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予期せぬ出来事

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 二時限まで滞りなく進み、もうランチタイムに入る手前の時間まで来ていた。
 合同研究授業の為に専用の研究室へと足を踏み入れる。こちらを見て、ヒソヒソと面白そうに囁かれる声には悪意がこもっている気がして、どこか居心地が悪かった。

 ——何だ? 何かしたか?

 注目の的になっている壁を見ると、写真のような物がたくさん貼られている。写っている人物の色合いが、自分とアルフレッドに似ているのが気になって足早に進んだ。
 予感的中だ。貼られていたのはバーで撮られたであろうアルフレッドとのキス写真だった。

 ——確かにシャッター音がしていたな。

 あの時きちんと確かめておけば良かった。

「地味な印象させといてよくやるよね」

 小馬鹿にしたような口調に振り返って発言者に向かう。見た事もない顔だった。しかし僻まれているのだけは確かだ。
 ただ、理解出来ない点がある。

「一体何がしたいのか良く分からないな。確かに公衆の面前でいちゃついたのは認める。それは申し訳ないと今思っているし、今反省もしている。でも休日の国外で共有していた恋人との時間を、何故赤の他人に首を突っ込まれなければいけない? 君は誰だ? 休日にわざわざ他国についてきてまで、他人のデートに張り付く程に暇だったのか? この場面はデートの終わりのワンシーンだ。という事は、それまで常に一緒に居てシャッターチャンスを狙っていたんだろう? 何が楽しいのか良く分からないな。ゴシップ記事の記者でも目指しているのか?」
「なっ!」

 絶句した相手を無視して写真を全て回収する。それからアルフレッドの腕を引いた。

「あっちに座ろう。アルフ」
「やばい、俺の彼氏がかっこいい。エド最高にウケるっ。そういう男前なとこ大好き」
「お前はいつも笑いすぎだ。その前にこれは出回って大丈夫なのか?」
「俺は痛くも痒くもないよ。寧ろその写真宝物にするから全部ちょうだい?」

 持っていた写真で軽く頭を叩いた。

「それはそれで嫌だ」

 写真を抱きしめ、机に突っ伏して笑っているアルフレッドを無視して、周りを見渡す。
 今日これからやるのは合同でやる魔法薬学研究だ。問題は、今回は五人一組で班を作って実験をしなければならない事だ。
 この空気の中で自分たちと班になりたいという猛者がいるかどうかだった。

「あの! メンバーが決まって無ければ、おれも班に入れて貰えませんか?」

 声がする方向に視線を向けると、ひょろっと背の高い、眼鏡をかけた男が立っていた。
 黒と深い緑色のツートンカラーになった短めの髪色が特徴的だ。色合いからして精霊族だろう。
 確か同じクラスメイトのルノー・ウィルソンという名前だった気がする。

「良い……のか?」

 猛者がいた。驚き過ぎて大きく瞬きする。
「はい! 寧ろお願いします! おれ、前にクラーク君がティルバーン君に魔法薬学の裏知識みたいなのを教えているのを偶然聞いちゃって、実際に自分のMP量を計ってやってみてからは失敗する事がなくなったんです! なので今日の合同研究も一緒に受けられるかなって凄く楽しみにしてて……。だからあの、出来ればで良いんですけど同じ研究班に入れて貰えると嬉しいです!」

 アルフレッドを横目に見ると、肯定するように微笑まれた。

「こちらこそありがとう。助かった。よろしく頼む」
「はい!」

 ニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべられ、同じ長机を囲んだ。

「便乗させてください。ボクたちもご一緒させて貰えませんか? ウィルソン君と同じ理由です。今朝、ちょうど幼馴染にその話をしていて一緒に出来たら良いねって話してたとこでした! ボクはダルセル・トピア。こっちがフィリップ・ディディエです。個人でやるより二人でやる合わせ技の方が得意なんだけど実験はそうもいかないから……」
「ディディエだ。という事でよろしく!」
「ありがとう。二人もよろしく頼む」

 新たに同じクラスメイトともう一人別のクラスメイトが加わり、心配は取り越し苦労で済んだ。

「楽しみだね、エド」
「そうだな」

 初めて相手から声を掛けられたので面映い気持ちになる。
 魔法薬学の実験は、全員見事に満点合格した。






 3

「おい、アルフ! 今は笑うのをやめろ! 揺れるだろ!」
「ちょ、何で他の事はチートなのに飛行実技だけそんなヘナチョコなの?」

 ケラケラ笑いながら、箒に跨っている所を揺らされていた。
 態とではない。アルフレッドの笑いの振動が、掴まれている箒から伝わってくるだけだ。

「僕は高所恐怖症なんだよ!」

 声を荒げて暴露すると、アルフレッドがニンマリとした笑みを浮かべた。

「エド、もしかしてそれ欠点だと思ってる?」
「出来ないんだから当たり前だろ」
「ふふ、違うよ。それね、逆なんだよ。生物が当たり前に持ってる危険回避と自己保護。だから、怖くて当たり前なの。もちろん克服可能。エド、ゆっくり呼吸してから、下は向かずに真っ直ぐに背を立てて前だけを見てなよ」

 ——怖くて当たり前……怖いのって僕だけじゃないのか? 皆も怖いものなのか?

「アルフ……」
「俺が居るから大丈夫だよ。エドは絶対落とさない」

 ——いちいち恥ずかしい奴だな、コイツ。

 それでもどこか安心してきている自分がいて破顔した。
 アルフレッドに言われたように呼吸を整えてから、視線を上げて背を伸ばす。

「アルフ、ちゃんと掴んでいてくれるか?」
「もちろん」

 魔法力の加減だけは昔からピカイチだ。
 後は、この恐怖心に打ち勝つ事だけがネックだったのだが、怖いのは当たり前だと肯定され、負のイメージが自分の中で安堵感とちょっとした自信へと変わっていく。

「少しずつ上昇するね。俺に合わせて魔法力量を調整してみて?」
「分かった」

 アルフレッドに合わせて、箒に魔法力を注いで少しずつ浮かび上がる。
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