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第四話、美青年陰陽師に異界を憑れ回された挙げ句に扱かれています……

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「朝陽の霊力のポテンシャルの高さなら皆んな知ってるよ」
 キュウが不満たらたらに、そう口にする。
「なら、具体的にオレはどうしたらいいのかな?」
「私が言いたいのは独り占めはダメってこと! どっか行くなら皆んな誘ってくれる?」
「ふふ、承知した」
 和解したらしい。
 その横で、朝陽だけが拗ねていた。
「晴明なんてもう信用しない」
「傷付くなそれは。このまま異界に連れ去って朝陽が分かるようになるまで徹底的に教え込もうか。朝陽といる様になってオレも霊力が漲っているからね。今なら自己記録も更新出来そうだよ」
 涼しい顔で物騒なことを言われて、朝陽の体がビクリと震えた。
 逃れるようにすぐ側にいる将門に抱きつく。
「ごめんっ、俺晴明のこと信じてる!」
 あんなセックスは二度とごめんだった。
 抜かずの六連発なんて、都市伝説すら超えている。
「お前、朝陽に何かしたのか?」
 非難めいた視線を寄越す将門に向けて、晴明は一度だけ視線をやったが「これといったことは何も」と涼しい顔で返した。
「朝陽~ボクお腹空いた。明日はお仕事お休みだから今日は食べても良いでしょ? 将門とキュウもお腹空いたんだって。ねえ?」
 あえて空気を読まない戦法なのか、オロが無邪気に笑う。
「そうだな。帰るか」
 将門の言葉に全員頷く。
「という訳で行くよ朝陽」
「……え?」
 両側をキュウと将門にガッチリと掴まれ、後ろ向きにズルズルと引きずられる。
 一番最悪なパターンが来てしまった。
 逃げようにも逃げられない。
 しかもこの格好のままでは、人目のある場所に出てしまえば一般人に見られてしまう可能性大だ。
 将門とキュウを止めてくれそうな人を朝陽が探していると、晴明と視線が絡んだ。
「オレが異界へ繋げたら時間軸もいじれるよ」
 晴明のセリフを聞いて、キュウと将門の動きが止まった。
 二人の顔つきが変わっている。
 オロは理解出来ていないらしく、首を傾げていた。
「何なら朝陽もゆっくり休ませる事も出来るし、これからは異界で朝陽を独り占めも出来るけど?」
「おい、晴明の役割はそうじゃないだろう⁉︎」
 良からぬ結果になりそうで、朝陽は慌てて声を張り上げた。
「助けて欲しかったんじゃないのかい?」
 クスクスと笑う晴明を朝陽は再度睨んだ。
 態とだ。
 それだけはハッキリと分かってしまった。
 助けて欲しかったのは本当だが、こんな顛末ではない。
「朝陽は黙ってて。ねえ、それって今からでも出来るの?」
 キュウが食いつく。
 いつになく真剣な表情をしていた。
「いつでも好きな時に。という訳で、異界から家に帰らないかい? これでは朝陽が困ってしまうからね」
 静かな口調で言いながら、晴明が空間を切ると異界への扉が開かれた。
 三人が同盟を結んだ瞬間、朝陽はガックリと項垂れる。
 この組み合わせは最強で最悪すぎた。
 晴明が加わったことにより無敵に等しい。
 全員に扉の向こう側へと無理やり引き込まれ、結局はこうなるのかと朝陽は何だか泣きたくなってきた。





 異界に行くようになって、晴明の番が回ってきた後は休んだとしても朝陽の憔悴具合が半端じゃなくなった。
「ねえ、晴明。君ってもしかして妙な性癖とか持ってる?」
 キュウからの質問に対して晴明は首を振る。
「至って普通だよ」
「じゃあなんでいつも朝陽はイっちゃった顔のままなの?」
 すかさず再度ツッコんだキュウに、晴明が首を傾げる。
 本当に分かっていないような印象を受けた。
 晴明は表情があまり変わらないから分かり難いが、最近は朝陽を含めた番達も何となく察することは出来るようになっている。
「どうだろう。自己記録をずっと上塗りしてるくらいしか思い当たらないな」
 晴明は至って真剣な表情をしていた。
「自己記録……、今はどれくらい?」
「抜かずの十連発」
「それだ(よ)っ‼︎」
 鬼畜仕様だった晴明のポテンシャルに、全員の声が一つになる。
 驚くほどの声量だった。
「晴明て性欲バカだったんだね」
「朝陽は人間なんだから、もっと考えてあげて!」
「あの狐の血か……」
 オロに続き、キュウ、将門が続ける。
 将門の言い分はズレていたが、晴明を止めてくれるのならこの際何でも良い。
 部屋に腰掛けている晴明の膝の上には、朝陽の頭が乗せられている。
 晴明は聞いているのか分からない涼しい顔をして、朝陽の頭を愛でていた。
「それはやり過ぎだから、本っ当に加減したげて!」
 晴明は返事をしなかった。
 愛おしそうに朝陽へ視線を落として、ひたすら朝陽の頭を撫でている。
 ——もっと言ってやってくれ……。そうじゃないと俺の腰とケツが再起不能になる。
 死活問題ながらも言葉を発するのも億劫で、目を瞑りながら晴明以外を応援している朝陽は気が付いてもいない。
 愛おしさが溢れて止まらないと言わんばかりの欲情と愛情が、晴明の瞳の奥で滾っているという事に。
「まあ、気持ちは分かるけどね」
「まあな」
「それね」
 キュウと将門とオロが口々に同意する。
「ふふ、だろう? でもこれからは善処しよう」
 晴明がようやく折れた。
 朝陽は心底ホッとして目を閉じたまま眠りにつく。
 その寝入った姿を微笑ましく見つめている番たちには気がついてもいない。
 晴明は朝陽を抱き上げるとベッドの上に下ろす。
 振動で意識が一旦浮上したが、守られているような安心感がひしひしと伝わってくる。
 それがとても心地良くて、朝陽の意識は深く沈み込んでいった。
 

→第五話へと続く



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