パライバトルマリンの精霊王は青い薔薇のきみの夢をみる

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第10話、どうしたらレオンをずっと側に置いておけるかな……

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「お前俺を囲う気かよ。悪いけど、俺はもう……終わりにしたい。ランベルトの事は一個人としてはとても好きだし大切だけど、俺は人族のいる国にちゃんと帰るよ。母さんもいるし。というか、これからお互い忙しくなるだろ? だから今日で契約を終わりにして欲しい。今日はそれを伝えにきたんだ。今まで楽しかったよランベルト。ありがとう」
 上手く笑えているのだろうか。
 声が震えていなかった事を祈りたい。
 ランベルトから離れて、頭の中も気持ちもリセットしたかった。
 あまりにもランベルト一色の生活を送っているのだ。
 これ以上一緒にいると危険だ。完全に離れられなくなる前に、外の空気を吸いたかった。
 精霊族は基本的に一夫多妻制だ。
 このままの関係をダラダラと続けていると、セフレやら愛人やら側室やらになって囲われた生活になるだろう。
 精神的に耐えきれそうにない。
 きっとランベルトを独り占めしたくなってしまう。
 怠惰に生きるつもりもなかった。
 一瞬目を離しただけなのにランベルトが目の前にいて、ソファーの上に横向きに押さえつけられていた。
「ランベルト?」
 普段纏っている温和な空気感がなくなっている。肌が痺れるような妙な感覚が走り抜けた。
「それさあ……レオンこそ契約違反だよね。ねえ、レオンは俺と縁を切って逃げるつもりなの? 俺としたように人族の誰かと付き合って、抱かれて、そいつと幸せになるの?」
 茶化した眼差しではなく真剣な表情で見つめられる。
「いや……約束を破るのは悪いと思っている。本当にごめん。初めは卒業までって話だったけど、考えが甘かったんだ。二ヶ月も短くしてごめん」
「嫌って言ったら?」
 初めて聞くランベルトの低い声に、喉を嚥下させた。
 額を肩口に埋められる。
 服の上から緩やかに下っ腹を撫でられて焦燥感に囚われた。
「おいっランベルト!」
「レオン、契約破るの?」
「っ! だから、それは…………ごめん。本当に悪いと思っている」
 どこか居心地の悪い不穏な空気が流れている。
「なーんてね。嘘だよレオン。怖がらせてごめんね。いいよ。じゃあ今日で恋人ごっこも終わりにしよう。普通の友人ならいいんでしょ? 飲み物用意してくる。紅茶でもいい?」
「あ……ああ」
 ——驚いた。
 ランベルトのあんな顔を見たのも、雄味の強い声を聞いたのも初めてだった。
 ランベルトがキッチンへ消える。
 レオンも同じ様に体勢を直して、二人掛けソファーに腰掛け直すと、紅茶のいい香りが部屋中に広がってきた。
「この紅茶お気に入りなんだよね。パッケージの鮮やかな青が綺麗なの。レオンの髪と瞳みたいでしょ? レオンの色大好き。ベースになっているのはアールグレイで、そこにオレンジピールとレモンピールが入ってる。フルーティーで飲みやすいんだよ」
「そうか。その前にランベルト……何でもかんでも俺と比較するクセやめろ……」
 気恥ずかしくてたまらない。
 赤くなっているであろう顔を隠すように顔ごと横に向けた。
「俺はレオンの全てが好きだから、話す時も本心しか言わないよ。それに友達だって、好きくらいは言うでしょ」
「まあ……そうだな」
 困ってしまい、合わせるようにはにかんだ。
 ——もう二度とこんなに誰かを好きになれないだろうな。
 ランベルトの甘い言葉を「偽物でも良いんじゃないか?」と思ってしまう己もいて、決心が揺らぎそうになる。
 目の前にソーサー付きのカップを置かれ、返答に困りながらも紅茶カップを持ち上げて口元に近づけた。
 これで暫くの間は話さなくても良くなる気がして安堵する。
 息を吹きかけて冷ましながら、少しずつ飲んだ。
「香りも後味も良くて美味しいな」
「うん。俺ね、この味もすごい好き。口の中に入れた時に少し苦味もあるんだけど、でも後でまろやかになる。クールで堅物そうなのに、内側に入り込むと柔らかくて優しい。本当に……レオンみたい」
 ——ああ、もう。だからやめろって……。
 心臓が痛い。
 心の中をかき乱されて、返答に窮する。
 向かい側からランベルトにジッと見つめられている気がして、顔を上げられない。
 普段とやはり何処か様子もおかしくて、こっちまで妙に意識してしまう。
 直ぐに帰るのはランベルトから逃げたと思われそうで、一時間はいつものように会話をしながら時間を潰した。
 ——暖かいな。
 室温を少しだけ高めにされているからか、やたら眠気を誘われていて目を擦る。
「レオン、寝るならベッドで寝なよ」
「ん……、いい。部屋に……帰る」
 立ち上がろうとして目の前がグラリと揺れた。高熱が出ているように頭の中が回っている。
 ——何だこれ。眩暈がする?
 動けずにいると、有無を言わさずランベルトに抱えられてベッドの上に下ろされていた。
「そんな状態でどうやって帰るの。起こしてあげるから寝ときな」
 優しく髪を撫でてくるランベルトの掌の感触が心地よくて目を細める。
 白く靄がかかり、遠のいていこうしている意識の向こう側で、ランベルトが口を開くのが分かった。
「ねえ、レオン。レオンをずっと俺の側に置いておくにはどうすれば良いかな」
 何も言えずに意識が飛んだ。



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