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僕を選ぶと後悔するぞ

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「どうだった、エド? 気持ち良かった?」
「最高だった。お前……苛つく。もっと早く僕を楽しませてくれても良かっただろ」

 土の上に寝転がっているとアルフレッドが歩いてくるなり、お尻を浮かせて隣に座り込む。

「んー、それも良いんだけどさ……。あ、そろそろかも」

 しきりに頭を擦り始めたアルフレッドに視線を向けて……そのまま凝視した。

「出ちゃった」

 人族を模した擬似的な耳が無くなり、頭の上に白いケモ耳が生える。
 尾先まで白いフワフワの尻尾が伸びてきて、頬を撫でられると理性が弾け飛んだ。

「僕のモフモフ!」

 飛びかかる勢いでアルフレッドの膝の上に乗って、真っ白な耳に手を伸ばす。

「エドのほうから抱きつかれて嬉しいんだけど、何だろ……ちょっと複雑」
「アルフ……アルフ。可愛い。これ可愛いな。想像していたよりもずっと手触りも最高だ。スベスベなのにフワフワ。……噛みたい」
「噛むのはダメ」

 ムニムニと指先を動かし、柔らかい感触を思う存分に楽しむ。
 尻尾を掴んで毛並みに沿って撫で上げると、アルフレッドの喉が鳴った。

「ほら、こうなるから嫌だ。カッコ悪いし、やっぱり出したくない。魔法力がきれそうになると出ちゃうんだよね。だからエドには黙ってた」

 すっかり不貞腐れてそっぽを向いてしまった顔を両手で挟み込んで、無理やり自分の方を向かせる。

「僕にも勝利の品をくれよ」
「何? 嫌な予感しかしないんだけど……? 先に言っておくけど、何を言われても俺は別れる気ないから」

 結局、勝負は己の勝ちだった。
 魔法師として学べて良かったと思えたくらいの爽快感を味わわせてくれたのが嬉しかったから、地に転がっていただけだ。

「なあ、アルフ」
「何?」
「本当にお前は僕と今のままの関係で良かったのか? 必ず終わりが来るのに怖くはないのか? もしお前の目の前で僕が死んだとしても正気でいられるのか? 断言しても良い……アルフは僕を選ぶと絶対後悔するぞ」

 眉尻を下げて、視線を落とした。

「理屈で割り切れるんならとっくに離れてる。エドの隣に居たいんだよ。どうしようもなくエドに惹かれてる。俺はエドを大切にしたい。一緒に色々な経験を積みたい。また色んなモノを創って遊びたい。エドに何かを教えるのは俺だけでいいし、エドから学ぶのも俺だけでいい。エドの遺体さえもあんな奴に渡したくないよ。エドの為なら、俺は全て捨てられる」

 アルフレッドがここまで覚悟を決めているのなら、自分も覚悟を決めて正面から受け止めてみたい。
 思い出も想いも全部、アルフレッドに捧げて、全てを彼に置いていく。

 ——僕は先に逝くけど、どうかこんな人間もいたのだと覚えていて欲しい。

 それだけで存在していて良かったと思える気がした。

「分かった。アルフレッド・ティルバーン……僕の心も体も全てをお前に捧ぐ。最初で最後の僕の自由をお前の意のままに。僕の勝利の品はそれでいい。あ……モフモフ込みで頼む」

 動揺したようにアルフレッドの瞳が揺れた。

「え……いいの? エド、それがどういう意味かちゃんと分かって言ってる?」
「分かっているよ。分かっているから言っているんだ。あれこれ悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。アルフは僕が居ない方が幸せだと思った。もしそうじゃないのなら、僕も残された時間くらいは、アルフの側に居たいよ。お前の側は楽しいし落ち着く。初めて他人の側が心地良く思えた。今はこの気持ちを大切にしたい。これもお前が教えてくれたんだろ?」

 喉を鳴らして笑うと、アルフレッドが両手で顔を覆って天を仰いだ。

「今日は何処へ連れて行ってくれるんだ?」
「希望ある?」
「せっかくここに来たからアルフの部屋が見たい。魔法力が回復するまでは、のんびりしよう。力尽きた」

 汚れた衣服を叩いて埃を払うと、アルフレッドが目を見開いて固まっていた。

「もしかしてちゃんと手続きとか取らないと王宮には入れないか?」

 問いかけると勢いよく首を振られた。

「違う。俺が居たら問題なく入れるよ。そうじゃなくて……自室に行ったらエドを襲う自信しかない」

 今まで見た事無い程に真剣な表情で言われる。少し考えて、不敵に笑んでみせた。

「お前の意のままに」
「それって……」
「お前が教えてくれるなら嫌じゃない。僕が初めて覚えるものは全部アルフから教わりたい。大風呂も、お泊まりも、手を繋いだのも、デートしたのも、遊んだのも、キスしたのも、その……他も。僕はアルフが初めてだった」

 上体を起こしていたアルフレッドが地に倒れた。

「こら、アルフ。転がるんじゃない。行くんだよ!」

 腕を掴んで引き起こすなり立たせる。

「俺が自室でエドに何しようとしてるのか本当に理解してる? 分かってる? 前みたいな擦り合いっこみたいな可愛いものじゃないよ?」

 いつも勝手に手を繋がれるから、今日は自分から指を絡めて繋いだ。

「僕だって男だぞ。セックスくらいは知っている。アルフに教えて貰った後に、詳しい準備のやり方もちゃんと調べた」
「それは俺が手取り足取り教えたかった」
「全部込みで教えてくれるんだろ?」

 立ち止まってマジマジと見つめられた。
 今日はアルフレッドにしては珍しい表情が多くて面白い。じっくりと観察していると、何拍かの間が空いた。

「え……、本気で言ってるの?」
「お前は冗談だったのか? 真に受けて悪かった。無かった事にしてくれ」
「待って! エド! もうっエド! 俺をこんなに乱すのエドくらいだよ!」

 髪の毛をかき乱して座り込んだアルフレッドの真似をして座り込む。その頭を撫でて髪の毛を整えてやると、突然視界が飛んで何処かの部屋の中に居た。



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