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夜遊び
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次の日顔を合わせたアルフレッドは普段のように戻っていた。
昨日の今日だけに心配していたのだが気にしすぎていたようだ。内心ではホッとしている。
約束通り授業の後に図書室に寄って隣同士で座って、それぞれ図鑑を開いていた。
「エド、この生き物とかどう? 俺待ちきれなくて昨日寝る前にmgフォンで検索しちゃった。めちゃくちゃ可愛いよ、この子」
アルフレッドが読んでいる書物に載っていたのは、馬に大きな翼があるペガサスと呼ばれている生き物だった。翼があるイコール空を舞う、だ。
「また飛ぶつもりなのか……」
「そうだよ。繰り返していたらエドも高所恐怖症克服出来るかもしれないでしょ?」
「ううう~ん」
確かに一理あるがどうしても身構えてしまう。
「馬繋がりで、こっちのユニコーンとかはどうだ?」
一角獣とも呼ばれていて地を駆るだけなので、さりげなく提案してみたが、アルフレッドがにこやかに首を振る。
「大丈夫だよ。エドが落ちないように俺がしっかりと支えるから」
見惚れるくらいに良い笑顔で微笑まれた。どうやら引く気はないらしい。
「はぁ……、分かった」
だいぶ間を空けてから頷くとアルフレッドが破顔する。
「これも水魔法で創るの? それとも別の属性魔法?」
「どうしようか。この子なら翼があるから飛ばす時は風魔法がいいかもしれないな。土魔法で模って風魔法で操ろうか……ああ、でも折角綺麗な白色をしているのに濁ってしまうから水が無難かな。アルフみたいに綺麗な色にしてやれないのが惜しい」
そこまで喋ると沈黙が落ちた。
「エドさあ……思った言葉を何でも口にするくせどうにかならない? また俺に襲われたいの?」
「お前こそ妙な性癖開拓し過ぎじゃないか? 水龍だけじゃなくて今度はペガサスか? 興奮材料が理解出来ない」
「ほら、根本的なとこで勘違いしてるし~……」
両手で顔を押さえているアルフレッドを見て、自分の言葉を思い出していく。性癖が勘違いだと言うのなら……、と思考を巡らせる。
「ああ、綺麗と言ったからか。アルフの昔みたいな節操のなさは嫌いだったけど、今はそんな事ないだろ。それを抜いたら、僕はお前の毛色も顔も体つきも元々そこまで嫌いじゃないぞ。客観的に見ても綺麗だと思う。男性として魅力的なんじゃないか? まあ一番は、その気遣い上手な優しさだな。今は友人としての好感度数はかなり高い」
アルフレッドが珍しく黙り込んで、本の上に上体を伏せていく。
「本の上で項垂れるなよ。痛むだろ」
「エドのせいだよ」
後頭部をこちらに向けて上半身を倒したまま微動だにしない。
いつもされるように頭を撫でてやると、アルフレッドの耳が見る間に赤くなっていった。
——人には簡単に触れるくせに、触られるのは照れるのか。
本当に変な奴だ、と嘆息した。
その日の夜、早速創作活動に取り組んだ。
広場の中央に立って水魔法で土台を創っていく。
ある程度形になった所で、離れた場所から全体的なバランスを確認していた。
「羽の部分はもう少し大きい方が良い気がする」
「これくらい?」
問いかけに答えたアルフレッドが水魔法で生成した分を追加して、翼を一回り大きく変えた。
——綺麗だし、何より可愛い。
空想上の生き物は実際に目にした事がないだけに、気分がやたら上向く。
「うん。バランスが良くなった!」
「あははは、あんなに渋ってたくせに、エド楽しそうじゃん」
「楽しいぞ。モフモフもいいが、空想上の生き物も好きだからな」
二人で笑いながらペガサスの形を模り、細部に渡って本物へと近づけていく。
少し大きめに創っているのは、アルフレッドと一緒に乗るのを考慮しているからだ。
四足歩行なのもあって足の動かし方が難しい。そこはアルフレッドが補ってくれてどうにかなった。さすが獣人族だ。四足歩行には詳しい。
「ねえエド、これもう乗れるんじゃない?」
「二人でやったから思っていた以上に早かったな」
水龍は一人でやっていて、完成までに一週間はかかったので感激だ。
アルフレッドに後ろから腹に腕を回されて空に舞う。一緒にペガサスの上に跨らせられて前方に腰掛けた。
「ハミと手綱も創ろう!」
嬉々として言いながら、アルフレッドがあっという間に馬がくわえるハミとそこから伸びる紐上の手綱を取り付ける。
創造する魔法の使い方はもうお手のものになっていた。
元々の素質なのか、アルフレッドは物覚えが異様に早い。
「エド、手綱を掴んだまま風魔法使って羽も動かせる? 俺はコーティングを継続させつつ、浮遊魔法をかけるよ」
「分かった」
初めは大地を駆け抜ける。
そのまま大きくジャンプしたかと思いきや、一気に空高く上昇していく。
「あはは、凄い! 飛んでるっていうより空を駆けてるみたいだね!」
本当に子どもみたいだ。
めちゃくちゃ胸の鼓動が早くなっているのを鑑みるに、己も同じなのだが。
腹の奥が擽ったい。大声で笑いを溢したくなるくらいに気分が高揚して堪らなかった。
まさか二十歳になって親しい存在との遊びを覚えるとは思ってもみなかったから、正直気恥ずかしさが拭えなくて、アルフレッドの様に無邪気にはしゃげない。それでも声が弾んだ。
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