上 下
22 / 52

部屋に拉致られる

しおりを挟む


 戸惑っていると横向きに抱えられ、アルフレッドがフワリと宙を舞い、箒なしで寮まで飛行した。
 魔法力の少ない今の状態で、飛行魔法を使って大丈夫なのかと懸念していたが平気なようだ。寮の出入り口に下される。

「本当に飛行が得意なんだな。僕は箒すら上手く扱えないから羨ましいよ」
「あんなに凄いの創って、森まで焼いたくせに俺の飛行を褒めるの? エドってホントに面白いよね。ビックリするくらいの変わり種」

 普段のアルフレッドに戻っていて安心した。
 さっきはたまたま妙な空気になってしまっただけだろう。

「アルフも充分変人だと思うぞ。僕に構いたがるし」

 顔を綻ばせると髪の毛をぐちゃぐちゃにかき回された。

「あはは、同じだね」

 アルフレッドがまたしても笑っている。

 ——もしかしてコイツの腹筋て笑い過ぎで鍛えられて割れているんじゃないのか?

 そんな疑惑が脳裏を掠めた。

「ここの図書室にも空想上の生き物が載った本とかあるのかな?」
「確かあった気がする。僕は人族の国に居た時に見たけど」
「明日にでも一緒に見ようよ。俺、他の生き物も見たい! エドまた創ってよ。イメージが大切だって何度も言われてきたけどさ、こんな魔法の使い方があるって初めて知った。楽しかったし、エドと一緒に何か出来るのが嬉しい!」

 ——誘ってみて良かった。

 どこか面映い気持ちになりながらも、表情を崩してアルフレッドと視線を絡める。

「先ずは練習しなければ上手く創れない。でも創りたいな。明日からはアルフも手伝ってくれ。僕も見たい」
「喜んで!」

 アルフレッドに楽しんで貰えたのが嬉しかった。
 そろそろ帰ろうとアルフレッドに手を振ろうとすると、その手は握りしめられた。

「僕はこっちだか……「ごめん。やっぱり帰したくない」……おい!」

 担がれて獣人族の寮へ繋がっているワープゲートを潜り抜けられる。

 ——どうして拉致られた?

 思わず真顔になって眉根を寄せた。
「どうしてだ? 疲れたし僕も部屋に帰りたいんだが?」

 シャワーを浴びて、ベッドに転がりたい。今日は久しぶりにこんなにたくさんMP量を消費したから熟睡出来るだろう。

「シャワーなら俺のとこで入ればいいよ。話しながら一緒に寝よう?」
「全然良くないだろ!」

 さっきの雰囲気で一緒に寝るのは絶対まずい。
 何とか手を離そうと試みたが、問答無用で獣人族の寮に引き摺り込まれ、今はシャワールームに押し込められていた。

 ——どうしてこうなった?

 遊んだ後はそのまま現地解散する予定だったのに、と思うと表情筋が死んだ。
 アルフレッドの部屋で、頭からシャワーを浴びたまま思考を巡らせる。
 まだ食堂に行っていないから、その時に逃げられると無理矢理自分を納得させる。
 それも束の間で、突然シャワールームの扉が開いて裸体のアルフレッドが入ってきた。

 ——何で入って来た……?

 本当に意味が分からない。
 立ったままの目線がちょうど胸板の高さなので注視した。
 相変わらず良い体をしている。ムカつく。そう思っていると、アルフレッドが唐突に口を開いた。

「まだ洗ってなかったんだ。ねえエドってさ、一人で抜いたりする?」

 問われた意味を理解するのに十秒はかかった。

 ——突然何を言っているんだこの男は。

「は?」
「だからオ……「言うな!」……」

 叫ぶように言葉尻を奪って無理やり黙らせる。

「だってエドって性欲なさそうだから」
「そんな事…………ない」

 これまでに下半身事情の話題をするくらいに仲の良い友人がいなかっただけだ。
 それでも今ここで話すのは憚られる。見事なまでに思考回路が固まった。

 ——気まずい。

 顔が熱くて顔を上げられなくなり、アルフレッドに背を向ける。

「ごめんね、冗談だよ。体洗ってあげる」
「自分でやる……っ!」

 断ったのにも拘らずに、頭からシャワーをかけられ、湯を飲み込んでしまって咽せた。
 手際よく頭髪から洗われて、あっという間に体まで綺麗にされていく。

 ——手先が不器用だとか絶対嘘だろ……。

 逆に引くくらいには滑らかな手付きで指圧加減も絶妙だった。
 自分ばかりシャワーから降り注ぐ湯で温められて申し訳ない気持ちになってくる。

 ——誰にでもこうして優しく触れるのか?

 若干面白くない気分になった。胸の中がチリチリと焼き付いている。

「エドは先に上がっていいよ」

 素っ気なく告げられた言葉を聞いて頭の中が冷えた。

 ——ふーん……。

 ここまで意識してしまったのは自分だけで、アルフレッドには他意のない行動だったのだと分かり、段々と腹が立ってくるのが分かった。

「いい……アルフ、場所を変わってくれ」
「え?」
「僕がお前を洗う」

 視線も合わせずにシャワーノズルを受け取ると、アルフレッドが息を呑んだ。

「え、うーん……でもエドにやられちゃうと俺勃つ自信しか無いけど?」
「生理現象だろ」

 一蹴する。気にしている素振りを見せるのが嫌だった。

「そう……」

 振り返ったアルフレッドに正面から抱きしめられ、すかさず後頭部に回った手で固定されてしまい口付けられる。「離せ」と言いかけて開いた歯列の間に舌を差し込まれた。

「ん、んぅ!」

 アルフレッドとの深い口付けは思考を溶かされる。デートの時とさっきの出来事で嫌というほど思い知らされた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...