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第10話、イアン
しおりを挟む「ああ、そうそう。——おい、イアン」
アスモデウスが何もない空間に向けて声を掛ける。
どこからともなく現れたのは、緑色の髪の毛をアシメントリーにカットした青年だった。片膝をついて視線を地に伏せている。
「はい。ここに」
——コイツらは一体どうなってやがる?
アスモデウスといいイアンと呼ばれた男といい、突然現れたり……まるで手品だ。
「室内の掃除を手配しろ。此処らに散乱している武器は集めて揃えておけ。愛しの番は暗殺ごっこが趣味なんでな。室内は碧也が好みそうな物で揃えろ。内装のイメージはお前に一任する」
「畏まりました。先に、扉の前のモノはもう処理しておきました故、履き物が汚れる心配もございません。そのままお通り下さい」
——さっきの男の事か。
アスモデウスのみならず、イアンにも室内の出来事を把握されている。それならば情事も全て見られていたのかもしれないと考え、碧也は頭が痛くなった。
「相変わらず仕事が早いな」
「お褒めに預かり光栄です。それでは失礼させていただきます」
瞬く間にイアンが姿を消す。
気配が薄くなったとかではなく、文字通り姿が消えた。
「お前らって、もしかして瞬間移動とか出来るのか?」
アスモデウスが急に現れた事といい、そうとしか言いようがなかった。
非現実的な現象だが、アスモデウスの本来の姿を見てから抵抗なく受け入れている自分にため息しか出ない。
「そうだ。言ってなかったか?」
態となのか本当にウッカリ言い忘れていたのか読めない表情をしていた。
だが今ので、始まりの時に前方を歩いていた筈のアスモデウスが急に背後から現れた理由が分かった。
「初めて聞いた。それと……此処での情事も外部に筒抜けなのか?」
「いや。俺が繋げたい時だけだ。丸聞こえにしたいのなら繋げてやるぞ」
「んなわけあるかっ」
聞かれていなかった事には安堵する。
ナイフは見えないように手にしたまま何事もなく部屋を出て、アスモデウスに俵担ぎにされた状態で進んでいく。ここに来る前同様灯り一つないので、闇だけの空間が広がっていた。
こんなに密着しているアスモデウスの表情すらよく見えない。歩く振動だけがひたすら伝わってくる。
——普通に自分で歩きたい。
心の中で思ってみたが、足腰が立つ状態かどうかは未確認だ。先程は普通に立っているのがやっとだった。
啖呵を切って下ろして貰った時に、やはり歩けないとなると面子が立たない。それに何も見えない中でまともに歩けるかどうかも疑わしい。
まさか寝室以外の空間は全て暗闇なのかと考えると辟易してくる。
アスモデウスにされるがまま大人しくしていると、下半身に指が伸びてきて碧也は慌てて上体を起こし、アスモデウスの首に両腕を回した。
「お前、何してる! ……っ!」
後孔の中に指を入れられ動かされると、アスモデウスの指を伝って中に残っていた精液が下に落ちる。そのままグチュグチュと音を立てて指を抜き差しされた。
「も……っ、やめろ」
「六時間しか経っていないのにもうこんなに狭くなっているのか。お前の体に俺を馴染ませるのは時間がかかりそうだな。今日から常時五センチ幅のバイブでも挿れっぱなしにしとくか」
「そんなもん挿れといてたまるか。お前のがデカ過ぎるんだよ」
「褒め言葉か? そのデカ物を散々咥え込んだというのにピンピンしているお前もどうかと思うけどな。あんなにやりまくったのになぁ。さすがは俺の運命の番だけある。お前の〝ココ〟は俺専用だな」
暗くても、ニヤニヤとした笑みを浮かべられているのが気配で伝わってきて舌打ちした。
「うぜえ……。褒めてない。アルファに戻れば運命の番関係なんてすぐに解ける。その後は一人でシコってろ」
カッとなって言い返した後で気が付いた。
「待て……六時間?」
「そうだ。もっと詳しく言えばお前を此処に連れて来てセックスにもつれ込んでから十時間が経過している。その後二時間弱寝て、お前からセックスに誘われてからは八時間、お前が再度寝入ってから六時間てとこだな。ほぼセックスしかしていないから時間感覚がないだろうが」
時間感覚がないのは、日の光が当たらない場所にいるせいだと碧也は思った。
全ての感覚をおかしくさせられる上、朝なのか昼なのか夜なのかさえも知り得ない。
ここにいる限りは感覚なんて戻せそうにない。それにほぼ丸一日セックスしかしていないというのも考えものである。
「……地上に行きたい」
「絶対に逃げ出さないと俺と別途契約を結ぶか? 悪魔との契約は重ね掛けすると強度を増すが、その分反動も大きいぞ」
アスモデウスからの提案に緩く首を振った。
「契約するまでもない。オレは地上の空気が吸えればそれでいい。お前が仕事の時だけ連れていけよ。自分で見張れるから良いだろ? オレにとって……ここは暗すぎて体内時計を狂わされる。居心地が……悪いんだ」
相変わらずの真っ暗闇加減で碧也の視界には入ってこないのに、蠢く気配と好奇に晒された視線があって落ち着かない。
「さっき同じ手法を使ったその口で今度は俺に振るか?」
喉を鳴らして笑いながら言ったアスモデウスに微笑んで見せる。こちらからは見えずとも相手からは見えている筈だ。
「お前だからこそ……本音で話しをしている」
耳元で囁いて抱きしめる素振りのまま、回していた右腕を素早く動かして、隠し持っていたナイフを頚椎に滑らせた。
次いで二撃目に移ったが、それは阻止され思いっきり舌打ちする。弾き飛ばされたナイフの落ちる音が遠くで響き渡った。
「あー、これは一本取られたな。お前このままハニートラップにハマるなよ? お前が嗾けた男全員俺は殺すぞ」
「ん、う!」
噛み付く様に口付けられ、音を立てて口内を貪られた。
傷を治すには本体である必要があるらしい。アスモデウスが本体に戻っていくのが分かり、増幅していくプレッシャーで碧也の体が跳ねた。
片手で抱き上げられた事によりシーツが下に落ちる。
口を閉じようとすると、顎の関節を掴まれて無理やり口を開けさせられた。
「ん……っ」
その隙間から潜り込んできた舌先に、歯列と上顎を舐められて碧也の腰に甘い快感が駆け巡っていく。
肉厚の舌に噛みついてやろうと思っていたが、顎の関節を押さえられたままなので口を閉じる事も出来なかった。
「自分からしがみついていないと落ちるぞ」
口を離された瞬間、耳元で囁かれる。直後にアスモデウスの指先がまた後孔内に侵入してきた。
「んっ、ぁ」
「お前には此処は単なる暗闇にしか見えていないと思うが、お前の痴態は俺たち悪魔や魔族には明かりの下にいるのと同じくらいハッキリと見えているぞ。皆お前に注目している。見せてやろうか」
アスモデウスが口にした瞬間、そこら辺一帯が全て明るくなり暖色系の灯りに包まれる。
寝室と同じような土と岩で出来た大広間が広がっていて、周りは碧也が気配を感じていた以上の魔物であふれかえっていた。
ゴブリンかと思わしき小さい魔物からトロールに似た巨人族、または人型の悪魔や魔族など多種多様な生物がいる。やたら高い天井のすぐ下を飛行する物体もいた。
まるで混み合っている朝の駅のホーム内だ。多種多様の魔物でごった返していて、アスモデウスの言う通り注視されているのが分かり碧也は息を呑んだ。
「——!」
「せっかくのシーツも落ちてしまったな。俺を咥え込んで熟れまくったお前の内部も見えるかもしれんなあ? 碧也」
「明かりを消せ! こんな所じゃ嫌だ!」
「契約したのも、今この場で始めたのもお前だ。風呂まであと少しの距離だ。中に咥え込んだまま移動しろ。ああ、それと……この姿になった俺のサイズは八センチを超えるぞ。長さもそれなり、だ」
例え入ったとしても流石にそれは咥え込みたくない。
「離せ!」
火がついたように暴れ始めた碧也をものともせずに、アスモデウスは目を細める。
「頑張って耐えろよ」
「っ!」
後孔に当てられ、容赦なく内部を穿たれた。
碧也は保身の為に全身の力を抜いて挿入の手助けをする。それでも割開かれていく感覚と違和感が凄い。抉る様に前立腺を刺激されたまま奥まで突かれ、挿入されただけで中イキしてしまった。
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