【完結/BL】 Ω堕ち元αは運命の番である最高級人外αを10回殺したい

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第24話、それだけが存在理由だった

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「まあ、予定通り碧也をオメガにしてくれた事には感謝するよ。これで私の子を孕ませられる。あの男を唆して、碧也にお前の暗殺を依頼するように仕向けておいて良かった。子は一人産んでくれるだけでいいよ。どうせ飽きちゃうし。すぐ帰してあげる」
 横向きにした三日月のように目を細めた世良がアスモデウスを見る。
「お前が碧也を生きたまま解放するとは思えんな。用が済んだら消す気だろうが」
「せいかーい。さすが長い付き合いだけあるね~。用済みを生かす理由なくない?」
 天使が善人で思慮深い存在だなんて一体誰が決めたのだろう。まるっきり真逆じゃないか……。
 人情味に溢れてて、仲間と笑い合って、王を大切にして、愛情豊かな彼らの方がよっぽど人間に近くて、親しみやすく思える。なのに目の前の男はどうだ? 他人を道具だとしか思っていない。いや、道具以下だ。
「碧也はやらん。さっさと帰れ。それに大天使様となると、此処の空気は肺を病むだろうに?」
 嫌味たっぷりに言ったアスモデウスが掌から生み出した炎を世良に放つ。それもすぐかわされてしまう。
「それね。だから早々に碧也を連れて帰りたいんだよね。もう死んどきなよ、アスモデウス。これでお前との腐れ縁も終わりだ」
 世良から殺気が放たれる。クロスボウからまた矢が何本か放たれた。
「アスモデウス様!」
 イアンが飛び出しアスモデウスの前に出たが、アスモデウスはイアンを退かして自身が矢を受けた。
「相変わらず部下思いだね。そんなの捨て駒にしとけばいいのに。まあ、ソイツはこの矢を一本でも受けたらそのまま消滅しちゃうもんね」
「……っ!」
 ——このままじゃダメだ。皆消滅させられてしまう!
 昔かかわった時に世良へ攻撃を当てられた試しは一度だってなかった。
『目だけで見ようとするから見えなくなる』
 アスモデウスの言葉を脳裏で反芻し、己を落ち着かせるために一度深呼吸した。
 力の抜けていた四肢に力を込めていく。
「オレが隙を作る。だから協力しろ。合図したらオレの頭を目掛けてナイフを飛ばしてくれ。直後一斉攻撃だ」
 こっそり耳打ちする。
「碧也、しかし……」
「大丈夫だ。オレはお前の言葉を信じている」
 落ちていた鎖を投げつけ、それを腕で受けた世良の懐に碧也は飛び込んだ。回し蹴りに切り替えるが、読まれていたように軽く交わされる。
 碧也は口角を上げて笑んだ。それが狙いだったからだ。
 服を引っぱり逃げられないように拳に絡めて自分の元へ引き寄せる。
 またしても足を払われそうになったので、跳躍して交わした。
 ——この人から習ったものは全て使えない。
「アスモデウス!」
 神経を尖らせて五感を研ぎ澄ませる。
 頭部を目掛けてアスモデウスに飛ばされたナイフをギリギリで交わすと、そのナイフは世良の眉間をとらえた。
 動きを止める為に胸部にも刺した直後、世良の横っ面をロイとイアンが蹴り飛ばし、黒豹となったジェレミがその頸椎を噛み砕く。
 トドメだと言わんばかりに、アスモデウスが放った赤と黒が混じった業火が世良を包み込んだ。
「あーあ。油断してた。今は引くとするよ。碧也、お前には絶対私の子を産んでもらうから」
「オレはアスモデウスの番だ。コイツの子以外産む予定はない。嫁なら他をあたれ」
「ちぇ、折角ここまで来たのに振られちゃった。まあ、これでアスモデウスは消滅するしお前らの運命も切れる……」
 世良の言葉の後で、炎ごとその姿も消えた。
「アスモデウス!」
 片膝をついたアスモデウスに駆け寄って息を呑んだ。
 刺さっている深さや場所を考えると臓器に達している。
 さすがにこれはナイフで裂いて矢を取り出せない。血管を傷つけようものなら致命傷になってしまう。
「どうしよう……ッ、傷が塞がらない」
 傷を治すのにどうしたらいいのか頭をフル回転させる。
 ——考えろ。何かあるだろう?
 何の能力も持たない事がこんなに悔しいと思ったのは初めてだった。
 焦燥感に囚われながらも、一つの可能性を閃き、弾かれたように顔を上げた。
 ——契約は? 契約を利用したらどうなる?
 悪魔との契約は、時に物理法則も自然法則も無視する。それは身を持って思い知った。
 アスモデウスは重ねて契約するとそれぞれの契約自体が強固すると言っていた。それを踏まえ、代償を大きくすれば強固された時に更なる相乗効果を得られたりしないだろうか。
 やってみる価値はあった。何より時間がない。
 浅く呼吸を繰り返しているアスモデウスに向けて口を開いた。
「アスモデウス、オレと契約してくれ」
「何をする気だ……碧也」
 普段と違った静か過ぎる声に胸を締め付けられた。
「お前に、オレのこれからの人生を……全てやる。それで足りなければ、生を終えた後の魂もやる。だから、頼むから……っ、怪我なんか治して元通りの姿に戻れ。こんな矢ごときで消滅なんて……っ許さない」
 イアンとロイとジェレミが目を見張る。
「お前自分が何言ってるのか分かってんのか! アルファに戻って地上に帰りたかったから暗殺契約してたんだろが!」
 ジェレミが叫んだ。
「分かっている!」
 真逆にあたる契約をしようとしているのだ。地上に戻れないどころか、恐らく二度とアルファに戻れなくなる可能性を含んでいる。
「分かっている……分かっているんだ。それでもオレは……アスモデウスが消えるのは嫌だ。オレの運命の繋がりを消したくない。コイツ以外いらない」
「っ!」
 このまま此処で暮らしていい。
 あんなに地上に出たくてゴネていたのに、今となってはもう目的が変わってしまっている。
 今はただ理由が欲しかった。此処に居て良い理由……アスモデウスと関わっていられる理由が欲しかった。
「アスモデウスと共にいられるのなら、オレは……オメガのままでも構わない。一緒に、いたい」
 例え本能に刻みつけられた擬似的感情でも手放したくない。
 アルファに戻るのを躊躇ったのもそれが原因だった。
 運命という肩書きが無くなるのが怖かった。また、肩書きが無くなった後の喪失感を恐れた。
「アスモデウス……オレに飽きたら捨ててくれていい。お前に従う。その間だけでいいからオレの側にいろ。お前は……っ、オレの運命の番だろ? あんな奴の攻撃如きで消えるなんて、許さない。頼むからオレを一人にするな」
 微かに動揺してみせたアスモデウスと視線が絡んで、碧也は表情を崩して困ったように微笑んだ。
「せっかく逃げ出せる……チャンスだったのに、自分から棒に振ると?」
「お前が居ないと張り合いがない。今後オレは誰と暗殺ごっこをしたらいいんだよ。オレはお前がいい……っ、アスモデウスがいい」
 碧也は眉根を寄せながら、また微かに笑んでみせた。
「アスモデウス、契約してくれ」
「嫁にそこまでおねだりされたら叶えんわけにはいかんな。碧也…………、その契約を呑もう」
 アスモデウスが満足げに笑う。頬を撫でた後で、言葉を紡いだ。
 体が淡い光に包まれて、空に契約書が浮き出る。互いの体の中へと消えた直後、アスモデウスの怪我は治っていた。
 ——ああ、そうか。これだ。
 唐突に理解する。
 あの日、両親がどうしてあんなに満足そうにしていたのか。涙を流しているのに、母がこちらを見て悲しそうに笑んだのも、今になって全ての理由が分かってしまった。
 死ぬと分かっていても幸せだったのだ。
 そして心の底から愛していた。
 きっとお互いそれだけが、自分たちの存在理由だった。

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