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第25話、飽きないんかよ

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「くそ、避けんな!」
「避けないと当たってしまうだろう?」
 アスモデウスの言葉に、碧也は思いっきり舌打ちした。
「当てる為にナイフ飛ばしてんだよ!」
 食後の軽い運動と言いつつ、大広間で暗殺劇を繰り広げている。かれこれ三十分はこうだ。
「軽い運動って何だっけ?」
 ロイの言葉にイアンが笑う。
「この光景はもはや魔界の名物ですね。アスモデウス様と碧也様が楽しそうで何よりです」
「……うぜえ」
 ジェレミがボソリと口走る。
「失恋したからって見苦しいですよ、ジェレミ」
「あーあーあーあー。そうだよ、悪いかよっ! 一瞬で陥落させられて同時に失恋も決定したわ!」
「ああ、とうとう認めましたね」
 イアンが目を丸くした。
「同情するならアレみたいなのを俺に紹介しろ」
「いませんね」
「うん。居ない」
 即答でバッサリと切り捨てたイアンとロイの言葉に、ジェレミは後頭部をかいた。
「はぁーーー。確かにいねえよな。何でアレは俺のモノじゃねーんだろ」
「まあ、でもジェレミの言う事、少しわかるかも。アスモデウス様の番じゃなかったら、僕も魔界にお持ち帰りしてるね。友人としてだけど」
 時間になり、アスモデウスの暗殺劇が終わりを迎える。それと同時に三人に向けてナイフを飛ばした。
「お前らさっきから訳わかんねえ事ばっか言うな。うるせえ! そっちの小言で集中出来なかっただろが!」
「八つ当たりは反対です」
 それぞれナイフを受け止めた三人が声を揃えて言った。
 アスモデウスに正面から持ち上げられ、人目も憚らずに口付けの嵐を送られた。
「ああ、もう! キスするのやめろ!」
「照れるな、照れるな」
「うるさい!」
 顔が熱い。火照った顔を隠すように暴れると、地に降ろして貰う事には成功した。
「碧也、今日は何して欲しい?」
「何も」
「それは契約違反だと言っただろ?」
「そっちの契約はもう良いだろ。解けよ」
 過去に契約違反をして散々な目に遭っているので、解除を求めているが聞き入れられた試しがない。
「駄目だ。あー、俺がイクまで騎乗位で頑張るか?」
「お前遅漏だから嫌だ。オレが死ぬ」
 そう言うとアスモデウスが笑った。
「三回連続で決まりだな。頑張って腰振れよ」
 アスモデウスの言葉に憤慨して声を上げた。
「嫌だって言っただろ!」
「お前に拒否権はない。そうと決まれば風呂に行くぞ」
「風呂は行く」
 アスモデウスに少しだけ身を屈められると、条件反射の如くその首に腕を回して引っ付いてしまった。
「クク、まるでパブロフの犬だな」
 悔しいが言い返せなくて言葉を飲み込む。三人を残して、アスモデウスと共に風呂へと歩き出した。

 ***

「うぁ、ああっ、これ……お湯が……ッ入る!」
「だが、浮力で動きやすいだろ? 声は殺せよ碧也。お前の可愛い喘ぎ声が誰かに聞かれてしまうぞ」
 動く度にお湯が音を立てて、排水口へと流れていく。
「ん、ん……っ、んんん!」
 確かにいつもより動きやすいではあるが、肝心の奥にまでは挿入ってこなくて、碧也はもどかしい思いをしていた。奥に行くまでに腰が浮いてしまう。
「アスモデウス……っ」
「どうした?」
 言いたい事は何となく分かっているのだろう。
 アスモデウスにニヤニヤしながら、問いかけられた。
「もっと奥に、欲しい……っ、んぁ、あん、奥……っゴリゴリ、されたい」
「すっかり淫乱になったな」
「お前の……っ、せいだろ。こんな、訳わかんねえ体に……ッしやがって」
 自慰をするにしても、もう前だけで達する事は出来なくなっていた。
 後ろも弄るだけじゃ足りなくて、アスモデウスの陰茎を埋められて結腸まで擦られないとイけずに、子種を欲しがるように腹の中だけが切なくなる。
 あんなに嫌で捨てたかった長めのバイブも、結局はお気に入りの一品と化していた。
「ああ、俺だな。永遠に面倒を見てやるから許せ」
「飽きないんかよ……っ、あ、あ、んぅ!」
 中を緩く甘突きされて、碧也が喘ぐ。
「愚問だ。アルファに戻してやろうかと言いはしたが、手放すとは言っていないぞ。交わした契約でも手放すという条件にはしていないしな。次から契約はもっと詳細まで確認するようにしろ。それに、お前は自分が運命の番でオメガだから俺を欲しているとばかり思っていただろ? アルファに戻す事で、その考えを徹底的に壊すつもりだったから聞いたんだ。そもそも俺は運命だからお前に惹かれているわけじゃない。確かに初めは運命とやらに興味津々だったけどな」
「は?」
「あと、ネタばらしをすれば、俺クラスの人外は一度消滅してもすぐに蘇生する。まあ、運命という肩書きは消えたかもしれんが。それをお前が自ら契約を持ちかけて〝継続〟どころかそれ以上の案を出すとは思いもしていなかった。己の生死にさえ無頓着なお前がだぞ? あの時俺がどれだけ歓喜で震えたか分からんだろう? 笑いを堪えるので傷口が痛んだ」
 アスモデウスは一息に喋り終えると今度は肩を震わせて笑った。頭、うなじ、首筋に口付けられる。
 詐欺にでもあった気分だ。契約し損だったなんて知りたくなかった。
「全ての契約を破棄したい」
 久しぶりに心底殺してやりたいと殺意が芽生える。
「駄目だ。あれらはもう受理された。碧也、俺はお前の運命の番なんだろう? 手放していいのか?」
 悪態を吐こうと思いっきり振り返った瞬間、待ち構えていたようなアスモデウスの口に口を覆われる。
 今度は向かい合う形で腰の上に座らされ、碧也は酸欠になる手前まで口内を貪られた。
「はぁ、っ、はっ、ん、ぅ、う!」
 浮力で浮いてしまわないように片腕で押さえられ、下から突き上げられる。奥を狙ってグリグリと腰を押されると、快感で目の前では火花が散った。
 グポンと音が鳴り、碧也は待ち望んだ快感を与えられる。
「んんんーーーーー‼︎」
 嬌声はアスモデウスの口内に消えていった。
 そのまま立ち上がったアスモデウスに駅弁のスタイルで抽挿を繰り返される。緩やかな動きだったり、時には激しく内部を掻き回された。
「あああ゛、あ゛ーーー! あ、ん、アアッアア、あ、アスモデ……ウス、気持ち……っいい、奥ぅ、ゴリゴリ……、気持ちイイ……っ、んんん゛ーーーー‼︎」
 風呂場で何度も体位を変えて交わる。
 声を殺している余裕すらないまま、碧也は散々鳴かされた。
 風呂から出た頃にはのぼせきっていて、碧也はベッドの上で冷たい濡れタオルを乗せられている。
 冷水や濡れタオルを持って来てくれたジェレミやロイが、やたら赤い顔をしているのに気がついて「どうかしたのか?」と視線でイアンに訴えたが、クスリと笑まれただけで流された。
 そこへアスモデウスが帰ってきた。
「碧也気分はどうだ」
「だいぶ良くなってきた」
 ベッドに腰掛けたアスモデウスの手が伸びてきて、頬を擦られる。
「それは良かった。ところで碧也、何故あの時契約したのかお前の気持ちを聞いていないのだが、ちゃんと言葉にはしてくれないのか?」
 ニヤニヤしたアスモデウスに問われ、碧也はタオルで顔を隠す。
「お前だって言ってないくせに。オレにだけ言わせようとするな」
 アスモデウスは肩を震わせて上機嫌で笑い、口を開いた。
「愛しているぞ、碧也」
 直で言われると恥ずかしさでキャパシティーオーバーになる。
 あえてアスモデウスに背を向けて、碧也も言葉にした。
「オレも……お前を……てる…………と思う」
「クク、言い切ってくれんのか?」
 ピクリと碧也の体が揺れる。
「柄じゃねえんだよ……」
 何度か唸り声を上げた後、碧也は諦めたように口にした。


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