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第13話、悪趣味過ぎるだろ!
しおりを挟む「碧也、左側からイアン、ロイ、ジェレミだ。この三人は俺の直属の部下で側近になる。何か必要なモノがあればこいつらに言え。部屋の中から名を呼べばすぐに来る。寝室にももうこの三人以外は入って来れないようにしてある。もし入って来たらそれらは侵入者だ。迷う事なく始末していい」
名を呼ばれた三人が頭を下げた。
ロイは癖一つない長い黒髪の細身の青年で、ジェレミは青色の短髪で体格の良い男だった。
ジェレミと目が合った瞬間に凄まれて視線を逸らされる。あからさまな敵意を向けられた。
——なんかアイツとは一悶着ありそうだな。
思いながらため息をつく。
「こら、ジェレミ。睨まない!」
「いってーな! 何すんだよ、ロイ」
ロイに頭を叩かれてジェレミが声を上げる。イアンは無表情で我関せず状態だった。
——仲良いんだな、コイツら。
地上で生を受けてから仲間と呼べる輩には出会った事のない碧也には二人のやりとりが新鮮に映った。
しかも何より驚いたのが、不敬を働いたら即座に処刑するイメージしかなかったアスモデウスが微笑ましく見つめている事だった。
「おい、お前ら戯れるのもその辺にしておけよ。これから食事だ」
「はい。失礼いたしました」
大して怒った様子もなく、アスモデウスが屈託なく笑う。
——コイツもしかして懐に入れた身内には甘いのか?
意外だった。
自分の中にあったアスモデウスのイメージが少し崩れた。
「碧也様、何なりとお申し付けください」
イアンとロイが頭を下げる。
「オレも、面倒をかける時もあるかもしれないけど、宜しくお願いしま……——」
碧也が言いながら会釈しようとすると、アスモデウスに止められる。
「王の番が、簡単に頭を下げるな」
「……分かった」
——オレがアルファに戻れば番など意味を成さなくなると言うのに。
そう思いはしたものの、口にするのは憚られた。
温泉で感じた締め付けられるような胸の痛み方とはまた違った別の痛みが訪れる。
——今はアスモデウスの事を運命の番だと思っているからだ。
碧也は自分に言い聞かせるように心の中でそう呟く。そうこうやり取りしている内に料理が運ばれてきた。
「前菜になります」
声掛けと共に出された日本料理に目を向けた。
細長い白い皿の上に透明な四角い小鉢が三種類並び、中にはそれぞれ彩り鮮やかな料理が入っていた。
碗盛、刺身と続き、焼き物に煮物、留め碗、甘味の順番となっていて、料理が変われば器の形状も色も変わる。視覚や嗅覚から始まり、味覚、器の手触りも含めて五感で楽しめるのがまた良い。
どれも鯛を使った料理なのはどこかむず痒いではあるが、舌触りも香りも味も格別に良かった。形あるものを崩す音すらも心地が良い。
——これだから料理は好きだ。
心まで満たされて碧也は表情を緩める。
アスモデウスにじっくり観察されている感は否めないが、舌鼓を打ちつつ意識は料理に向いてしまう。視線はその内気にならなくなった。
「お前は姿勢だけじゃなく、所作までもが美しいな」
他者から直に称賛されたのは初めてで、碧也は手を止めてアスモデウスに視線を向ける。
「良い。気にするな。食に戻れ」
そう言うアスモデウスの所作も箸使いも見事なもので、これも意外だった。
見た目からして、豪快に食べそうな印象を受けていたので、ジッと見つめてしまう。
全ての料理を腹に収めた頃には、食に触れた満足感でも腹が膨れた。
部屋に戻るなり碧也は己の武器を装着していった。
ナイフ十本と、万が一の為の拳銃が一丁ある。所々で使って無くしていたナイフも全て揃っていて、それを暗殺着に忍ばせていく。ナイフがないと落ち着かない。
漸く一息つけた。
「よくナイフの刃先で服が裂けないな」
「ナイフを忍ばせている所の生地だけを変えて特注で作らせているんだ。オレはこの服を再現された事に驚いたけどな」
「イアンの能力だ。破片や物体の欠片、映像から情報を読み取り構築したり再生させられる。あいつは戦闘向きではないが、その他に秀でている」
アスモデウスが他者を褒める所を初めて見た。評価する所はきちんと評価するらしい。
ワンマンの独裁政治を思い描いていたイメージがあっただけに、そこにも驚かされた。
「ふーん」
そこでふと気がつく。
風呂へ行く前にアスモデウスから一本取っているものの、番を手にかけた拒絶反応が出ていない。
——アスモデウスと暗殺契約を結んだからか? そんな事も考えられない程に行為に翻弄させられていたからか? それともちゃんと番になったからか?
確証は無かったがどれも一理ある。濃厚なのは暗殺契約の方か……。
試しにナイフを構えてアスモデウス目掛けて飛ばす。
間髪入れずにわざとナイフを落としたように見せかけて、地に着く前にサッカーボールみたいに柄を蹴り飛ばした。脚力を乗せた事でスピードも上がったが、簡単に指の間で挟んで止められる。
「手癖だけじゃなくて足癖も悪いのか」
二本とも片手で受け止められたのを見て舌打ちした。
「二回連続失敗。今日の初夜が楽しみだな、碧也」
「まだヤル気かよ。お前の精力どうなってやがる。こっちは最悪の間違いだ」
「ヤってる時は素直にアンアン鳴いて可愛いのになあ」
「魔王のくせに幻聴が聞こえているのか」
表情一つ変えずに言った碧也の素っ気ない言葉に、アスモデウスはカラカラ笑いながらベッドに腰掛ける。
「そういえばお前、拒絶反応はどうした?」
「ここに来てからは出ていない。さっきので確信出来た。契約が原因じゃないのか? オレからすれば願ったり叶ったりだけどな」
視線を下に落とす。さっきヘマした分をこのまま忘れてくれないかな、と考えてしまった。
「まあ、いい。苦痛に歪むお前の顔も中々唆られて良かったがな」
「本当に悪趣味だよな」
落としていた視線を上げてるとアスモデウスと目が合った。
「それはそうと仕置きを考えなければいけないな」
「ちっ」
話題をそのまま逸らす気はなかったらしい。ゲンナリとした様子の碧也を見て、アスモデウスが口角を持ち上げて笑んだ。
「雌イキした回数を声に出して数えろ」
「……」
嫌過ぎて声も出なかった。
「碧也、返事はどうした?」
「…………」
「返事をせんと仕置きを増やすぞ」
「…………分かったよ」
——悪趣味過ぎだろ!
心の中で悪態をつく。
「どっちの姿の俺とやりたい?」
「は、人間の姿に決まって……「そういえば風呂で俺の模様が綺麗だと言いながら、艶かしく指で触りながら誘ってきてたなあ?」……」
言葉を遮られた。
まさかここでその話題を出されるとは思ってもみなくて、眉間に皺を寄せる。しかも誘ってなどいない。触れただけだ。
上だけ服を脱いだアスモデウスの姿が見る間に変わり、本来の姿へと戻っていく。
「存分に愛でてやろう」
——マジで殺してやりたい……。
せっかく武器を仕舞い込んだ服を脱がされて裸に剥かれた。
逃げられないように枷で繋がれベッドに押し倒される。
すぐに四つん這いにされて、ローションで濡れた指で中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられた。
まるでアスモデウスの為にあるような後孔が、誘うようにひくついて内部から蕩けていく。
「ずいぶんと柔らかいな」
「黙って……ろ」
挿入されただけで喜び、碧也の体が大きく震えて始めの絶頂へと堕とされる。そこからは快楽責めだった。
中でイクのも三回を超えると頭の中が朦朧としてきた。
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