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よく分からない男だ
しおりを挟む「起こしても良いの?」
「まあ……急に驚かされるよりかは、僕の心臓には良いぞ」
嬉しそうに笑ったアルフレッドを見てバツが悪くなった。
——そんなに嬉しそうにされても困るんだよな。
正直に言うと、関わり合いになりたいとは今も思っていない。あまりにも性格が違い過ぎるし、身分だって違う。
今は大学院に居るからこそこうして普通に話せるが、社会に出ればそうもいかない。種族の違いもそうだが、王族と庶民じゃよっぽどの事がない限り関わり合いになれない。
「アルフレッドはどうして僕に関わろうとするんだ?」
「え、面白いからじゃダメ?」
何故そんな事を問われているのか分からないというような顔をしていた。
「まあ、それだけなら良いんだが、僕は親しい友人を作る気はないんだ」
「何で?」
「大学院を出たら、連絡も出来ずに永遠に交流が途絶えると思うから申し訳ないんだよ」
アルフレッドがまたよく分からないというような表情をしている。
自由に自分の思うままに行動しているアルフレッドには分からないかもしれない。
苦笑混じりに立ち上がった。
mgフォンと呼ばれている携帯電話を取り出して時間を確認する。
これは魔法師のみ使える特殊な携帯電話だ。電波も全てその個人の魔法力を原動力としているので、充電も必要ない。メッセージや電話の通話、世界中のネットワーク回線にも繋げられる。
映写機のように空間に映像を映し出せるのもあって便利だ。
これまでに一度も友人がいた試しがないので、使用するのは情報検索やニュースを動画でみるくらいだが。
「ご飯……行くんだろ?」
立ち上がって椅子を直してからアルフレッドを促す。食事の提供終了時刻まで後一時間もなかった。
「うん。行こう」
待っていてくれたのは少しだけ嬉しく思えた。
***
アルフレッドにまとわり付かれるようになって一週間が経過していた。
彼特有の自由気ままな態度にはまだ慣れない部分はあるものの、隣にいて会話をする程度にはなっている。
関わり合いになった当初はあんなに苦手だったというのに、慣れというのは怖いものだ。
魔法学の授業が終わって、教室移動している時に「あ」と思い至り、足を止めてアルフレッドを見上げる。
「成程。罰ゲームだな?」
「何が?」
「アルフレッドが僕に構う理由が未だに理解出来ない。罰ゲームだと解釈すれば納得出来た」
「あーー、そう来ちゃった? エドの中の俺って最低過ぎない!?」
「え……」
寧ろ最低じゃないとでも思っていたのだろうか? こっちの方がびっくりだ。また謎が深まった。
「ねえ、俺どれだけ最低なの?」
「あり得ない程」
即答するとアルフレッドが萎んだ。
「俺もうあれから誰とも関係持ってないよ?」
「一週間くらいしか経ってないからな」
逆に一週間内にどれだけ行為に及んでいたんだと聞きたいが、言葉にはしなかった。
「今はエドとしか話してない」
「いや、そこは別に良いんじゃないか? 僕たちは単なるクラスメイトだし。お前だってもっと仲の良い友人が居るだろ。チヤホヤされていたじゃないか」
単なるクラスメイトの部分を強調して言うと、アルフレッドが目に見えて落ち込んだので、その様子は少しだけ面白かった。
「ちゃんとした友人なんて居ないよ。あっちが勝手に寄ってくるだけ」
「お前と一緒じゃないか」
アルフレッドがもっと凹んでその場に蹲る。
「俺、これまで自分がどれだけ他人と適当に関わってきたのか今やっと気が付いた」
——この会話のどこに気付きを与えるものがあったのだろうか……。
やはり良く分からない男だと思った。
また一週間近く時が流れ、アルフレッドと行動を共にするのにだいぶ慣れて来た頃だった。
その日は攻撃魔法呪文学の授業に参加する為に、大学院の前にある広場に来ていた。
これは決められた消費魔法力をコントロールしながら、呪文を唱えて攻撃する力を養う為に実戦を兼ねた実験授業だ。
短い呪文を唱えて対抗する方が効率は良いのだが、長い呪文のものに比べると威力はやはり小さい。
生徒同士が一対で呪文を唱えて競う。瞬発力とどの魔法を使うかの判断力、知識量、魔法力のコントロールが試されるものだ。
また消費するMP量は決まっていて、MP五十を超える呪文は唱えてはいけないルールになっている。ルールを破れば指導室行きか酷ければ即退学だ。
「エド、効率の良い呪文とか知らない?」
「あるけど、扱いは難しいぞ。一回あたりの魔法力の消費量がそれなりに大きいから失敗すれば負ける」
「何て言う呪文?」
「MP量四十五消費、それを詠唱時のタイミングに合わせて放出。詠唱と魔力放出開始時間はゼロコンマ単位で合わせてくれ。風属性の魔法で、相手を吹き飛ばすものだ。呪文はέηκς άςάτ」
「四十五で、έηκς άςάτね。やってみる」
アルフレッドの番が来てその時が訪れる。教師の「はじめ!」と言う言葉に合わせて呪文を唱えていた。
呪文の通りに相手が背後に吹き飛び、勝負は一瞬で決まった。アルフレッドの圧勝だ。真面目に取り組めば出来るらしい。
「エドのお陰だね」
軽快なステップで隣に移動してきたかと思えば耳打ちされた。
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