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楽しい日常が崩れ去る時

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「そうだよね。観賞用に一匹欲しいな」
「やめてくれ」

 情緒もへったくれも無い。
 アルフレッドに文句を垂れながらも足を動かし続けている内に、観光エリア内にある商業施設がたくさん並んでいる場所に出た。
 寒色系の色合いで纏められたショップは目に鮮やかだ。
 外観も丸と三角が混ざったりと、アンバランスに組まれた見た目が物珍しい。

「ショップ内も珍しいのばかり置いてるから見に行こうよ」
「行く!」

 好奇心を隠さずに頷くと微笑まれた。
 スタッフも髪型から髪色、服装までもが寒色系をメインに取り入れたレインボーカラーで纏められている。
 アシメントリーで切り揃えられたりと奇抜な髪型の人ばかりで、髪も目も真っ黒の自分が珍しいのかやたら声をかけられた。
 滑らかさを交えつつも止まる事のない説明には疲れてしまい、アルフレッドの服を掴んだ。

「ふふ、ごめんね。この子には俺が案内して回りたいから遠慮してくれる?」
「は、はい! 出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございませんでした!」

 アルフレッドは顔が良いだけに、外向けの笑顔効果は絶大である。
 店員は小走りにレジに戻って行き、訪れた別の客の対応をしていた。

「お前……伊達に良い顔をしてないな」
「感心するとこそこなの? まあ、エドが俺の顔が良いって思ってくれてるだけで嬉しいけどね」
「言葉を間違えた。無駄に顔が良い」
「無駄ってとこはいらないかな?」

 会話をしながら色々小物や雑貨に視線を向ける。
 貝殻や珊瑚の形をした白い小物を見つけてしまい、貝殻のほうを手に取った。
 ちょうど片手で握り込める掌サイズの大きさだ。裏側にMP五千と書かれている。

「アルフ、これは何だ?」
「それはね魔法力を溜めておける畜力機だよ。裏側の数字が最大畜力数を指してる。魔法力を全く使わない時に使うんだよ。この小物の蓋を開いて魔法力を流していくと吸い込んでくれる。そうやって貯蓄していくの。開くか壊すかすれば魔法力が逆流してくるから自動的に魔法力を自分に戻せる。だから皆いざという時の為に持っている場合が大きいかな。それじゃ器の容量が小さいから、エドはこっちにしなよ」

 パールにも引けを取らない輝きを放っている貝殻型の畜力器を手に取って渡される。裏側にはMP十万と書かれていた。

「エドならまたこれからも容量が増えそうだし大きければ大きい程良いと思う。俺も同じやつ買おうかな。お揃いにしよ?」

 流れる様な動作で支払いを済ませようとするので、慌てて服を掴んで引きとめる。

「アルフ! 今日は僕が出すからいい」
「え、あー……でもエドの財布は王宮に置いて来ちゃった。だから纏めて俺が払うね」

 そんな筈はない。財布もmgフォンも入れっぱなしにしていて取り出していないし、その鞄はちゃんと持って来ている。中を探ると本当に財布が入っていなかった。

「アルフ……お前態と出したな?」
「何の事? はい、買えたよ。じゃあ次行こ!」

 手を繋がれてまた次のショップへと移る。
 結局、食事から買い物までまたアルフに奢って貰う羽目になってしまった。
 海に通じた水族館で、人魚の歌や華麗な泳ぎを堪能する。上下左右、または斜めといったように泳ぎ方に規則性がない独特なパフォーマンスには驚かされた。
 見惚れていたのも五分くらいの間で、鞄の中から振動が伝わってくる。

 ——何で?

「……ッ」

 思わずアルフレッドの服の裾を掴んだ。
 mgフォンが着信を示して震えている。心臓が嫌な音を立てていた。

 この番号を知っているのは義母とアルフレッドだけだからだ。不必要に電話をかけてくる人じゃない。それだけ己には無関心だ。なのにどうしてかけてきたのだろう。

 ——何の……用だ?

 早く取らなければと思いながらも、体が拒むように指先一つ動いてくれない。

「エド? 着信受けなくて良かったの?」
「あ……ああ。悪い。少し離れる」

 視線も合わせずに、俯いて呟く。

「ん、分かった」

 出来るだけ人の邪魔にならない場所まで走って、防音魔法をかけてから通話を受けた。

「はい……エドウィンです」

 アルフレッドがいる時とは違って、胃の中から何かがせりあがってくるような不快感がある。

 出来れば卒業するまで義母の声など聞きたくもなかった。愛着などない。あるとすれば昔から植え付けられている恐怖心と嫌悪感だけだ。

『エドウィン、貴方今何処にいるの?』

 想像通りの威圧的な声が受話口から聞こえてきて息を呑む。

「少し……図書室で本を読んでいて……時間を忘れて読み耽ってしまいました。通話に出るのが遅れてすみませんでした」

 もしかして気がついていなかっただけで、何回か電話がかかってきていたのだろうか。

『嘘おっしゃい。今大学院の図書室に来ているのよ。もう一度聞くわエドウィン。貴方は今何処にいるの?』

 冷水を浴びせられたようだった。
 心臓が忙しなく動き出し、言葉が喉につっかえて出てこない。
 息をするのも戸惑うくらいの焦燥感に囚われている。

「お義母様……、あの……僕……」

 言い訳しようとすればするだけ言葉を噛んでしまい、口から音が出ていかなかった。

『大学院から連絡があったわ。今すぐ帰っていらっしゃい。貴方いったい何をしているの? あんなに派手な服やアクセサリーまで購入しているなんて……頭が痛いわ。貴方をこの大学院に通わせたのは間違いでした。聞けば、魔法師としての成績もそこまで良いわけでもないようですし、即刻退学していただきます』

 部屋にまで入られている。
 目立たないようにしていた事も裏目に出ていた。


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