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デート(例え仮初だとしても、チャンスを逃す男ではない)
しおりを挟む「ごほん……失礼致しました。申し訳ありません。アルフレッド様でも苦労なされる事があるんですね」
「分かってくれる? こんなに意識して貰えないのって初めてだよ。俺、どう攻めたらいいかな?」
態とらしくため息をついたアルフレッドを見て、バーテンダーが苦笑している。
「カクテル言葉というのはご存知ですか? 元々はカクテルもカクテル言葉も人族の国で作られた物なんですよ」
真っ直ぐに目が合って問いかけられ、首を傾げた。
「いえ。花言葉は知ってますが……。カクテルにも言葉があるんですか?」
「はい。今度気が向いた時にでも調べてみて下さい」
「分かりました。今調べます」
「「今!?」」
バーテンダーとアルフレッドの声が重なった。
「はい。帰ったら忘れてしまうかもしれないので今やります」
善は急げだ。mgフォンを出して、魔法力を流し込む。すると直ぐに起動した。
「すみません。出過ぎた真似をしてしまいました……」
「あー。いいよ。大丈夫。この子いつもこうだから」
二人の会話を聞きながら、先にハバナビーチと入力した。
——意味……〝夢中〟? 次はアメリカーノ……〝届かぬ想い〟か。成程。
これを繋げて二つの関連性から意味を推測しろと言いたいのだろうと思考を巡らせる。
「アルフレッドお前もしかして……」
「え、うん。何?」
両膝を向けられて正面から見つめられる。
「夢中になってまで僕に何か言いたい事ややって欲しい事があるんだな? だからここへ連れてきたのか……。届かないなどと思わずに言えばいい。中々言えなくてもどかしい思いをしているんだろ?」
「あーーー……、惜しくはあるんだけど、期待通りの珍回答をどうもありがとう。どうしよう……俺泣きたい」
カウンター席に頭を預けて反対側を向いてしまったアルフレッドの腕を掴んだ。
「おい。泣く程そんなに思い詰めているなら早く言えば良かっただろ。昨日からのお礼もあるし、僕に出来るのなら何でもするぞ」
「え?」
即座に振り向いたアルフレッドが、カウンター席から微妙に頭を持ち上げた。
口を半開きにしているとせっかくの端正な顔が台無しだな、と思いながら見つめる。
「いや……エドの事だから絶対何か勘違いしてるし……え? でも……これってチャンス?」
視線が絡んだまま、十秒間くらいお互い瞬きもせずに停止した。
確認の為に……と前置きされる。
「エドさ、さっき俺にキスされた時どう思った?」
「……」
顰めっ面で見つめた。
「だよね。大丈夫。分かってたよ」
アルフレッドがまた反対側を向いたままカウンター席に突っ伏した。
——さっきから何なんだ。
まだ笑われた方がマシだ。
どこか馬鹿にされているような気になって、椅子を下りるなりアルフレッドが顔を向けている場所まで歩く。
呆けている顔に手を伸ばして少し浮かせると、アルフレッドにされたように口付けてやった。
「お前は突然こうされるとどう思うんだ? 意味が分からないだろう? 少しは僕の気持ちが分かったか?」
唇を離して視線を向けると、アルフレッドが口を引き結んで目を見開いていた。
「せっかくの良い男が台無しだな」
フンッと鼻で笑う。
こちらの様子を伺っている野次馬でも居たのかカシャリとシャッター音のような物が響いていた。
「ほら見ろ。同じだろ? どう思うもこうもない」
席に戻って少し高めの椅子に腰掛ける。
「もう!! このタラシ!」
「ふざけた事を言うな!」
噛み付くと思いっきり唇で唇を塞がれた。
顔の角度を変えてる内に、内部に舌を潜り込まされる。
「んっ、んぅっ!」
息継ぎの仕方も分からないまま口内を貪られていると苦しくなってきて、アルフレッドの胸元にしがみついて両手で力一杯押す。
ピクともしないまま、また潜り込まされた舌に口の中を蹂躙された。
「あ、っん、アルフ……っ!」
——どうして僕はアルフレッドとキスをしている?
クラスメイトは深い口付けはしない。するとしたら恋人からだ。それくらいの常識や知識はあった。
「も……っ、な……ッ、んで」
クチュリ、と音を響かせて唇を離される。
その時にはもうだいぶ息が上がっていて、アルフレッドの胸に額を預けたままになっていた。
「エドが本当に何でもしてくれる気があるなら俺と付き合って? 先に言っておくけど、場所じゃないから。恋人になってって意味」
口早に言われて、酸素の足りない脳で思考を巡らす。
「僕には……婚約者がいるって話したばかりだろ。だから恋人にはなれない!」
「あ、さっき何でもするって言ったの嘘だったの?」
じっとりと非難めいた視線を向けられた。
「嘘じゃない。だから代替え案を要求する」
「無い。エド、さっき自分から何でもするって言ったのに……嘘つき」
落胆した声音で囁く様に言われてしまい、身を竦ませて顔を上げる。歯を食いしばると奥歯がギリと音を立てた。
「……——」
「新しい変顔、笑えるっ」
すっかり元の調子に戻ったアルフレッドが腹を抱えて笑い始める。
「なら……手を繋ぐだけの健全な付き合いならいいぞ」
「どこのエレメンタリースクールの子かな……。今ふっかいキスしたばかりで言うセリフ?」
「うるさい。嫌なら代替え案を出せ! 僕からは以上だ」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽ向く。
「手を繋ぐのが有りなら触るくらいならOKだよね? あと、キスまでならどう?」
「さっきみたいのは無しだ」
「さっきみたいなのって?」
ニヤニヤしているのを見ると分かっていて態と言っているのだろう。段々腹が立ってきた。
「……——」
「変顔第二弾、ちょっと待って。供給過多でお腹が痛い」
——そのまま腹が攣って動けなくなれば良い。
追い討ちをかけるようにアルフレッドのお腹に拳を叩き込んで、また椅子に腰掛け直す。
バーテンダーの姿が見えないと思っていたら、カウンターにしゃがみ込んでいるのが微かに視界に入ってきた。
「ヒヒヒ……っ、ふふはっ、くーくくく」
押し殺す気が全くない笑い声が聞こえてきて、またイラッとした。魔法で氷を一つ浮かせてシャツの中に押し込んだ。
「ひぃうう!」
物を落とす派手な騒音が聞こえてくる。
——ざまあみろ。
ようやく溜飲の下がる思いがした。
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