【完結/BL】 Ω堕ち元αは運命の番である最高級人外αを10回殺したい

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第16話、ジェレミ……碧也は俺のだ

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「あんた、そっちの方が可愛いぞ」
 喉元を噛み切られる前に、喉に横一文字に刃を滑らせる。
 碧也はそのままジェレミの頭を腕の中に抱き込んで近距離で微笑んでみせた。
 滑らかな毛質の感触を楽しみたくて、再生し始めているジェレミの頭と喉を撫でてまた首元に抱きつく。
「あんたの毛、気持ちいいな。その深い青の瞳も綺麗だ。けどごめん……仕掛けはもう作っていた」
 先程刃を立てる前に上に放り投げていたもう一つのナイフが下向し、そのままジェレミの尾を切り落とした。
「碧也、浮気は看過しないと言った筈だが?」
 神出鬼没にも程がある。見計らったかのようなタイミングでアスモデウスが部屋に戻ってきた。
 ——やっぱりな。
 アスモデウスの企みに気が付き、それが心底面倒くさくてため息をつく。
 どう言い訳するかとも逡巡し、視線を横に流す。
「浮気じゃない。ジェレミが遊んでくれてただけだ。なあ?」
「……」
 顔を赤くして目を見開き、惚けたままでいるジェレミを見て、アスモデウスがため息をつく。
「あーー……、ジェレミ。碧也は俺のだ。惚れたところで譲らんぞ」
 固まったまま碧也の腕の中で微動だにしないジェレミを見て、アスモデウスはまた大きなため息をついた。
「? ジェレミ?」
 ——突然どうしたんだコイツ……?
 訝しげに碧也が声を掛けると、ジェレミが人型に戻った。
 ぼーっとしながらも、服を着始めたとこをジッと見ていた碧也が嫌そうに口を開く。
「なあ……お前ら悪魔って奴は揃いも揃ってデカいのか? ウンザリする。ソコのサイズは別に普通で良いだろが」
「……」
「……」
 沈黙が流れた。
 赤い顔をもっと赤くしたジェレミが勢いよく立ち上がるなり、無言でその場から姿を消した。
「何だアイツ。ジェレミはさっきからどうかしたのか? 尻尾を切り落としたのはまずかったか?」
「気にするな。尻尾はすぐ元通りになる。それよりも碧也、ハニトラにハマるなと俺は言った筈だが?」
 真剣な表情で視線を絡まされた。
「は? さっきから何なんだよ。浮気もハニトラもしてないだろ。見てわからなかったか? 遊んでいただけだ。それにアイツはオレを嫌ってる。お互い舐められたのがムカついただけだ」
 ムッとした表情で言い返すと、アスモデウスが嘆息する。
「まさか部下に同情と嫉妬をする日が来るとはな……」
 意味不明な事を言い出したアスモデウスに頭を差し出す。
「悪い、アスモデウス。遊びに夢中でジェレミに髪を乾かして貰うのを忘れてた。乾かしてくれ」
 アスモデウスはいつものように碧也の髪を一瞬で乾かした。
「つうか、お前。ジェレミがオレに敵対心を持っているのを分かってて態と此処に来させただろ? 面倒なことさせんな」
「クク、どうしてそう思った?」
「今日のお前とのやり取りがなかったらアイツらの会話なんてオレには聞こえてなかったし、気にもしていなかった。今のも合わせて全部仕組んでただろ。茶番する身にもなれ」
「さあ、どうだろうな?」
 アスモデウスが態とらしく戯け、肩をすくめてみせた。
「五感で感じろとお前に言われて神経を研ぎ澄ませたら、今まで聞こえてこなかったものも聞こえるようになった。特にあの三人の会話だ。ジェレミはお前に害をなす者は例え番であっても許さない。初めて顔を合わせた時も睨まれたし。でもジェレミの性格上、裏から手を回して潰すような卑怯な真似はしなさそうだ。正面からでもオレには手を出さない。何故ならジェレミから見たオレは、自らの王の番だから。けど自分が認めたわけじゃないから態度だけは改めない。それはほんの意趣返しでもあるんだろうな。それじゃストレスがたまる一方だろ。だからさっきあえてオレから挑発する事で負の部分を発散させた。お前の狙いはそこだったんじゃないのか? オレが内輪揉めを懐柔出来るのかどうかを確かめようとした。それにお前も〝オレが拐かした奴は殺す〟と言っておきながら、ジェレミには罰さえ与えなかった。低級魔は即行始末した癖にな。敵意なら良いのかとも思ったが違う。あえて目を瞑っていた理由はアスモデウス、お前がこうなるように全て仕組んだ張本人だからだろ」
 真っ直ぐにアスモデウスを見つめて碧也は一気に言い放った。
「もしそうなら、どうしてだと思う?」
 愉快だと言わんばかりにアスモデウスが顎に手をやって碧也を見つめている。
「もし仮にオレがお前の立場だったらの話だ。自分が不在の時や何かあった時、代わりに指揮を取る者が居ないと困る。だがそれ以上に反発者が出て内部から壊滅状態になってしまっては元も子もない。そうならないようにするには、自分と同等に近い扱いをされていて、周りからも認められている人物を育てるのが近道だろ。特に側近三人を従えられる器じゃないと無理だ。お前、何かあった時の為にオレを自分の代理にしようと思っているんじゃないか? 食事の時に頭を下げようとした俺を制したのもこれが起因していたんだろ? 頭を下げると三人よりオレが下だと認識され兼ねない。だからこそオレがお前と同じ立場にいるのだと周囲に知らしめた。先に言っておくが、オレには人を束ねる才能も技量もないぞ。ずっと一人でやってきたからな」
 一息で話したので疲れた。アスモデウスから視線を逸らして、首に手を当ててため息をつく。
「くくく、ははははっ、ああ……全問正解だ。本当にお前は最高だな。俺の運命だけある。碧也、お前が生まれるまで待っていて本当に良かった」
 いつものように抱き上げられて口付けられる。何度も何度も角度を変えておくられるキスはどこか甘さを含んでいて、碧也は少し戸惑った。
「だが、相手を手玉に取りすぎるのは難だ。本気にさせる手前でやめろ。即陥落させるな。味方が増えるのは歓迎だが、そっち方面の敵が増えるのはいただけん……」
 普段と違い小声で言ったアスモデウスに向けて口を開く。
「別に手玉にしてなければ本気にもさせてないだろう。今日だってジェレミが本気でオレを殺す気だったら、とっくにやられてた。相手と自分の力量を計れもしない程オレは愚かじゃない。オレの作戦に気がつきながらも、鬱憤ばらしついでに茶番に付き合ったんだろうぜ。挑発した時、ジェレミは一度迷ったように視線を彷徨わせたからな。お前の番だから手加減して自分がやられる側になるように調節していた……ムカつく。ジェレミは頭に血が上りやすいってのはあるけど、頭は悪くないしお前の事も絶対裏切らない」
 今度は、はぁー……とため息をつかれた。どこか遠い目をしたアスモデウスが呟くような小声で言った。
「お前は聡いくせに肝心な情緒面は死んでるな……。謎だ。元々こうならタチが悪いぞ」
 ——タチが悪いとか、魔王にだけは言われたくない。
 それにまともな情緒が育つ環境下にもいなかった。外の世界は闇、家庭内も闇だった。
 そんな事、今更謎でも何でもない。その間もずっと口付けられている今の現状のほうが謎だ。
「おい、いい加減キスすんのやめろ。んな甘い関係じゃねえだろ」
 腕を突っ張りアスモデウスを押し返す。
「俺はもっとドロドロに甘やかして愛でてやりたいくらいだぞ」
「嫌だ。勘弁してくれ」
 ——慣れそうにないし、求めてもいない。
 最近のアスモデウスの瞳には、本当に熱烈な感情がこもっている気がして、胸の奥がムズムズしてくる。
 慣れなくて対応に困る事が多い。甘ったるい空気はどうも苦手だ。


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