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気付きと体調不良

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「偶にさ、猛烈に朝日とか夕日を見たくなる時があるんだ。そしたらお前の顔が浮かんで、夕食の前に一緒に見に行ってくれるかなと思って呼びに来てみた。でもその子が居たからまたセフレかと思って、そしたらそれがモフモフで……モフモフが僕の……。う、僕のモフモフ……っ」

 心底ガッカリだ。

「とりあえず頭の中をモフモフから切り離そうか?」

 どこか嬉しそうにしているアルフレッドが、ジッとこちらを見下ろしている。

「ロジェが俺のセフレだと思ったから、エドは苛々して泣きそうになってたの?」
「あー……、うん……うん? は?」

 呆然としながら促されるままに肯定しそうになって、やっと気がついた。

「俺にセフレが居たら嫌?」
「っ!」

 ——それじゃまるで僕が妬きもちをやいていたみたいじゃないか。

「え……いや、そうじゃない。え……? 妬きもち? いや、違う。どうしてだ? 悪いアルフ、何でも無い。忘れてくれ。僕はとても混乱している。今すぐ帰って頭を冷やす」

 カタコトの早口言葉で告げた。
 挙動不審もいいとこだ。何故こんなにも焦ってしまうのかも理解不能だった。

「ダメ。そのまま一緒に夕食に行こうよ。時間逃すと自分で作らなきゃいけなくなるよ? エドも料理出来ないでしょ?」
「そうだけど……」

 どうしてこんなに居た堪れないのだろう。
 頭が回らない。気持ちも落ち込み過ぎてて地に埋まりそうだった。

 ——もう取り返しのつかない間違いが起きている。

 ここに来てやっと自覚出来た。

「はいっはいっ! おれも行く! エドウィン君ともっと仲良くなりたい!」

 勢いよく挙手したロジェが会話に入ってくる。

「ロジェとは食事しない。お前食事中うるさいんだよ。エドは食事中に会話するのが苦手だから遠慮して……ていうかマジで帰れって。仲良くもしなくていい」

 語尾がやたら低くなったエドの言葉を聞いて、ロジェが後ろから文句を垂れていた。
 腕を掴まれたまま、一緒にワープゲートを潜って大広間に出る。

「アルフ……やっぱり僕はこのまま帰りたい」

 ——もうダメだ。一緒に居られない。

 気持ちが揺れ動くどころか、指針がアルフレッドに傾いたまま動かない。

 ——これはダメだ。

 固く目を瞑った。

「今は俺といるのが気まずいから?」

 腕を離されて今度は指を絡ませた恋人繋ぎに変えられ、もっと気恥ずかしくなる。顔を俯けたまま上げられなくなった。

 ——心臓の音がうるさい。

「そうだ。だったら何だよ……」

 調子を狂わせられてばかりでどうして良いのかも、どう答えたらいいのかも一々悩んでしまう。アルフレッドとの距離感が掴めなくなってきている。

「前のデートの時にさ、飲んでたカクテルの言葉覚えてる?」
「叶わない想いとかというものか?」
「そう、それ。もしかしたら叶いそうなのかな? って思ったら嬉しかった」

 顎に手を当てて逡巡した。
 あれは互いのカクテル言葉を合わせて、そこから意味を推測するものじゃなかったのか? もっと単純な物? 例えば、単体でそのまま直接意味をあらわす。もしそうだとしたら?
 〝夢中〟〝届かぬ想い〟。

 ——夢中って、僕に? 届かぬ想いは……。

 立ち止まってアルフレッドを見上げた。

「…………」
「な、ん、で、またその表情なのっ!? 俺エドのその顔好きだけどさ、今は確実にその顔するとこじゃないでしょ!」

 繋がれていた手をそっと離す。
 一度視線を落としてから間を空けて、真っ直ぐにアルフレッドを見上げた。

「僕に……婚約者がいるから〝夢中〟になっても〝叶わない想い〟なのか? それなら納得出来る。でも、もし仮にそうだとしたら僕らはもう別れた方がいい。恋人を続ければ続けるだけつらくなる。言っただろ? お前は傷付けたくないって……。僕の未来はもう決まっていて、どうあがいても変えられない。例え僕があの男との結婚が嫌になったとしても、僕がアルフを好きになれたとしても契約は履行されるぞ。僕たちには必然的な別れが必ずやって来るから。アルフは僕じゃなくて、アルフだけを好きになってくれる人を探した方がいい。ごめん。今日はこのまま帰る……ご飯を食べる気分じゃないんだ」
「待ってよ、エド!」
「ごめん〝アルフレッド〟一人にさせてくれ」

 掴まれる前に、普段は使わない転移魔法を使って人族の寮に帰った。
 頭が痛い。気分が悪い。心なしか胸の奥も重い。

 ——アルフと離れるのが嫌だ……。

 ずっと側にいたい。卒業したくない。このまま夢を見ていたかった。部屋に入るなりベッドに転がる。

 ——やめろ、何も考えるな。

 シャワーを浴びるのすら面倒で、億劫な心と体と頭の中を労わるように目を閉じた。






 朝起きたら体中が痛くて熱くて一人で悶絶した。
 この痛みと熱さには覚えがあった。ミドルスクールに通っていた時と同じだ。

 ——熱があるな、これは。

 昨日しんどかったのはこれが原因か、と考えてmgフォンを取り出すなり、画面に額に押し当てる。
 魔法力の安定化や体調管理の為の体温測定までしてくれるのはありがたい。画面に高温度の体温が表示されたのを見て、ため息をついた。
 測定した体温を添付した欠席のメッセージを飛ばすなり、枕元にmgフォンをそのまま放置して目を閉じる。

 ——寒い。アルフの……体温が欲しい。

 意識はまた夢の中に落ちていった。





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