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刻印

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「それ、まさか……魔女の契約刻印!?」
「そうだ。これに刻まれた契約を履行しなければ、僕は死に至る。刻まれていた契約は『婚姻関係を結びメガルト公爵と一生を添い遂げる事。破れば死が訪れる』らしい。ミドルスクールの時に勝手に浮き出て、ハイスクールになって正式に公爵から申し出が来た。自分でも馬鹿みたいだと今でも思っているよ。でもこれは何度消そうと試みても消せなかった。様々な文献も書籍も読んだけれど、どこにも解除方法が載っていない。お手上げだった。この大学院に来れば何かしらの情報が集められるかと思ったが何処にもない。僕にもどうにも出来ない事はある。公爵を選んでも、アルフレッドを選んだとしても、僕に待っているのは死のみだ」

 契約内容を知ってからは絶望しかなかった。なるべく他者との接触を避けて、親しい存在を作らないようにしている。
 アルフレッドを正面から見つめてそう告げると、腕を掴まれていた手の力が弱まった。

「黙っていて、悪かった」

 アルフレッドの手をソッと引き離す。今度こそシャワールームに向かった。
 コックを捻って頭からお湯を被っていると、勢いよく扉を開ける音がして見上げる。

「俺もシャワー使いたいから一緒に入ろう? 時間短縮出来て良いでしょ」
「おい、だからこれはアウトだ!」
「大風呂も入って、一緒に抜いたのに今更気にする?」

 何も言えなかった。
 狭いシャワールームで二人で体を洗って行く。さっさと全身を洗い終わり、先に出ようとするとまた腹に腕を回されて引き寄せられた。

「アルフレッド!!」
「俺が……もっとちゃんと洗ってあげる」
「は? 待て、お前何をしようとしている?」

 一緒にタイルの上に座り込む。
 陰部の奥まった部分に手を伸ばされ、指先で突かれると条件反射的に体が揺れた。

「知ってた? 男同士ってココに挿れるんだよ。ちゃんと中も綺麗にしとかなきゃね。潤滑剤ならこうして水魔法を調整してスライム状にすれば作れるから作ると良いよ。内部も洗うなら、シャワーでぬるま湯を入れて出してと繰り返して」

 生成した潤滑剤を纏わり付かせた指先が食い込んできて、ゾワリと鳥肌が立って体を強張らせた。

「アルフレッド! やめろ!」
「教えるだけだから力を抜いて? 絶対セックスはしないって誓う」
「そうじゃなくて……、んっ」

 後孔の縁取りをなぞる様に滑りを帯びた指でなぞられて、とうとう内部に指が潜り込んでくる。指が出入りする度に音が立って、恥ずかしかった。
 アルフレッドの指先が中の一点を掠めた時に体が大きく戦慄く。腰の奥から快感がせり上がり、下半身が甘く痺れた。

「ん、ぁ、待て……っ、アルフ……レッド!」
「見つけた。ココがエドの感じる場所だよ。覚えときなね。もしあの男に酷く抱かれる時があったら、自分でココに当てな。苦しいのも少しは楽になると思うから」

 教え込むように何度も何度も指で擦られる。

「ふ、あ、っあ……分かった……ッ、分かったから、ん……っ、もう、抜いて……くれ」
「……っ」

 指を引き抜かれた。
 シャワーヘッドを外して、背後で声を押し殺して涙を流すアルフレッドの頭から湯をかける。

 ——バカな男……。

 初めは嫌な奴でしかなかったのに、本当は大切な物をたくさん持っていて、輝かしい世界を心の中に隠していた。

 ——僕の為に泣く、バカみたいに優しい、僕の白い獅子。

 こんな風に惜しげもなく自分を表現出来るアルフレッドが、本当に羨ましくて仕方ない。

「何でお前が泣くんだよ」
「エドが……自分を大切にしないから……ッ、代わりに俺が……、大切にしてあげたい」

 途切れ途切れに言葉を発して、無理やり笑みを浮かべたアルフレッドの顔を上げさせて口付ける。

 ——くそ……っ。

 もう気持ちを誤魔化せそうになかった。
 惹かれる心に比例して別れの気配もやってくるのに、そんなの全てがどうでも良くなってくる。

「エド?」

 戸惑いがちに名を呼んでくる彼が狂おしい程に愛おしく感じて、また唇を重ねた。

 ——アルフが好きだ。

 後頭部に回ってきた大きな手で頭を固定される。
 シャワーヘッドからタイルに湯が溢れていくのもそのままに、ゆっくりと角度を変えてひたすら口付けだけを繰り返して一度離した。
「今度……カクテルを飲む機会があったら、ギムレットが飲みたい」

 顔は見れなくて、また直接気持ちを告げるわけにも行かずに、アルフレッドの首筋に顔を埋めてそれだけ口にする。

「エド、それ……」
「ひっそりと、遠くから想うくらいだったら……っ、許されるだろ。思考回路も心も僕の自由だ」

 肉体に自由はないから、せめて心だけはアルフレッドにあげて、自由でありたいと願う。
 何か言われる前に、口付けでアルフレッドの口を覆う。
 好きになってはいけないと思えば思うほど止められない。
 どうしようもなくアルフレッドに惹かれているのだと、ハッキリと分かってしまった。だから彼を想う気持ちは心の中にしまっておく。

「俺は……っ!」

 アルフレッドの口を手で覆って緩やかに首を振る。

「言うな……。頼むから……言わないでくれ。お前を手離せなくなってしまう。アルフレッド、僕たちはもう……クラスメイトに戻ろう? 今ならまだ、お互い引き返せる。僕と……っ別れて欲しい」

 嗚咽で声が震えた。
 初めて覚えた恋情と涙は、シャワーから降り注ぐお湯と一緒に、全て排水溝へと流していく。

「お前はもう僕に関わらないでくれ。妻だけじゃない……っ、あの男に不信感を抱いた者は全て消されている。もうあの男の事は調べるな。お前が標的にされるのだけは嫌なんだ。勝手な願いでごめん。アルフレッド、どうか無事でいてくれ」

 自由で気高くて、どこまでも綺麗なこの瞳だけは曇らせたくない。それに獣人族と人族の戦争にもなりかね無い。

「お前が大切なんだ……今までありがとうアルフレッド。とても楽しかった」

 アルフレッドが教えてくれたから〝遠い人を想う自由〟だけは、誰にも奪われないように心にしまっておこうと思った。


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