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第七話、暗転と亀裂
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しおりを挟む「な……、に」
「確かに始めは物珍しさの方が上回っていた。だが今は、桜木朝陽という人間に惹かれている。伝わらんか?」
「何で、今頃……」
動揺を隠せずに朝陽の瞳が揺れる。
「朝陽は今まで私達の言葉の一体何を聞いていたの⁉︎ 朝陽だから一緒にいるんだよ! あんなに側に居たのに伝わってもいなかったの⁉︎ 他と番えなんて二度と口にしないで!」
「オレは君がまた生まれてくるのを待っていた。もう離れたくない。このまま繋がりを持ち続けていられるなら、この身が朽ちても構わない!」
「ボクも朝陽の隣がいい。ずっと一緒に居たい。朝陽がいい」
「俺は出会った時からお前しか見ていない。始めっからそう言っているだろう! いい加減腹括って正面から向き合えっ‼︎」
将門にまで怒鳴られて、朝陽の顔がクシャリと泣きそうに歪められる。
「くっそ、バカ……っか」
何故信じてやれなかったのだろう。今まで一体何をしていた。彼らの何を見ていた? 華守人と番という関係で無理やり割り切ろうと線を引いていたのは自分自身だった。
『嫌いにならないで。側に居て欲しい』
昔からそればかりを思っていた。
失うのが怖かった。側に居た者が突然豹変して去っていくのが怖かった。本音を告げて拒否されるのが怖かった。
今まで口にできなかった言葉を噛み締める。本音を殺す事ばかりを覚えた頃には、朝陽はどんどん本音が吐けなくなっていった。
「俺、は……」
何かが流れた感触が頬にあり、手を伸ばすと涙が伝っていた。
いつまで何もせずに、また伝えもせずに諦めるつもりなのだろう。朝陽は胸の内の葛藤を戒めて言った。
「ごめん。悪かった……。俺も、お前らの事……好きだっ。必要なんだ。側にいたい。離れたく……ない。消え、ないで。一人は……嫌だ。お願い、だ。消えないでっ」
嗚咽で、最後ら辺の言葉は声にならなかった。
「泣くな」
将門に引き寄せられて、ペロリと涙を舐め取られる。目を閉じると眦に溜まった涙が頬を伝った。
朝陽の掌が発光し、幾つかの玉が生まれる。切った筈の掌の傷が癒えているのを見て、朝陽は直感の赴くままに生まれ落ちた玉を目の前にいた将門の腕に埋め込んだ。
玉が溶け込むように吸い込まれていったかと思えば、腕の変色さえも止まってやがて治った。
「腕を見せてくれ!」
手早く次々と埋め込んでいく。
——大丈夫だ……っ、きっと大丈夫。
己に言い聞かせる。心臓が爆発しそうなくらいに大きく鳴り響いていた。ジッと食い入るように見つめて、全員の腕がきちんと完治したのを一人一人丁寧に確認する。
——大丈夫、だ。
朝陽は心の底から安堵の息をついた。
「治った……っ。良かった。本当に良かった」
自分で自分の宝物たちを無くすところだった。
殻にばかり閉じこもって何もせずに、今までの事を何もなかったままにしたくない。
それでも言葉にするには、朝陽にとってはさっきと同じように、とてつもなく勇気が必要だった。何度も口を開いて、閉じてと繰り返す。きちんと言葉にする為に。
「お願……い、俺の、側にいて欲しい。どこにも、行かない……っで、くれ。お前らが必要なんだ!」
怖かった。か細く声が震える。それでも全員にしっかりと届けたかった。
初めて吐露した朝陽の本音に応えるように、五人の手が朝陽の肩や頭に乗せられた。
「安心して」
「当然だね」
「むしろ離れられると思うな」
「朝陽が嫌がってもボクは朝陽の周り彷徨くよ?」
「当たり前だ。離れる気なんてない」
キュウの言葉を皮切りに、晴明、将門、オロ、ニギハヤヒと続く。本格的に泣けてきて、その場に蹲ったまま泣いた。
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