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そのキラキラは僕には必要ない

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 想像の斜め上を行き続けるアルフレッドの言動に振り回されてばかりで、脳内処理速度が追いつかない。

 ——どこからか魔法弾か何かが飛んできて、アルフレッドの頭に当たって気絶すればいいのに。

 現実逃避をはかってみるも、そんな状況には絶対ならない。

 ——この際、僕が打ち込んでやろうか?

 真剣に考えてみた。

「エド、瞬きしないと目が乾燥するよ? ただでさえも大きな目なのに」
「心配してくれなくても大丈夫だ。言うほど大きくもない」

 はあ……これだから無自覚は困る、とため息をつかれる。

「目を見開いたまま立ち止まらないで行くよ。ご飯食べたらその後少し休憩して大風呂ね」

 腹に回ってきたアルフレッドの腕に捕らえられ、後ろ向きに移動させられる。

「拒否権を要求する」
「だーめ」

 無邪気に微笑まれ、却下された。




 初めて来る大浴場は思っていたより人で賑わっていて、即座に引き返しかけた。
 すかさず腕を取られて、無理やりローブを剥ぎ取られる。

「アルフレッド離してくれ!」
「はい、他の服も脱ごうかエド」
「僕には難易度が高すぎる!」
「ばんざーい」

 言い分を一切無視され、追い剥ぎの様に脱がされてしまい、ズボンにまで手を掛けられた。
 流石にこれ以上は自分でやりたい。

「自分で出来るからいい」
「そう?」

 アルフレッドが手を離した瞬間、ローブや服を鷲掴みにして出口に向かって走る。

「うわっ!」
「エーードーー?」

 コメカミをひくつかせたアルフレッドに詠唱破棄した浮遊魔法をかけられてしまい、天井近くまで宙に浮かせられた。

 ——この人でなし!

「無理無理無理! 降ろしてくれ! 降ろせ! ゆっくりの着地を希望する!!」
「じゃあもう逃げない?」
「……」
「仕方ない。このまま中まで移動しようか?」
「入る! ちゃんと入る! だから降ろしてくれ! 怖い……っ、アルフレッドッ、頼むから」

 必死だった。やっと降ろして貰えてホッと胸を撫で下ろす。

「ごめんね?」

 頭を撫でられながら謝られたが殺意が湧いた。

 ——おのれっ。

 鼻歌交じりに服を脱いで行くアルフレッドの体をジッと見つめる。
 服を脱ぐ度に左耳に付いているチェーン付きのカフスが揺れていた。

 ——やっぱり良い体をしているな。

 仕返しにこそぐってやろうかと思っていたが、割れた腹筋や胸筋が羨まし過ぎて、全てを後回しで手を伸ばす。
 横からペタペタと触れていると、アルフレッドが困ったように笑んだ。

「エド、何してるの?」
「悪い。この胸筋と腹筋が羨まし過ぎると思って……。肩周りも背筋も凄いな。僕もこれくらい割りたい。どうしたら割れる?」

 触ってくれと言わんばかりに胸を張って反応を窺う。
 アルフレッドは、獣人族の中でもアルビノと呼ばれるレア種なのもあって肌は白い方だ。
 色は大差ないし、身長も二十センチも変わらないくらいなのに、どうしてここまで体格が違うのか納得いかない。

「とりあえずエドは……筋肉つける為に筋トレとタンパク質を摂る事から始めよう? 明日から朝食のサラダに、ゆで卵と茹でた鶏の胸肉追加してみるといいよ。筋肉がないと割れるものも割れないからね」
「分かった」

 コクリと頷く。
 初めてアルフレッドが役に立ったと思っていると、両手で顔を押さえて天を仰いでいた。

「どうかしたのか、アルフレッド」
「何でもない……」
「本当に変な奴だな」

 周りを見ると、腰にタオルを巻いている人が多いのに気がついて同じ様に巻きつける。
 人が多くて嫌だと思っていたけれど、初めて知る事柄が多いのが分かって気分は上向いた。

 ——大風呂に浸かる時は先に体を洗うのか……。

 生徒たちを食い入る様に見つめていると、何故か開放的にしていた生徒数名が気まずそうにタオルを持ち出して前を隠し始めた。

「エド! エド!」

 横から腕を掴まれ揺さぶられる。

「何だよ? 今大風呂の作法を見て学んでいるんだ。邪魔をしないでくれ」
「いや、そんなにガン見されたら皆んな恥ずかしいでしょ」

 アルフレッドに大笑いされ、ハッとした。

「悪かった……そんなつもりじゃなかったんだ」
「「「うん……大丈夫だ」」」

 視線の合わない返事が四方からくる。

「そんなに見たいなら俺の見る?」
「……」

 アルフレッドの言葉に、眉根を寄せて顔を顰めてみせると爆笑された。

「そんなゲテモノを見る様な目で見ないでくれる?」

 ——いつも思うがこの男の笑いのツボは分からない。

 笑いが止まらないようなので、アルフレッドはその場に放置した。
 体を洗う順番は特に決まっていないらしい。普段と同じ様に頭から全て洗って身を清めていく。いざ湯に浸かるとなると少しだけ緊張した。
 ザプリと足を入れると熱いくらいの温度が脛から上がってくる。
 だが、それもすぐに心地良さへと変わって、肩まで浸かる頃にはまた気分が上向いた。

「どう?」
「思ってたより、良い」

 初めての熱気に当てられてしまったのか、顔が熱くて頭の中もフワフワと浮いているような錯覚に囚われる。

「本当に良さそうだね。顔が火照って蕩けてる。エド、気持ち良いの?」
「ん、気持ちいい……」

 吐息混じりに答えると、周囲の生徒たちが一斉に上がり始めた。
 何をそんなに慌てているのかは分からないが、波が立たないようにもっと静かに上がって欲しい。
 顔にかかった飛沫を手で拭った。
 アルフレッドが笑っているのは通常運転なので、何も言わずにまた放置した。

 ——これからは週に一度くらいは来ても良いかもしれない。

 初めあんなに拒んだ大風呂は、想定外に気持ち良かった。
 存分に堪能した後で、アルフレッドに手を引かれて部屋へと歩く。

「いい加減、手を離してくれないか?」
「エド逃げそうだからダーメ」

 アルフレッドの部屋につき、中に足を踏み入れた。
 そして、問題というのは寝る前に起こるものらしいというのを知る。
 誰かの部屋に泊まるにあたり、最大のイベントが待ち受けていた。
 ベッドの上に転がったアルフレッドが、自分の枕の横にもう一つ枕を並べて両手を広げているのを無表情で眺める。

「エドおいで」

 キラキラに輝くアルフレッドの笑顔が眩しい。自分には必要のないものだ。ゲンナリした。


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