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第七話、暗転と亀裂

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「ニギハヤヒ、ダメだ! 朝陽は多分毒に等しい何かを摂取させられている! 今のまま生き返らせても朝陽はまた死ぬ事になる!」
「っ⁉︎」
 朝陽の着流しをはだけさせたオロが、自らの掌を爪で切り、朝陽の心臓の上に切った掌を押し当てる。
「ボクが持ってる毒で毒を中和する!」
 オロの流す血液が直接朝陽の中に流れ出す。
「それなら私にも出来る!」
 キュウも己の掌を噛み切り、オロと同じように朝陽の体の中に直接血液を送り込む。二人の血液が送り込まれた事により、摂取させられていた物が形を変えて黒い液体となり朝陽の口内から少しずつ流れ出てきた。
「う……ダメ。今のボクじゃ力が足りない」
「私がやる」
 キュウの頭に耳が生え、フサリと尻尾も現れた。全神経を掌に集中させて、朝陽の中の異物を中和させていく。
「生玉、二人を手伝って朝陽を生かせ。後、蛇比礼《オロチのひれ》出て来い」
 声かけに反応してニ種の玉が光る。
 残りの一つはニギハヤヒの掌の上にのり、そのままオロに投げ渡した。
「オロ。お前の霊力の源だ。それがあれば完全に力が戻る筈だ!」
「え、ボクの……?」
 オロの体に吸い込まれた瞬間、オロの体に巡る霊力が格段に増していく。その変化にはその場に居た全員が驚きを隠せなかった。
「昔お前から取り出した霊力と比礼はスサノオが剣にしてアマテラスに献上していた。それらの形を変えて神宝にしている。お前が儂に感じていた懐かしさは、きっと比礼があった名残りからだ」
 納得したのと同時に、オロがまたさっきの作業の続きを始めた。
 先程よりも格段に効率よく行えるようになっている。その途中だった。朝陽の体が勢いよく跳ね上がり、黒い液体を口から吐き出す。
「出た!」
「お、ろ?」
「朝陽、気が付いたの?」
「キュ……、ウ」
 体が温かい。あんなに苛まれていた全身の熱さや痛みが無くなっていた。
「な、んで、俺……生きてる?」
 正確には朝陽は仮死状態だった。それがオロとキュウのお陰で持ち直した。
「死返玉」
 ニギハヤヒが玉を手に乗せる。
「一《ひと》、二《ふた》、三《み》、四《よ》、五《いつ》、六《むゆ》、七《なな》、八《や》、九、十《ここのたり》……布留部由良由良と布留部」
「死返玉! アマタケをっ、物部アマタケを甦らせろ!」
 物部がタイミングを合わせて叫んだ。
 だが、シンとした空気が流れ、何も起こりはしなかった。その一方で朝陽の体が元の状態に癒えていく。
「言った筈だ。不可能だと。アレの真名は儂しか知らん」
 物部の顔が忌々しそうに歪んだ。
「おい、ごたくはいいんだよ。異界ならもう好きに暴れてもいいよなあ? そろそろ我慢も限界だ」
「好きにして良い。儂も好きにする。久しぶりに腸が煮えくり返っておるからな」
「おい、てめえ。人の嫁に好き勝手しておいて無事で済むとは思ってねぇだろうな? あ゛あ゛?」
「ふふ。将門、テレビとやらで見たチンピラみたいになってるよ。でも、まあ同感だね」
 晴明の目がスッと細められる。
 今まで溜まった鬱憤を晴らさんばかりに憤る三人を見て、もう動けるようになった朝陽が言った。
「なあ、何でアイツらキレてんだ……?」
「え……?」
 オロとキュウの間に暫しの沈黙が流れる。
「朝陽って本当に鈍いよね」
 キュウの言葉にオロが頷く。
「ホントそれ」
 将門が少し前にブツブツと文句を言っていたのを思い出して、そういう点ではこれから気苦労が絶えないのかもしれないと二人は思った。
 離れた場所では、凄まじいまでの激戦が繰り広げられている。大気が震え、重力さえ支配していた。霊力が衝突しあい異界でさえも耐えきれずに歪みが生じている。所々の空間が裂け自己修復さえも間に合っていない。
 そんな中で、のほほんとした空気が流れているのは此処だけである。
「何だよそれ。てかアイツら手加減知らねえんかよ。異界の空間にヒビ入ってっけど大丈夫なのか?」
「あー。マズイね。その前に朝陽……どさくさに紛れてどうして私の耳と尻尾モフってるの? ねえ知ってた? 一応尻尾も耳も性感帯だからね」
「え?」
「後で覚悟してなよ。朝陽の胎ん中、私の精子で埋まるほど犯してあげるから。気絶しても離してあげない」
 ニッコリと笑ったキュウが朝陽に死刑宣告を通達した。
「え?」
「あ、ね。晴~明~!」
 キュウの呼びかけに晴明が視線だけを投げる。
「異界壊れてきてるから撤退しない? このままじゃ異界ごと本当に海に沈んじゃう。その子無理やり引きずってきちゃいなよー。もう勝負見えてんでしょ」
 頷いた晴明が将門とニギハヤヒを止めに入った。


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