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まるで子どもみたいな……

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「いや、即興で出来たアルフレッドもどうかと思うぞ」

 喉を鳴らして笑うと、嬉々とした笑顔を向けられる。

 ——コイツ、意外と無邪気で年相応な表情も出来るんだよな。

 最近のアルフレッドは生き生きとしているような気がする。
 関わり合う前にクラスの中でたまに見せていた、全てがモノクロにでも見えているような妙な雰囲気が無い。
 仏頂面も取れて、煌びやかなほどの笑顔が目立つ。

「次の人、ラインの後ろに立ってください!」

 とうとう自分の番になった。
 腰に手を伸ばして、魔法力量を制御するチェーンがちゃんとあるかどうかを確認する。
 指に金属が当たる感触がしてホッと息を吐く。

「はじめ!」
「αάηη ίκςι」

 相手が急に盛り上がった土に足を取られて転倒した。狙い通りの魔法になって満足する。
 先程まで立っていた場所に戻るとアルフレッドが「今のは何ていう呪文?」と質問してきた。

「αάηη ίκςιだ。地属性魔法で、相手の足を固定して転倒させる呪文。MP消費量はたったの三十五だから、初手が相打ちでも次の手が打てる」
「ふーん。エドって色々知ってるよね。でも何でいつも腰にチェーンつけてるの? それ制御装置だよね?」
「目立つのは極力避けたいんだよ」
「そこ、お喋りがすぎますよ!」

 教師に注意され即座に閉口する。それからは、クラスメイトたちが呪文を掛け合うのを眺めていた。




 ***




 また一週間経ち、とうとうアルフレッドが部屋まで迎えに来るようになってしまった。

 ——どうしたら離れてくれるんだ……?

 確かに一緒に居るのには慣れて来たが、部屋まで来られるのは慣れない。
 確実に距離を詰めてくるこの男を、どうやって線引きして遠ざけようかと思考を巡らせる。
 どれもさりげなくかわされそうで、ため息混じりにアルフレッドを見上げた。

「……」
「ちょっ、何でまだそんなに顰めっ面なの。そろそろ俺を許容してくれても良くない?」

 朝一でケラケラと笑われ、それにもウンザリする。

「お前こそ何で僕を友人みたいに扱うんだ。今から食堂に行くんだしそこで会えばいい。お前からすれば二度手間じゃないのか?」
「一緒に食事を摂ることは許してくれてるんだ。良かった」

 思いっきり扉を開けて、アルフレッドを前から退けた。
 扉を閉めるなり先に歩き出し、追いつかれたタイミングに合わせて言葉に変える。

「やっぱり今のはナシにしてくれ」
「ええっ、一緒にご飯食べようよ。ほらほら、早く行こ!」
「おい、引っ張るな!」

 獅子だからなのかアルフレッドは力が強い。半ば引き摺られるように食堂に連行されてしまい、三週間連続で食を共にするようになってしまった。

 ——どうしてこうなった。

 この強引さに慣れてきている自分にも辟易してしまう。ため息より先に諦めの念が出る。
 食堂に近付くにつれて生徒たちの騒めきが大きくなってきた。

「何か今日いつも以上に騒がしいね」
「そうだな」

 ——何かあったのか?

 今日は普段の騒がしさとは少し違っていて、焦燥感すら孕んでいた。
 皆それぞれ口々に何かを話しているが、どうやら話題は同じらしい。

「学校の西側の森に狼っぽい魔獣が出るらしいよ」
「怖っ。何だそれ」
「霧の深い深夜になると、体の大きいナニカが駆け抜け回る音も聞こえるんだって」
「五メートルくらいの高さに、黄色く光る目が二つあってずっと見てくるとも聞いたぞ」

 普段なら他人の会話に聞き耳を立てる事はしないが、気になったのもあって静かに耳を傾ける。
 霧の深い夜。五メートルくらいの大きさ。黄色い二つの目。駆け抜ける狼。キーワードを元に思考を巡らせる。

 ——まさかな……。

 朝食を選ぶ手を止めて目を細める。
 神と崇められているあの神話の生物が実在していて、しかもこの学園にいる訳がないと頭を切り替え、また手を動かした。

 今日の一限目は魔獣研究対応学だ。
 腹いっぱい食べて動けなくなるのを考慮して控えめに食べていると、ディッシュに肉切れが幾つか乗っているのに気がつく。

 自分で乗せた記憶はない。朝から肉を食べる気力などないからだ。だとすれば犯人は一人しか居なかった。
 食事中に話すのは好きじゃないが、喋らざるを得ない状況下にいる。

「アルフレッド。僕は朝から肉は食べない」
「知ってる。でも一限目って魔獣研究対応学でしょ? 体力つけとかなきゃへばるよ。エド細いし」
「細……? 言っておくけど僕は細くない。平均だ。アルフレッドがおかしいだけだ」
「獣人族の中では俺も平均だよ」

 ニッコリと微笑まれ、そんな馬鹿なと頭を抱える。
 長身にあった肩幅の広さに合わせて、均整の取れた筋肉に上乗せしたかのように筋肉が付いていた筈だ。
 体操着に着替える時に、横目に入ってきた程度だからちゃんと見てはいないが。

「じゃあ、アルフレッドにはこれをやるよ」

 ザカリシュと呼ばれる茎野菜をアルフレッドのディッシュに乗せた。全体的に緑色をした茎つきの花の蕾である。

「そうきたの……。じゃあいっせーので食べよ?」

 エレメンタリースクールの小さな子が言うような事を言ったアルフレッドを見て、少し笑う。

「良いよ」

 エドウィンは肉自体は嫌いではない。
 嫌そうな顔をしながらもフォークに刺したザカリシュを口をするアルフレッドに合わせて、エドウィンも口の中に肉を放り込んだ。

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