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高い!
しおりを挟む「え? 何で!? めっちゃ分かりやすかったよ。ありがとうエド。やってみる。俺今の自分の魔法力のMAX値なんて気にした事もなかった。へえ、そうなんだ」
アルフレッドは鼻歌混じりに薬を調合し始めて、材料を混ぜていた瓶がボフッと良い音を立てた。淡いピンク色の丸い煙が出ているのは成功の証だ。
「見て、エド! こんなに綺麗に成功したの初めてだよ!!」
「それは良かったな」
苦笑しながら自分の物に取り掛かっていると、アルフレッドが手を伸ばしてきた。
「可愛いね、これ。あ、尻尾のアクセサリーまでついてる」
腰につけていたチェーン型の魔法力制御装置に触れられてしまい、慌てて身を捩る。
「ちょ、それやめろ!」
「エド、瓶!」
あ、と思った時には遅かった。チェーンが外れかかった事により魔法力量が過多になって、爆発する。
「ごめん。もしかしてそれ制御装置だったの? 大丈夫? エ……ド……ッ!?」
紫色の嫌な煙が引き、驚いたようなアルフレッドの声に顔を上げた。
しかし、太ももしか見えなくて首が痛くなりながらももっと顔を上げるハメになる。
——ああ、最悪だ……初めてやらかした。
爆発した魔法薬をもろに浴びてしまった。効果が出過ぎて自分が小さくなってしまっている。
この量だと数時間で元には戻るだろうが、授業には出れそうにない。
救いなのは服も一緒に小さくなってくれている事だろうか。体だけだったら今頃は公衆の面前で裸体を晒しているところだった。
「あははは、ミニエドめちゃくちゃ可愛い!!」
「アルフレッド……最低だ」
面白がっているのは一目瞭然で、腹立たしさから魔法で攻撃力を上乗せして、アルフレッドの膝に頭突きをお見舞いした。
痛がっているのを見て、したり顔で眺める。
「エドウィン・クラークは元に戻るまでは医務室へ行っていなさい」
呆れたような口調で教師に言われた。怒られるのも初めてだ。
また沸々と怒りが込み上げてきて、今度はアルフレッドの脛を殴ろうとした所で腕を掴まれて止められる。
「悪ふざけが過ぎます。今すぐ行ってきなさい」
「分かりました……」
解せない。これも全てアルフレッドのせいだ。
項垂れて床を見る。床がやたら近い。この大きさだと三歳児くらいの大きさしかないだろう。本当に腹立たしい。
「俺付き添いでいってきます」
「じゃあ、任せましたよ」
「はーい」
やたら元気なアルフレッドの声が響いている中で歩いていると、ひょいっと軽く持ち上げられた。
まるで幼子のように前抱っこされ、羞恥で顔が熱くなる。
義理の家族にも抱かれた事がないのに耐性などある筈もなかった。手足をばたつかせて暴れ回る。
「おい、ふざけるな! 僕を降ろせ! お前なんか嫌いだ!」
思わず口調が素面に戻ってしまった。
「はいはい。一緒に行こうねミニエド~」
背中をポンポンと叩かれてあやされる。絶妙な力加減に危うく寝そうになってハッと我に返る。
途端に視界がグラリと揺れた。長身ゆえに歩幅が大きい。アルフレッドが一歩踏み出す度に上半身が後ろへと大きく傾く。
——ひっ!
恐る恐る下を見ると地面が遠く感じた。高い所は苦手だ。落ちないようにアルフレッドの胸元にしがみつく。
「あ、もしかして怖い?」
眉間に皺を寄せて全ての元凶の顔を見上げる。気を遣って歩調を緩められたのにもムカついた。
「あはは、すっごい不機嫌顔」
「こんな扱い初めてだ……屈辱でしかない」
「ん? 小さい頃、親に抱っことかされてるでしょ?」
「ない。普通ならされているんだろうな」
視線を横に流す。
——僕にはそんな記憶はない。
引き取られた直後から既に一人部屋で、壁一面には本棚に収められた本しかなかった。
話し相手はいない。義理の母親から貰えたのは、一人部屋と一人で摂る食事と本を読む時間だけだ。
エレメンタリースクールに入ってからは、本屋と図書室の利用、あとは学習時間が追加された。
読書と勉強は、時間潰しになるからいい。
ストーリー性のある読み物は、まるで自分が体験しているような気分になるから勉強とは違った良さがあった。
あの頃はまだ魔法師になる夢を思い描いていた時期でもあったので、本を読んで独学で全て学んだ。
「ねえ、エドってさ、小さい頃とか何してたの? えっと、遊びとか」
アルフレッドからの問いかけに答えるかどうか一度悩みつつも口を開いた。
「遊び……自由時間なら読書が許されていた」
「許されていたって……え? 他は?」
「他? 他に何かあるのか?」
目を見開いたままこちらを見たアルフレッドが息を呑む。
——何だ。この男にも情緒があるのか。
何か言いたそうにしているのが分かったので、先に口を開いた。
「ああ、同情なら要らない。僕にとってはそれが当たり前だったから特に何とも思わないぞ」
足を止めたアルフレッドの体を伝い降りて医務室へ駆け込む。
中には医療魔法師をしている男性教員がいたので軽く会釈した。
「あらあら、可愛い姿になったねクラーク君。珍しく実験失敗かな?」
朗らかな雰囲気の男が表情を崩して柔らかく笑んだ。
「はい。ティルバーン君のせいで誤爆しました」
質問に答えると驚いた表情をされた。
これが普通の反応だろう。どこからどう見ても己とアルフレッドではタイプが違い過ぎる。
友人だと言っても疑われそうなくらいには、真逆に位置していた。
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