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第七話、暗転と亀裂

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 物部の言うように、死者を甦らせる力もあるみたいだが、朝陽も実際現物を見た事もなければ聞いた事もない。使用方法も知らない物など持っていても意味を成さない。宝の持ち腐れも良いとこだ。それに、言い伝えだけでは信憑性に欠ける。
 そこまで考えた時に、新たな気配が入って来たのを感じて朝陽の肩がピクリと震えた。
「物部アマヤは名前からして儂の直系の子孫だろう。あいつには関わらん方がいい」
 背後からニギハヤヒの声が上がる。
「お前らは招いてない」
 振り返りながら、棘のある声音で言うなり睨みつけると、ニギハヤヒと視線が絡んだ。
「十種神宝を勝手に移した事を黙っていて悪かった。理由を話せなかったのも、お前に知らせずにこっちで対処出来ればいいと勝手に儂が思っていただけだ。お前を傷付けるつもりはなかった。その理由を話しにきた。——朝陽、お前はあと二日以内に死ぬ」
「何だよ……それ」
 突拍子もなく告げられ、朝陽は眉間に皺を寄せた。
「儂はお前が死ぬのが分かっていた。だが失うのが嫌で十種神宝をお前の体内に移した。儂はそれをお前どころか、此処に居る全員に隠していた。九尾と晴明にはその事を見破られただけだ。許してやってくれ。その神宝があればお前を甦らせる事が出来るからだ。華守人に会うのも稀なのに神造人に会えるなど思ってもみなかった。それ以上に……「聞きたくないっ‼︎」」
 朝陽はニギハヤヒの言葉を遮って叫んだ。
 絶望しかなかった。これ以上何かを聞いてしまうと耐えられそうになかった。
「お前らは……俺が華守人で神造人だから一緒に居たんだな」
「違う! 朝陽、話は最後までちゃんと聞け!」
 言葉は全て朝陽の耳を滑り落ちて行った。
「別に聞く必要ねぇだろ。それとも聞いた後でもっと絶望しろって? 冗談じゃない。もう二度と……顔も見たくない」
 キッチンまで行き、果物ナイフを取り出して掌をきる。
「朝陽……、何をしている?」
 将門の声が強張った。
「番契約を解消する」
「朝陽!」
 将門が伸ばした手は朝陽が身の回りに張っていた結界に阻まれて弾かれた。
 結界越しに視線が絡む。
 普段の温和な表情や雰囲気は今の朝陽にはどこにもない。虚無感しか伝わって来ない瞳が将門を捉えていた。
「ちっ! おい、朝陽……っ」
 かけられた言葉にも構わずに、朝陽は己の血液に霊力を混ぜ合わせて言霊を乗せる。契約の証を中和し、そのまま解除する為に血に濡れた手で己の頸を触ろうとした時だった。
「やめろ!」
 全員に腕や肩を掴まれて阻まれる。張った結界がバチバチと嫌な音を立てて全員の腕を焼いた。
「何、して……っ? お前ら早く手を離せ! 腕が焼けて無くなっちまうぞ!」
「はっ、なら根比べだな」
 将門の言葉に朝陽は息を呑んだ。
 結界に阻まれている所の番達の皮膚が変色し始め、やがて崩れ始める。
 輪郭さえボヤけて無くなって行くのが分かって、朝陽は耐えきれずに結界を解いた。
「何で……何で、こんな事するんだよ!」
 朽ちて行こうとする番達の腕に守りの結界を張る。
「分からないか?」
「分かるわけないだろう! 大切な事は何も言ってくれないのに、分かるはずがない‼︎」
「なら、お前はあるのか? これまで生きてきて、ちゃんと己の口で自分の本当の気持ちを伝えた事はあるのか?」
「……っ!」
 ぐうの音も出ない。何もなかった。
 本音なんて自分から言葉にして伝えた事などない。人にばかり求めて、自ら行動した試しも一度だってない。悲観に暮れ、いつも全てを諦めてきた。どうせ理解して貰えないとそう思っていたからだ。
「俺、は……。え、あれ?」
 そこで異変に気がつく。
 守りの結界を入れた筈の皆の腕が元に戻る事どころか、別の箇所もどんどん変色していくのだ。
「な、んで……、止まらない?」
 重ねて守りの結界で皆を包むがそれでも駄目だった。微妙に朽ちる速度を落とすだけで、治りはしない。
「嫌だ。何で止まらないんだ。嘘だ……。こんなつもりじゃなかったのに。何で……っ。何でそこまでして俺に構う⁉︎ 俺なんてもう放っておけば良かっただろうっ! こんな事しなくても、次の華守人を探せば済む話だった! このままじゃ消えちまう‼︎」
 腕から始まり、全身が朽ちるまで時間の問題だった。
 焦燥感に囚われ、守りの結界を張り続ける。こんな事をするつもりではなかった。それは本心だった。また、ここまでして止められると思ってもみなかった。
「朝陽と番でいられるなら私は消えてもいいよ。それより……次って何? 朝陽じゃないのに番う意味あるの?」
 初めてキュウに睨まれた。
 煩いくらいに鼓動を刻む心音が聞こえてきそうなくらいに大きくなった。
「華守人じゃない。お前自身を愛している。例え、己の力が弱まろうとお前を失いたくなかった。悪かった、朝陽」
 真摯な眼差しで語りかけるニギハヤヒの言葉からは偽りは見えずに困惑した。


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