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部屋に拉致られる
しおりを挟む戸惑っていると横向きに抱えられ、アルフレッドがフワリと宙を舞い、箒なしで寮まで飛行した。
魔法力の少ない今の状態で、飛行魔法を使って大丈夫なのかと懸念していたが平気なようだ。寮の出入り口に下される。
「本当に飛行が得意なんだな。僕は箒すら上手く扱えないから羨ましいよ」
「あんなに凄いの創って、森まで焼いたくせに俺の飛行を褒めるの? エドってホントに面白いよね。ビックリするくらいの変わり種」
普段のアルフレッドに戻っていて安心した。
さっきはたまたま妙な空気になってしまっただけだろう。
「アルフも充分変人だと思うぞ。僕に構いたがるし」
顔を綻ばせると髪の毛をぐちゃぐちゃにかき回された。
「あはは、同じだね」
アルフレッドがまたしても笑っている。
——もしかしてコイツの腹筋て笑い過ぎで鍛えられて割れているんじゃないのか?
そんな疑惑が脳裏を掠めた。
「ここの図書室にも空想上の生き物が載った本とかあるのかな?」
「確かあった気がする。僕は人族の国に居た時に見たけど」
「明日にでも一緒に見ようよ。俺、他の生き物も見たい! エドまた創ってよ。イメージが大切だって何度も言われてきたけどさ、こんな魔法の使い方があるって初めて知った。楽しかったし、エドと一緒に何か出来るのが嬉しい!」
——誘ってみて良かった。
どこか面映い気持ちになりながらも、表情を崩してアルフレッドと視線を絡める。
「先ずは練習しなければ上手く創れない。でも創りたいな。明日からはアルフも手伝ってくれ。僕も見たい」
「喜んで!」
アルフレッドに楽しんで貰えたのが嬉しかった。
そろそろ帰ろうとアルフレッドに手を振ろうとすると、その手は握りしめられた。
「僕はこっちだか……「ごめん。やっぱり帰したくない」……おい!」
担がれて獣人族の寮へ繋がっているワープゲートを潜り抜けられる。
——どうして拉致られた?
思わず真顔になって眉根を寄せた。
「どうしてだ? 疲れたし僕も部屋に帰りたいんだが?」
シャワーを浴びて、ベッドに転がりたい。今日は久しぶりにこんなにたくさんMP量を消費したから熟睡出来るだろう。
「シャワーなら俺のとこで入ればいいよ。話しながら一緒に寝よう?」
「全然良くないだろ!」
さっきの雰囲気で一緒に寝るのは絶対まずい。
何とか手を離そうと試みたが、問答無用で獣人族の寮に引き摺り込まれ、今はシャワールームに押し込められていた。
——どうしてこうなった?
遊んだ後はそのまま現地解散する予定だったのに、と思うと表情筋が死んだ。
アルフレッドの部屋で、頭からシャワーを浴びたまま思考を巡らせる。
まだ食堂に行っていないから、その時に逃げられると無理矢理自分を納得させる。
それも束の間で、突然シャワールームの扉が開いて裸体のアルフレッドが入ってきた。
——何で入って来た……?
本当に意味が分からない。
立ったままの目線がちょうど胸板の高さなので注視した。
相変わらず良い体をしている。ムカつく。そう思っていると、アルフレッドが唐突に口を開いた。
「まだ洗ってなかったんだ。ねえエドってさ、一人で抜いたりする?」
問われた意味を理解するのに十秒はかかった。
——突然何を言っているんだこの男は。
「は?」
「だからオ……「言うな!」……」
叫ぶように言葉尻を奪って無理やり黙らせる。
「だってエドって性欲なさそうだから」
「そんな事…………ない」
これまでに下半身事情の話題をするくらいに仲の良い友人がいなかっただけだ。
それでも今ここで話すのは憚られる。見事なまでに思考回路が固まった。
——気まずい。
顔が熱くて顔を上げられなくなり、アルフレッドに背を向ける。
「ごめんね、冗談だよ。体洗ってあげる」
「自分でやる……っ!」
断ったのにも拘らずに、頭からシャワーをかけられ、湯を飲み込んでしまって咽せた。
手際よく頭髪から洗われて、あっという間に体まで綺麗にされていく。
——手先が不器用だとか絶対嘘だろ……。
逆に引くくらいには滑らかな手付きで指圧加減も絶妙だった。
自分ばかりシャワーから降り注ぐ湯で温められて申し訳ない気持ちになってくる。
——誰にでもこうして優しく触れるのか?
若干面白くない気分になった。胸の中がチリチリと焼き付いている。
「エドは先に上がっていいよ」
素っ気なく告げられた言葉を聞いて頭の中が冷えた。
——ふーん……。
ここまで意識してしまったのは自分だけで、アルフレッドには他意のない行動だったのだと分かり、段々と腹が立ってくるのが分かった。
「いい……アルフ、場所を変わってくれ」
「え?」
「僕がお前を洗う」
視線も合わせずにシャワーノズルを受け取ると、アルフレッドが息を呑んだ。
「え、うーん……でもエドにやられちゃうと俺勃つ自信しか無いけど?」
「生理現象だろ」
一蹴する。気にしている素振りを見せるのが嫌だった。
「そう……」
振り返ったアルフレッドに正面から抱きしめられ、すかさず後頭部に回った手で固定されてしまい口付けられる。「離せ」と言いかけて開いた歯列の間に舌を差し込まれた。
「ん、んぅ!」
アルフレッドとの深い口付けは思考を溶かされる。デートの時とさっきの出来事で嫌というほど思い知らされた。
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