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第六話、引越し先はいわく憑き物件。浄霊したら神聖な間になり過ぎて、ついに出来ちゃいました

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「朝陽、朝陽! 起きて!」
「んー……、何だよキュウ」
 入眠して然程時間も経過していない。
 寝ぼけ眼をこすりながら、朝陽がぼんやりとしている視界にキュウを映すと、見慣れないものが視界に飛び込んできて、驚きに目を瞠る。
「やっば、私たちの子たち死ぬ程可愛いんだけどどうしよう⁉︎」
 キュウの腕の中に狐耳と尻尾の付いた幼児が居て一瞬で目が覚めた。しかも一人だけではなく二人いる。
「ふ、たご?」
 一人はキュウにそっくりでもう一人は朝陽に似ていた。
「朝陽が突然うなされ出したと思ったら、お腹のとこから大きくて光る球体が二つ出てきたんだよね。光が収まったら子どもがいたよ」
 唖然としたまま朝陽は声も出せずにいる。神を生むのに性的な絡みは必要ないらしい。
「シシ、また生まれたな!」
 ニギハヤヒが寝室に入って来て、双子を抱っこした。
「お前らは狐塚の守りをしろ……っと、忘れてた!」
 ニギハヤヒは慌てた様子で朝陽を振り返ると「コイツらが生を受けたのは役割があるからで」と理由を説明し出した。
「これからすぐに行って貰う事になるのだが良かったか?」
「え、もう居なくなるのか?」
「はい……」
 敬語になったニギハヤヒはどこかソワソワしている。もう居なくなると聞かされた途端に、朝陽の目からボタボタと涙が落ちていく。昨夜と同じ状況だった。
「キュウ~」
 朝陽がキュウに縋りつく。
「え、何これ。超可愛いんですけど。何。尊い。私を尊死させる気?」
 朝陽を正面から抱きしめ返して、瞳孔は開いたままキュウの表情筋が死んだ。
「可愛い。無理。どうしよう。攫いたい。このまま監禁したい。また孕ませたい。誰も朝陽の事を見なければいいのに。あ、潰せばいいんじゃない? 皆んなの目、潰しちゃおう」
 息継ぎなしの早口で物騒な言葉を綴りつけるキュウに、ニギハヤヒが「もういいか?」と尋ねた。
「仕方ないしね。いいよ」
 昨夜みたいに窓の外にぶん投げて、チラッと朝陽を確認したが、朝陽は目を瞑っていた。そのまま寝てしまったらしい。ホッと胸を撫で下ろしたニギハヤヒが寝室を出ようとするのをキュウが呼び止めた。
「ニギハヤヒは何で生まれた事が分かるの?」
「魂の揺らぎを感じ取る事が出来るからだ」
「へえ。じゃあさ、何で朝陽の中に十種神宝があるの?」
「…………本題はそこか」
 少し間を空けて口を開いたニギハヤヒに、キュウが頷いて見せた。
「オレもそうなのではないかと疑問に思っていた」
 音もなく晴明が現れ、話に乗ってくる。
「狐は昔っから眼が良いからな。特に九尾の狐。お前は白昼夢で見たのではないのか?」
「っ!」
「それも合わせて、近々起こる真実だ。儂が朝陽に埋めたかったのは死返玉《まかるかへしのたま》だったが、それを安定させる為に、その他の宝も故意に埋め込んでいる。例え神の座を返上する事になったとしても、朝陽は手離したくない。お前らかて同じだろう? だから朝陽にはまだ黙っていてくれんか? いらん心配はさせたくない」
「死返玉、だと?」
 ニギハヤヒの言いたい事を悟った晴明が目を見開く。
「まさか、朝陽は……」
「ああ。そうだ」
 キュウは朝陽を抱きしめている腕に力をこめる。
『嘘はつきたくない』
 朝陽の言葉が脳裏に甦り、キュウの胸に突き刺さる。葛藤が胸中で渦巻いていた。
 ニギハヤヒが言った事も尤もで、キュウも晴明もそれ以上口を開けずに言葉も返せなくなる。其々が、ひたすら朝陽の事だけを想った。

 それから五日間連続で朝陽は神を生み落とした。
 生まれた瞬間、それぞれの穴埋めとして神社や塚に回された。いくら霊力が底なしとは言え、神を生む行為はさすがの朝陽も疲れを見せている。というよりも満身創痍だ。
「良く頑張ったな、朝陽」
「朝陽ボクの子までありがとう」
「オレも嬉しい」
「ん、いいよ」
 三人に頭を撫でられて目を閉じた。
 明日からは休日だ。ゆっくり眠れる。朝陽は連日の疲れを癒すように深い眠りへと落ちて行った。連休は有り難いもので、朝陽の疲労もすっかり癒えた。

 ——また来たのか……。
 新居に移ってから毎日と言うわけではないものの、何故か将門がまた朝陽の会社に着いてくるようになった。
 周りには見えないのをいい事に朝陽にべったり張り付いている。どうも家を貸した赤嶺の事が気になるらしく、目を光らせている状態だ。
 何か感じる物があるのか、赤嶺はたまに身震いして仕切りに背後を振り返ったりしている。
「将門いい加減にしろ。赤嶺が可哀想だ。今日はもう帰れよ」
「お前にその気がないのは分かったが、相手もそうとは限らんだろう」
「単なる同僚だ。普段俺が誰とも話さないから物珍しいだけだと思うぞ?」
「本当にそれだけならいいがな」
 そう言うと将門は居なくなった。

 仕事帰りに電車に乗り、最寄りの駅で降りて階段に差し掛かった時だった。
 背後から影が落ちたが、同じように帰宅途中の人間だろうと思い、朝陽は振り返りもせずに階段を降ろうと足を伸ばした。
「お兄さん、じゃあね」
 聞き覚えのある声がしたと思いきや、朝陽は階段の上から思いっきり突き飛ばされる。
 十五段はある階段の一番上から下まで転がり落ちた後、朝陽は一度呻き声を上げたまま動かなくなった。
 頭部の下に赤い液体が広がっていく。初めからそこには誰も居なかったかのように、少年の姿は人混みに紛れて消えた。
「きゃあああ」
 女性の叫び声と共に周りが騒然とし出す。外野の声を遠くで聞きながら、朝陽の意識はそこで途切れた。




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