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まだ離れたくない

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「は、ぁ、あ」

 角度を変えて繰り返される度に膝が折れそうになる。
 アルフレッドの首にしがみ付くしか出来なくて、座り込みそうになるのを必死で堪えた。その内、自分の体の変化に気がつく。

 ——何で僕……勃って……?

 気が付かれないように腰を引いて逃げようとするも、逆に腰を押し当てられた。

 ——アルフのも……っ。

 腹に当たる屹立が主張している。

「おい、アルフっ!」
「生理現象なんでしょ? それならさあ、一緒にシよ?」

 欲を孕み低く落とされた声音にビクリと肩を竦ませた。

「っ!」

 ——ダメだ。これはいくら何でも行きすぎだ。

 選択肢を間違えたと思いながらも、体が上手く動いてくれない。その事実がアルフレッドの行動を肯定しているような気さえしてくる。

 ——いくら生理現象だとしてもこれは拒まないとダメだ。僕は……。

 横に首を振ろうとすると指を絡ませられて優しく上下に扱かれる。たったそれだけで立っていられなくなり、タイルにへたり込む。
 足腰が立たない。同じように腰を落としたアルフレッドが、自身の陰茎と一緒に握り込んでまた上下に擦った。

「待て……っ、あ……っ、ん……ん!」

 拒絶しようとした言葉はアルフレッドの口内に呑み込まれる。気持ち良すぎて腰が砕けそうだった。
 アルフレッドの肩口に額を預けてひたすら声を押し殺す。それでも溢れてしまう声がシャワールーム内でやけに響いた。
 ソープで滑りを帯びた手が行為をスムーズにしている。

「エド、可愛い」
「あ、ンッ、そんな事……なっ、ッんん!」
「エドは可愛いよ。でもこんな簡単に騙されちゃダメだよ」

 欲を孕んだ瞳が見つめ返してきた。
 心臓の音がうるさい。アルフレッドの息遣いと繰り返される「可愛い」という言葉が耳朶を擽ぐる。
 興奮してるのを隠しきれずに、とうとう声も殺せなくなってしまった。

「ふ、ぁ、ああ……アルフッ、もう……ぁ、ああ、出る!」
「良いよ」

 自分のモノをそっちのけにして、コチラが気持ちいいように根本から先端を刺激される。

「んぁ、アア、あっ!」

 達して息を整えていると、アルフレッドがまた一緒に握り込んで上下に扱き始めた。

「やめ、ぁ、アルフ!」

 快感が強くて逃げ腰になる度に腰を押さえつけられる。
 お互い一回抜いただけでは治まらずに、結局もう一度抜く羽目になった。
 腰が砕けて動けない。
 そのままアルフレッドが全身を洗い終えるまで待って、抱えられてシャワールームを後にした。

「はい、これ。俺が着せようか?」
「一人で着れる」

 アルフレッドの部屋着を貸して貰って、ズボンは紐で調節するも、それでも大きい。腕の長さも違うので袖を捲り上げた。
 大人しくベッドの前にあるテーブル椅子に腰掛ける。

「僕はもう……この部屋には来ない」

 このままだとアルフレッドを拒否出来なくなってしまう。もう間違いを起こすわけにはいかない。

 ——今日みたいに拒めなくなってしまう……。

 他者の手で与えられる快感がこんなに気持ちよくて、満身創痍にさせられるものだなんて知らなかった。
 それに生理現象だけでは済まないのだと知った。浅はか過ぎた己に辟易する。
 ベッドに転がるのだけは避けて、椅子に腰掛けてテーブルへと上体を倒す。

「それならこのまま帰したくない」
「お前な……」
「だってエドもう来てくれないんでしょ?」
「自分が簡単に騙されるなって言ったんだろ」
「そうだけどさ」

 アルフレッドが苦笑混じりにコチラを見ていた。

「さっきのはムキになった僕が悪いだろうし、拒めなかった僕に非がある。でも僕には婚約者が居るのに、さすがにこういうのはダメだろう……。その内もっと大きな間違いを起こしてしまいそうで嫌だ。だからもうここへは来ない」

 己への戒めとして言い聞かせていないと、足元から掬われそうだった。

「エドっていつもそうやって突き放すよね? 今しか無いなら、割り切って遊んじゃえば良いのに」
「生憎僕は器用じゃないんだ。アルフが僕の心の中だけじゃなくて、こうして体にも影響を与えてくるのが怖い。もうこういうのはしたくない」

 既に手遅れなのかもしれないが。
 本気で嫌だと思っていない時点で自分に何かしらの変化が起きてきている。

 ——それだけはあってはならない。

 怠い体に鞭を打ち、荷物を纏めて玄関へと向かった。

「ごめん、エド。謝るからまだ帰らないで。話がしたい。もう何もしないから、お願い」
「違う。謝らないでくれ。今日のは本当に僕が悪い。アルフに言われるままに、先に上がっておくべきだった。一応僕に逃げ道を与えたんだろ? こういう経験は初めてだったから引き際を見誤ってしまった」

 心も体もこれ以上間違えてはいけない。
 アルフレッドと居るのが楽しいだけに「もうやめておけ」と言われている気がする。
 このまま関係から断つべきなのは分かっていても、言葉に出来ずにいた。

 ——まだ、アルフと一緒に居たい。

 シャツ越しに肺の上あたりを押さえる。
 鎖骨と肺のちょうど中間地点にある〝契約〟の証が疼いた気がした。
 誰にも見られないように、認識阻害魔法をかけて見えなくしている。今日その気配を悟られなかったのは幸いだ。
 しかし今日のような出来事が続けばいつかはバレてしまう。アルフレッドには出来れば悟られたくなかった。
 いつかこうなってしまうだろうとは容易に想像出来たのに、分かっていながら拒まなかった自分が一番悪い。

「アルフ、これからは会うなら部屋以外の場所にしよう。僕はお前を傷付けたいわけじゃないし、縛りたいわけでもない。今日はごめん。悪かった。それと僕が創った水龍に乗せてくれてありがとう。アルフが居なかったら乗りたいなんて一生思わなかっただろうから、初めは怖かったけどとても楽しかったんだ。お前が居てくれて良かった」

 アルフレッドがコチラに向けて伸ばしかけた腕を下ろす。

「分かった。じゃあまた明日ね。今日の魔法、明日から俺にも教えてくれる? 俺もあんなにはしゃいだの初めてだったから楽しかったよ」
「ああ。約束する。おやすみ」

 軽く手を挙げてアルフレッドの部屋を出た。


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