パライバトルマリンの精霊王は青い薔薇のきみの夢をみる

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第26話、黒幕

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「どうしたんだエス? パレンティアとフィーリアも」
「れおー」
「うー、れおー」
「エスたちね、たたかいごっこするの!」
 我が子たちが円陣を組むように遊んでいる。
 ここは転んでも大丈夫なように床が柔らかく作られている場所だ。
 三人を女官たちや乳母が微笑ましく眺めていた。
「チビ共なにしてんだ?」
 背後から顔を出したのはケミルだった。
 普段は護衛や偵察隊をしているので、王宮を離れる事が多いが今回からは役目が変わっている。レオン専用の護衛になっていた。
「戦いゴッコらしい」
「うはは、勇ましいな! あ、オレ出産の時に治癒魔法含めて防御魔法係も兼任するから。実は大学院でも成績優秀だったんだぜ?」
「そうなのか? 凄いなケミル。俺はどっちも並以下だったよ。あ、大学院といえば三ヶ月前くらいだったかな、初めてドラゴン化した時にあの人見かけて驚いたよ。大学院の時にいたザウロー先生。あの人も精霊族だったんだな。知らなかったよ」
 直後、何故かケミルが固まった。
「え、誰だって?」
 ケミルの問い掛けに戸惑う。
「誰って、カメリナ・ザウロー先生だよ。男の先生で魔法学を教えていただろ?」
「ちょっと待て、レオン。魔法学を教えていたのは、サリミワ・キャメロン先生で女教師だぞ」
「え……。いや、そんな筈は……」
 クラスが違うとは言え、教師は変わらない。意見が食い違う筈がなかった。
 記憶があやふやになる程過去の話でも無い。
 ケミルは即座にmgフォンを取り出し、通話していた。
「王、大学院内で青の一族としてレオンに目星を着けていた人物が分かったかもしれません。魔法学を教えていたカメリナ・ザウロー。オレの記憶ではサリミワ・キャメロンだった人物です。どっちが本当の顔かは分かりません。レオンの話ではソイツはもう王宮内にいます。三ヶ月前に見かけたと話していて……」
 ケミルがそこまで言った時だった。
 血液が全て沸騰してしまいそうな熱を感じて膝をついてしまった。
「あ、ああああああ!」
 体が熱くて堪らない。下半身を中心に直火で炙られているような痛みが全身を駆け巡る。
「レオン!」
 ケミルが即座に治癒魔法を施してくれたものの、足りずに少しずつ症状が進んでいく。
「レオン~レオン~」
 エスポワールが腹に触れるとまた少し痛みが和らいだ。
 ランベルトとサーシャが転移魔法で姿を現し、ランベルトがレオンを横抱きにして全員で医療室へと転移する。
「思ってたより早い!」
「集めた魔法師を医療室へ全員呼んで来い!」
「はい!」
 ランベルトから指示を受けた警備隊が走り去って行く。
 代わりにランベルトとサーシャ、ケミルが治癒魔法を施して間を繋ぐ。レオンを抱えて、全員で医療室に飛んだ。
「あっつ。何だこれ、一瞬でも気を抜いたらマジで全員即死クラスじゃねえかよ! エゲツないな不死鳥とやらは」
「希少とされる訳が分かったろ。出産の度に毎回こうも行かないのさ。四分の三は周りも巻き込んで死んじまう。産まれてすぐは甦りの魔法は使えないからね」
「すげえ納得」
「手を抜くなよケミル」
「抜くわけねえだろ。オレはレオンの事は個人的に気に入ってんの。ずっと同部屋だったし!」
 三人が話しながら治癒魔法と防御魔法を展開し続ける。
「今回は……っ、下半身だけの麻酔にしてくれ」
「レオン、そんな危険な事させるわけには……「頼む、ランベルト。俺だけ何もしない……っのは嫌だ」……」
 一瞬、迷ったように視線を彷徨わせたランベルトが渋々頷く。
「分かった」
 胸から下の感覚を無くさせられる魔法にして貰い、意識が朦朧としながらも自分でも治癒魔法を施し始めた。
 ここで気を失ってしまったら、自分自身が此処にいる全員を殺してしまう事になる。なら、その前に誰もいない場所へ飛ぶ。
 不死鳥を孕んだと知った時に、地図で周りを調べて水場もきちんと調べ、頭に叩き込んである。
 医療魔法師が処置していくのをうつらうつらとしながら感じていると、台の下に覚えのある気配を三つ感じた。
 ——あ……? 何でアイツら此処に?
「王! 取り出せました!」
「よくやった。赤子はサーシャに任せろ」
「先に不死鳥の能力にリミッターをかけさせて貰う。私以外はこの熱に耐えられないだろうからね」
 赤い羽毛に覆われた子が取り出され、滞りなく手術が進んでいく。
 取り出した子の全身に能力制御魔法を施す。
「ηδθδοΰν κι〝άιζηΰ〟〝ξγδι〟〝ζιΰΰξ〟〝ογδβγξ〟〝ςάδξο〟〝βγΰξο〟〝ογνκάο〟〝γΰάί〟」
 赤い光に包まれた後で、段々色が変わっていき乳白湯色へと変化した。
「こっちはもう大丈夫だよ。後はレオンだけだ!」
「すげえな、サーシャ様! 何その古代の高等魔法。おっかねえ!」
 ケミルが楽しそうに笑う。
「ケミル、気を抜くな。俺は今から血液生成魔法に切り替える。半分肩代わりしろ。後、輸血も頼む」
「了解!」
「かしこまりました」
 ケミルと医療魔法師が返事したのをきっかけに下でも動く気配がした。
「ら……べると、下……いる」
「は?」
 ランベルトが処置ベッドの下を覗き込むとそこにはエスポワールを含め、パレンティアとフィーリアもいた。
 いつの間に紛れ込んだんだろう。また三人で円陣を描いて座っている。
 これまでの経緯を見てきて、エスポワールが何の理由もなく危険を犯すとは思えない。
 ランベルトは小声で「何をしている?」と問いかけた。
「レオンまもるの。こいつわるいやつ。レオンつれてかれる」
 エスポワールの言葉を聞いて、勢いよく顔を上げたランベルトが今まさにレオンに点滴と輸血を打とうとしている医療魔法師の腕を掴んだ。
「あの……国王様?」
「今すぐ氏名と所属名、所属番号そのパックの成分を言ってみろ」
「どうされたん……ですか?」
「言えないだろうな。俺もすっかり騙された。上手く化けたもんだな。お前は誰だ? うちの医療魔法師をどこにやった?」
「え?」
 ケミルもサーシャも目を剥く。ランベルトが認識阻害魔法を解くと、そこにはカメリナ・ザウローがいた。


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