験対象であり、金で売買される家畜以下だ。今回の話は、元々私の物だった君を回収するというだけの話さ。婚姻関係は建前上として必要だけどね。私が本当に欲っして実験対象としているのは君の体と脳だ。だから出来るだけ早く若い状態で君が欲しかった。イメージ力が必要不可欠な魔法師は、常人と比べて脳の側頭部が大きく発達している。視覚情報と記憶情報を組み合わせる事によってもたらされたイメージを、そのまま具現化して意のままに操れるのが君たち魔法師だ。特に君はその才能がずば抜けている。本屋で君と再会した時、人族でありながら高すぎる程の能力を有しているのを知って運命を感じたよ。人族は他の種族と比べて魔法師としての能力はどうしても劣ってしまうからね。なのに君は違う。DNA遺伝子が何処かで突然変異したのか、赤ん坊の時とは違って人族の能力を飛躍的に凌駕していた。それからは君以外には一切興味がなくなってしまったよ。どうして捨ててしまったのか、生まれて初めて後悔という念を抱いたくらいだ。ああ、君のその腹にいる子も別だよ。獣人族の王族……それもアルビノと呼ばれるレア種との子なら、私の研究対象だから大歓迎さ。獣人族は多胎で生まれてくる。彼との子なら、私の息子たちとして喜んで迎入れよう。病院も手配するから安心して産みなさい」

 闇夜に浮かぶ三日月を横向きにしたような目を向けられる。口元にも嫌な笑みが刻まれ、全身に鳥肌がたった。

 ——何を言っているんだ、この男は……っ。

 悪意を向けられていないのに怖いと思ったのは初めてだ。
 こちらを敵と認識して襲ってくる魔獣の方が可愛く思える。

 ——初めっから全ては仕組まれていたのか。

 何も言えずにただただメガルト公爵を見つめた。焦燥感は宥められる事なく、更に追い討ちをかけられていく。

「その顔は何故自分が妊娠しているのかも分かっていないようだね。ついでだ。そこも説明しようか。私が君の中に子宮を作るように指示したのは、君がミドルスクールの頃だ。刻印を受けた時に出た熱で、意識が朦朧としていて気が付いていなかっただろう? 更に付け加えて説明すれば、アルフレッド・ティルバーン君と惹かれあったのも、単なる偶然だとでも思っているのではないか? 君たちは全く似ていないようで中身は何処か似通っている。互いに欲している物が同じだからだろうね。関わり合いを持つように引き合わせさえすれば、欠けた隙間を埋めるように勝手に惹かれ合うと思っていたよ。全ては計画通りだ」

 ——まさか……、まさかアルフも実験対象なのか!?

 目の前にいる男から即座に距離を取った。
 到底人とは思えない言動に、精神力を削られ判断力をも鈍らされている。
 アルフレッドと同じクラスなのも? 図書室で出会った時の相手は誰だった? もしかして写真をばら撒いていたあの男か? メガルト公爵と繋がっている?
 今日は勘案し過ぎて頭痛が酷い。
 アルフレッドとの事さえも手のひらの上で転がされていた。
 見透かされて遊ばれている。「馬鹿な奴ら」だと笑われ、実験対象として第三者を雇われてまで観察されていた。

「エドウィン! 貴方妊娠ってどういう事なの!?」

 義母に問い正されるが耳を素通りしていく。

『エドが、自分を大切にしないから』

 ——お前の言った通りだ。

 アルフレッドが自分の為に泣いた理由が身に染みて理解出来た。
 どうしてこんな理不尽を今まで受け入れていられたのだろうか。人を人とも思わない人達の所から早く逃げ出していれば良かった。

『代わりに俺がエドを大切にしたい』 

 アルフレッドの言葉を思い浮かべる。大切にしてくれていた唯一の人を自分から捨ててしまった。

 ——僕が馬鹿だった。何もかも間違えていた。

 沸々と湧き上がってきたのは、アルフレッドに対する申し訳なさと、公爵と義母と己に対する怒りと反発心だった。

「エドウィン! 何とか言いなさい!」
「黙れ! もうアンタを親とは思わない!」

 ——早く伝えなければ。アルフに逃げるように伝えなければ……。

 こちらの思考を読んだようにメガルト公爵が口を開いた。

「そうそう。披露宴は急遽来週末に行う事にしたよ。勿論、獣人族の彼にも招待状を送っている。来られると良いんだがな。それまで君は大人しくしているといい」

 こちらが動く前に、到底人族とは思えない程の俊敏さで手首に手枷をかけられしまった。
 メガルト公爵の身体能力は、その年齢に見合わないどころか人としての機能を逸脱している。
 もう一度魔法力を最大出力にして壊そうと試みたが、全く壊れる気配がない。

 ——これって……。

「今の君に合わせた魔法力制御装置だよ。この手枷をしている間、君は魔法師ではなく、単なる常人になるんだ。これを外さない限り魔法は使えないよ。私は自分の脳も弄っていてね、人としての能力値を最大限にまで引き上げている。話は以上だ。次は披露宴で会おう。明日の朝十時に御用達にしている職人たちが君の服のサイズや装飾品の最終確認の為にここに来る。準備していなさい。逃げようとしても無駄だよ。この家の周りには私が雇ったSPが警備にあたり、魔法師が結界を張っているからね」

 上質な靴の音を響かせて、メガルト公爵が真横を通り過ぎていく。自分が誇れる唯一の武器を奪われてしまい、その場で呆然と立ち尽くす。
 義母が煩く喚きたてているのも全て無視して、何拍かの間を開けてから自室に戻った。


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