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夜遊びと気付き

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「アルフ、これ箒よりも怖くないから最高だ!」
「だね! 動きも滑らかだし、操りやすい。めちゃくちゃ良い!」

 それから夜空を駆け回り、魔法力が尽きるまで遊び通した。
 あまりにも楽しくて時間の経過を失念していたのに気がついたのは、ワープゲートの前まで行ってからだった。
 通り抜けようとしても、うんともすんとも言わない。

「マズイ……時間忘れてたね」
「僕もだ。うっかりしていた」

 ここは人族の寮なので己は部屋に行けるが、アルフレッドは帰れない。
 自分から誘っておきながら野宿させるのはさすがに可哀想だ。
 前回がどうのと悩んでいる場合じゃなかった。

「これじゃ仕方ないな。アルフ、僕の部屋へ行こう」
「襲っていいの?」
「バカ……それは抜きだ」
「えー、自信ない」
「野宿するか?」

 王子が野宿とか想像も出来ない。

「無理」

 小さな声でアルフレッドと会話していると背後から影が伸びた。

「そこのお二人さん、こんな時間まで何をしていたんですか?」

 突然現れたのは見回りに来た教頭だった。

 ——バレてしまった。

 思わず息を呑む。

「入学式の時に時間厳守だと言いませんでしたか? 今回は初犯なので大目に見ますが次はありませんからね」
「「はい。すみませんでした」」

 ブツブツと説教されながらも、獣人族の寮への道を開けて貰ったアルフレッドが、若干不服そうに部屋へ帰っていった。
 それを見送り、安堵したような少し残念のような複雑な思いになる。

 ——本当に今のままで良いのか?

 アルフレッドとの関係にまた疑問を抱き始めた。

 ——僕はアルフにまだ秘密にしている事があるのに?

 左手で右手を掴む。アルフレッドと一緒に居るのが楽しくて、まだ関係を切りたくないと思ってしまうのは我儘だろうか。
 それならきちんと話すべきだろうが、まだ極力知られたくはなかった。

「貴方も早く部屋へお戻りなさい」

 教頭の言葉にハッとする。「はい」と短く返事して踵を返した。







「エド、今日はさ、火属性魔法でこの麒麟ていうの創ろうよ!」
「いいなそれ」

 人族に伝わる聖獣だ。忘れないように姿形をしっかりと記憶にきざむ。
 それから暫くの間はアルフレッドとの秘密の夜遊びが続いていった。
 もう創り残した空想の生き物はいない。なので、自分たちで組み合わせて新しい生き物を創って遊んだ。
 時に神獣と魔獣を組み合わせるとキメラのような生物になって、前に学園で見た魔獣を思い出した。
 あれは魔獣というよりも、とても体の大きな黒豹みたいだった。

 ——本物のキメラだとあんな感じなのかな。

 まだ何処かの森に居るのだろうかと思いを馳せる。

「俺、最近MP量上がった気がするんだよね。苦手だったコントロールも上手くなったし、これ絶対エドのお陰だよ! エドはどう?」
「言われてみれば僕もそうだな。遊びが特訓になってる」

 魔法力の操作に慣れてくると、実際のMP量とコントロールの技術が格段に上がっていた。
 今はもう二万三千近い。魔法師としての特訓にもなっているようだ。
 嬉しいけれど、自分の将来を思うと寂しくもなる。
 また問題から目を逸らして「仕方ない」と己に言い聞かせるように心の中で呟く。

 ——自由を望むのは許されない。

 アルフレッドがとても羨ましく思えた。
 そして一ヶ月が経つくらいには、大学院内で妙な噂が流れるようになっていた。

「生きた古代生物がこの学園内の森に住んでいるらしいぜ」
「夜、おれも見かけた!」

 興奮気味に食堂で話す生徒たちの話を聞きながら、アルフレッドと視線を絡める。

 ——この遊びはそろそろ潮時みたいだ。

「あ~あ、楽しかったんだけどねえ……見られないようにするの忘れてた。やらかしたー」
「僕もだ」
 あまりにも楽しすぎて周りを気にかけている余裕もなかったのが痛い。
 残念だが、アルフレッドとの秘密の夜遊びはこうして幕を閉じざるを得なくなった。




 ***




 偶にだけれど、昔から無性に見たくなるのは朝日と夕日だ。
 短い時間しか見れないという特性に興味をそそられてしまう。夕食を食べる前に少しの間だけ見たかった。

 ——アルフ、暇かな?

 その日は時間帯的にも夕日が見たくて、アルフレッドを誘おうと、初めて自分からアルフレッドを誘い出す為に部屋へと向かった。
 部屋を数回ノックすると、アルフレッドが扉を開けた。

「へ? エド? どうしたの、何かあった?」

 扉を開いた瞬間、アルフレッドが虚を突かれたように目を見開く。
 突然の訪問に驚いたらしい。それもそうだ。自分からは行かないと断言していたのだから。
 でもmgフォンの番号は知らないし、中に入るつもりもなかった。ただ呼びに来ただけだ。

「いや、大した用事じゃないんだ。暇なら夕食に行く前にちょっと散歩に付き合ってくれないかと思って……」

 そこまで言って、玄関先に靴が置かれているのに気がついた。アルフレッドのサイズよりも一回りは小さい。

「誰か来たの?」

 知らない声の後に、ベッドに置いてあるブランケットが持ち上がり、小柄な青年が顔を出した。

 ——ああ、そういう事か。

 そういえばアルフレッドとの始まりもこんな感じだったな、と思い至る。それを考えれば当たり前の流れだった。

 ——何だこれ。面白くない。

 この場から早く立ち去りたい気分に陥る。



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