26 / 52
気付きと「ふぁ!?」
しおりを挟む「取り込み中に邪魔して悪い。帰る。さっきのは忘れてくれ」
「待ってエド。誤解してるから!」
「いや、いいよ。その子放っておいたら可哀想だろ」
背を向けて歩き出した所で腕を掴まれた。
「待てって!」
アルフレッドらしくない強い口調に少し驚く。
掴まれた腕を離そうと力を込めるも、全然離して貰えない。それに何故か苛々している。胸の奥が騒ついて仕方ない。
「ねえ、何で怒ってるの?」
「怒ってない」
否、訳の分からない苛立ちと嫌悪感が膨れ上がっている。
しかし、初めて抱いたこの感情をどう説明して良いのかが分からない。また、誤魔化す術も持ち合わせていない。
湧き上がってくる感情は、目を背けたくなるくらいに醜くて、心の奥に澱んで溜まっていく気がした。
「怒ってるじゃん。それに何でそんな泣きそうな顔するの? そんな顔されると期待しちゃうんだけど?」
苛つきが酷くなり、全身を行き渡って行く。
「別にそんな顔はしていない……っ! 離してくれ!」
「嫌だ。絶対離さない」
腕を弾き返そうとしたが、逆にもっと強く掴まれてしまった。痛みに顔を顰めた時だった。
「アルフ……、ふあっ!?」
視界に入って来た物体の破壊力に、妙な声が出た。
アルフレッドの背後から顔を覗かせた男の頭を注視する。
「すみません。いつも兄がお世話になっております。弟のロジェ・ティルバーンです! エドウィン君ですよね? 会いたかったので嬉しいです!」
——兄、だと?
そんな事よりも、男の頭の上でピコピコと動いている丸みを帯びた三角の耳が可愛くてガン見する。
「……耳」
ついさっきまで怒っていたのも忘れ、手を伸ばして両手で耳を掴んだ。
「おれ未熟者なんで興奮すると耳出ちゃうんですよね~」
恥ずかしそうにペロリと舌を出された。
「モフモフ……」
「えーと。エド?」
状況を把握出来ていないような二人の視線がこちらに向いている。
「フワフワ……。か、かわ……」
駄目だ。我慢出来そうになかった。
「かわ?」
「可愛い! 耳、耳がある! 尻尾は? 尻尾もあるのか?」
テンションが一気に上がったお陰で腹の奥がむず痒い。
「ありますよ~」
ユラユラと揺らめく長い尻尾で顔をこそぐられ、あまりのフワフワ加減と気持ち良さに眩暈がした。
これこそ獣人族。こんなにも可愛らしい物を隠すなんて勿体無い。夢にまで見たケモ耳と尻尾が今目の前で顕現している。もう虜だった。
「可愛い」
「エド……」
アルフレッドからの睨むような視線を浴びながらも、全て無視して弟のロジェを抱きしめた。
「……」
「ふはーっ、アルフ兄の顔がマジ過ぎて笑えるっ。ね、羨ましい? おれの事羨ましい?」
ロジェがアルフレッドを指差してケタケタと笑っている。
「ロジェ、本当に邪魔。お前今すぐ帰ってくれない……?」
「弟に妬くなよ。やばい、無い腹筋使ったからお腹痛い。その前に何で廊下? 部屋入らないの?」
——笑い上戸なのは家系なのか。
ケモ耳弟のロジェを愛でる。
「間違いを起こすといけないから中には入らないって決めている」
「間違いって、え……まさかアルフ兄がまだ手を出していないの? 嘘だろ!?」
ロジェがアルフレッドを凝視していた。
出会った当時は無節操なイメージしか無かったから同意見ではある。
「ロジェ黙ってて。次喋ったら尻尾の毛毟るから」
「毟る……っ? こんなに可愛いのにダメだ!」
条件反射的に声を上げると、アルフレッドが額に手を当てて眉間に皺を寄せた。
「エドはちょっと口を閉じてて」
「嫌だ。耳と尻尾……可愛い。噛みたい……これ噛んでみてもいいか?」
「「え? 噛む!?」」
身の危険を感じたのか、ロジェが飛び退いてアルフレッドの後ろに隠れる。
「アルフ……僕のモフモフを返してくれ」
真剣な表情で言うとアルフレッドが項垂れながら口を開く。
「エド、俺も獣人族っての忘れてない?」
「アルフには耳も尻尾もついていない。あったらずっと抱きついたままモフっている」
「え、マジで? 俺も出そうかな……」
「アルフの毛は柔らかさ加減がとても好ましいからな。むしろ僕は触ったまま存分に愛でたい」
「それいいかも」
剣呑とした空気が消え、アルフレッドの周囲に花が飛ぶ。
元々の毛並みも上質な絹糸みたいなのだ。これが耳と尻尾に反映されるとなると、触ると物凄く気持ち良さそうなのに……残念過ぎる。
「ふはーーーっ、アルフ兄がっ、尻に敷かれて……ッいる! まさかの展開!!」
笑い過ぎてロジェが倒れた。アルフレッドが無言でロジェを踏みつけている。
「まあ、それは冗談だよ……ていうか、ついてないのは当たり前。俺たち獣人族にとって耳と尻尾を出すのは、前も言ったように自衛の意味もあるけどさ、その前に丸裸で歩いてるようなものだからね。魂現化って呼ばれてる。ロジェは未熟者だからたまにこうして出ちゃうだけ。普段は俺みたいに隠しているよ。ほら、見て?」
立ち上がってアルフレッドの後ろから顔を出したロジェが、色素の薄い茶色の髪の毛を覗かせた。もう耳も尻尾も無くなっていたので落胆を隠せない。
「僕のモフモフは居なくなったから帰る……」
迷いなく背中を向けて廊下を歩き出すと、慌てて追いかけてきたアルフレッドに腕をとられた。
「待って、待って。ねえエド。今日はどうしてここまで来てくれたの? 俺的にはエドから此処に来てくれたのが凄い嬉しかったんだけど?」
本来の目的を思い出して外に視線を向ける。もうすっかり陽が落ちていて夕日は見えなくなっていた。
代わりに大きな月が空に浮かび始めている。
これはこれでアルフレッドみたいで綺麗だが、今回の目的は夕日だったので気持ちが萎んだ。
20
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
[BL]王の独占、騎士の憂鬱
ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕
騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて…
王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
龍神様の神使
石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。
しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。
そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。
※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる