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デート(初めてのフードコート)

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「ここはフードエリアとショッピングエリアがメインになった、セリナダ街という所だよ。お腹空いたし歩きながら何か食べる?」
「歩きながら食事をした事がない」
「エドは食べながらの会話も苦手だったね。それじゃ、テラス席ってのがあるからそこに座って食べる?」

 コクリと頷いた。
 全てにおいて初めて見るものばかりで気後れしてしまう。
 キョロキョロと周りを見渡すと、合わせるように歩調を緩められた。

「俺もここは久しぶりに来たし、ゆっくりして行こうかな。エド、あれはね……」

 指をさされながら、ショップやフードの説明をされる。
 アルフレッドの強引さに助けられるのは何度目だろう。そんな風な考え方をしてしまう自分を発見するとは思いもしていなかった。

 目当てのフードショップに到着して、オーダー表を見せられたけれど良く分からないので、アルフレッドおすすめのタンパク質を中心とした軽食に決める。

 食事をする時には水以外の飲み物を口にした事もないから戸惑ったが「冒険しちゃえばいいじゃん」とヒアコイスという飲み物を一緒に頼んでくれた。
 見た目が真っ黒なので本当に美味しいのか疑問が残るが興味深くはある。

「ねえ、ちょうど木陰になってるし、ここにしよ。エドは肌が白いから焼けたら痛くなっちゃうよ」
「白さでいうとアルフレッドも僕と大差ないだろ。それに授業でも良く外に出るし平気だ」
「それはそれ。今は俺が嫌なの」

 ——そういうものなのか?

 遊びのルール的なものかな、と逡巡する。

「僕は外に遊びに出た事がないから分からなかった。アルフレッド、お前って凄いんだな」

 キョトンとした赤い瞳が見つめてくる。

「何で?」
「色々なショップを知ってるし、今日使ってたワープゲートの呪文も僕は初めて知ったんだ。そもそも外へ行く概念が無かったから盲点だった。エレメンタリースクール時代に、街中の壁にワープゲートを描いて魔法陣の練習をしたりもしたが、実際使えるかどうかの確認だけで、何処かに行こうと考えていたわけじゃない。だから驚いた」
「外に遊びに行った事ないとか、マジで言ってたんだ?」

 酷く驚いた表情をされたので、他は違うのかと初めて自分の境遇を疑った。

「外出は好きに行かせて貰えるものなのか?」
「好きにして良いんだよ。だってエドにはエドの人生があるんだしさ、例え親でも制限する権利なんてない」

 この手の話題になるとアルフレッドは妙にムキになる。あまり口にしない方が無難かもしれない。
 面倒だと思いながらも、向き合おうとしてくれる姿勢や思いには応えたくて口を開いた。

「アルフレッドが言おうとしている内容も分かるけど、僕には出来ない理由がある。それに言っただろ? 僕は衣食住があるだけでありがたいんだ」

 一瞬迷った様に視線を彷徨わせたアルフレッドが、笑みを浮かべる。

「じゃあ、遊びも俺が教えてあげる。エドがしてないの全部だよ。卒業までって言うならさ、それまでに思い出作りとして色々やったら良いんじゃない?」
「ありがとう。さっきの魔法師同士の決闘は本当に楽しかった。あんなに心が躍ったのは初めてだ」
「あれ俺も見てて面白かったよ。皆んな驚いていたもんね」

 アルフレッドがケラケラと笑う。不思議な男だ。素朴な疑問を言葉に変える。

「いつも思うけどどうしてそんなに僕に構うんだ? アルフレッドは面白い事も楽しい事もたくさん知っているだろ。態々僕に合わせなくていいぞ」

 不可解で堪らない。アルフレッドならもっと楽しめる物が世の中に溢れているだろうに。

「知っていても、エドと同じように欲しいものは手に入らないよ。俺たち似たもん同士だね?」
「そうなのか。不躾で悪かった」

 王族であるアルフレッドにも手に入らないものがあると知って驚いた。

 ——もしかして次期王になりたかったとか?

 第四皇子であるアルフレッドが王になる確率は極めて低い。先に生を受けた王子だけが次期王の権利を有するからだ。
 考えを巡らせていると、ジッと見つめられているのに気が付いた。

「どうかしたのか?」
「ううん、何でもない。そろそろオーダーしたのが出来るかもね」

 他愛無い話をしているうちに、待ち番号が呼ばれ二人で取りに行った。
 アルフレッドの選んだ食べ物は相変わらず肉ばかりだけど、こちらの意見も考慮しているのか申し訳ない程度に温野菜が乗っていて、思わず笑いが溢れる。
 勧められたタンパク質中心の軽食も意外と美味しくて抵抗なく完食出来た。

 問題のヒアコイスは、黒い見た目通り口当たりは苦味があったが、意外と後味は悪くない。特に匂いが香ばしくて好きだと思えた。
 初めて水以外の飲み物を飲んだので、自分自身よりも舌が驚いている。何とも表現しがたい味だ。

 その後で服を見て回り、アルフレッドに手を引かれるまま色んなショップに入った。既に目が回りそうだ。


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