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急な訪問者

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 ワープゲートを潜ると直ぐに寮の出入り口に出れるようになっている。
 エドウィンの部屋は五階建てになっている横長の寮の三階に位置していた。
 南寄りの角部屋なので、ワープゲートを出た後は少し歩かなければならなかったが、苦ではなかった。

 靴音を響かせて歩くたびに首に巻いているローブが揺れる。
 自分の黒髪に合わせて、ローブも黒い色を買った。個人的に好きな色でもあるのでとても気に入っている。

 ドアノブに触れると魔法力を察知した扉がガチャリと開く。
 入学時に個人の魔法力の波動をインプットさせているので、魔法力さえ流し込めば自動で開く仕組みだ。
 部屋は六畳の1Rになっていて、然程広くはないけれども学校生活を送るには十分な広さだった。

 過去は二人部屋だったらしいが、色々な諍いごとが絶えなかったらしく、今は一人一部屋になっている。それに関しては心底良かったと思った。
 他人と生活を共にするのは気乗りしない。ずっと一人だったのもあって、今更他者と関われる気がしなければ関わろうとも思わないからだ。

 室内に入って起き時計に視線を這わせた。
 時刻はもう五時半を指している。一時間後には夕食の時間になるのでまた移動しなくてはならない。
 食事は食堂と二十四時間解放されているショップと調理室があり、そこで摂るように言われていた。
 料理は苦手なのもあって、決められている時間に用意された物を摂るようにしている。

「疲れた……」

 部屋に入るなりベッドに転がって呟く。アルフレッド・ティルバーンのせいで疲労感も倍増している。
 出来れば本と魔法薬学の資料を見たかった。昔から唯一許されていた遊びは、読書だけだったからだ。
 その時間を取り上げられると本当にやる事がない。

 何もかもを監視して思い通りに支配したがる義母の目から離れても、昔から習慣付けられているものは今更なおらない。逆に好きに過ごしていいよと言われると困る。何をしていいのかさっぱりだ。

 ——アイツらさえいなかったら今頃は読書に勤しめたのに。

 沸々と怒りが湧いてきて、頭からブランケットを被った時だった。コンコン、と来訪者を知らせるノック音が響いた。

 この部屋に来訪者なんて訪れない。昔からずっと一人なので、大学院内でも友人を作った覚えはないからだ。
 嫌な予感しかしない。扉越しに「誰だ?」と尋ねると「俺俺」としか言われなかったので、自分でも表情筋が固まるのが分かった。

「特殊詐欺はやめて下さい」

 何がおかしいのか笑っている声が聞こえてくる。

「俺にそんな態度取るのエドウィンくらいだよ」
「さっきも思ったが、思っていた以上に馴れ馴れしい男だな。〝君〟くらいは付けたらどうだ? それで、僕に何の用ですか?」

 わざと敬語に切り替えて返す。

「開けて欲しいなーとか思ってるんだけど、ダメ?」
「お断りします。自分の領域に他人を招き入れるのは苦手なので。どうぞお引き取り下さい」

 容赦なく切り捨てるとアルフレッドがまた笑う声が聞こえてきた。
 何がツボったのかさっぱりわからない。
 この男はドMなのではないかと考えていると、アルフレッドが口を開いた。

「じゃあまた会おうね」

 会いたくはないがクラスメイトなのでそうもいかない。

 ——どうしてこうなった? 思考回路がおかしいのではないか?

 自分とは全く異なるタイプの人種だ。極力関わり合いになりたくない。
 考えている内に夕食の時間になったので、アルフレッドに会わないよう祈りながらこっそりと食堂へと向かった。

 食堂につき、周りを見渡す。何処にいても目立つ男なので居れば直ぐにわかる。視界に入る範囲内に姿は見えない。胸を撫で下ろして、ブッフェ形式になっている夕食を取りに行った。
 食堂の隅っこに席をとって食事を始めていると、目の前に影が落ちた。

「ねえ、ここ座っていい? ううん、座るね!」

 先程確認した時には居なかったのに、なぜこの男がここにいるのか……。いや、学生なのだから居てもおかしくないのだが、他にも空いている席は沢山あるのに態々ここへ腰掛けた理由がわからない。
 アルフレッドは、エドウィンとは対照的に機嫌が良さそうだった。

 ——もういい。無視しておこう。

 切り分けたローストビーフを頬張る。火の通り加減と、かかっているソースの味との絡み具合が絶妙で思わず顔が綻んだ。
 アルフレッドに食い入るように見つめられているのに気がついて顔を上げる。

「僕の顔に何かついているのか?」
「ううん。小動物みたいだなと思って。おいしそう」

 顔が引き攣った。
 アルフレッドはこれでも一応百獣の王であるライオンだ。そんなセリフを言われると本当に食されそうで、心の底から思いっきり嫌な顔をして見せた。

 さして気にもしていないといった様子で、アルフレッドも食事を始める。その皿に乗っているのはどれも肉ばかりだ。見ているだけでも胃もたれがした。

「野菜も食べたらどうだ?」

 思わず口を出してしまい、気まずくなって口を閉ざす。

「エドウィンから話しかけてくれるの嬉しい! でも俺、野菜嫌いなんだよね」

 不味そうな顔をしたアルフレッドが妙に子どもじみていて笑ってしまう。すると、興味津々に見つめられた。


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