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第8話、助けてくれるのはいつもお前なんだな
しおりを挟む次の日、サーシャからはやたらテンションの高いメッセージが来ていて、朝っぱらから声に出して笑ってしまった。
『後七本あれば素敵な予感だったのに惜しいね』
そう書かれているのを見て心臓が脈打った。
七本は此処に飾ってあるとは言えずに『どういう事?』とだけ返信する。
『赤薔薇の三百六十五本は〝貴方のことが毎日恋しい〟という意味だからね。とうとうレオンにも良い人が出来たんだと思ったわ』
メッセージを見た瞬間、ブワリと全身の毛穴が開いて熱を発した気がした。
心臓がドキドキして呼吸もままならなくなる。
回りそうにない思考回路で順番に意味を思い出していく。〝夢が叶う〟〝奇跡〟〝無限の可能性〟〝貴方のことが毎日恋しい〟これじゃまるで熱烈な告白みたいだ。
——落ち着け……。ランベルトの好きは、そういう意味じゃない。本人がハッキリとそう言っていただろう?
自身に言い聞かせる。
それに契約を破って勝手に本気になったのは自分の方だ。ランベルトじゃない。
——ランベルト……お前が好きだよ。
ランベルトは違うんだとばかり思っていたのに、都合の良い方向に考えてしまうのを止められない。
同じならどんなに嬉しいか……。
「どっちにしても、契約はもう……解いて貰おう」
——顔が熱い。心臓の音がうるさい。
蹲ったまま動けもしなくて、防御魔法強化訓練授業に出れなくなってしまった。
三年生は自分で選んだ科目の試験を合格し、論文を提出して合格を貰っていれば授業への参加は自由になっている。
三年生で良かったと心の底から感謝した。
***
あれ以来ランベルトを避けてしまう日が続いて、自分から話しかける勇気も出ずに二週間が経った。
睡眠状態も最悪で、ここの所よく眠れていない。
ふらつく頭を抑えて立ち止まっていると、後ろから誰かにぶつかられて派手に転んでしまった。
特に反応を返すのも面倒で、立ち上がるなり昼食を取る為に隅っこの空いている席に荷物を下ろす。
『喧嘩?』
『とうとう愛想尽かされて別れたんじゃないの?』
『いい気味』
ヒソヒソと囁かれる言葉と嘲り笑う声を無視しながら、スプーンを手をした。
「よっ、レオン大丈夫か? ここ座って良い?」
「ケミル……。今は、俺と話してるとケミルまで何か言われると思うよ」
苦笑混じりに言うと、ケミルはヘラリと笑う。
「おれレオンと話してる方が楽しいからいいよ別に」
正面にトレイを置かれる。
ランベルトの話題に触れる事もなく、他愛ない会話をしながら食を進めていった。
時折りmgフォンにメッセージが入って返しているとこを見る限り、ケミルは意外と人気者のようだ。
——気を遣ってくれたのかな。
ケミルの優しさに笑みが溢れる。
次の授業は攻撃魔法の実技訓練だった。
体操着に着替えて、大学院の前にある広場まで移動しなければならない。距離にして百メートルくらいはある。
「ごめんケミル。次実技だから早く行かなきゃいけないんだ」
「そか。頑張れよ!」
「うん、あの……ありがとな」
「何の事? ほら、早く行かないと間に合わなくなるぜ?」
白い歯を見せて、無邪気な好青年というような笑顔を浮かべたケミルに手を振る。
着替えて広場に移動しようと歩いていた時だった。
「んんっ!」
後ろから口元を覆われて体を持ち上げられた。側にある雑木林に連れ込まれる。
咄嗟に体を捻って男の脇腹に蹴りを入れると体は解放された。
相手が油断していたのが幸いだ。立ち上がって走り出す。
「いってーな、くそ!」
「イルサルがいねぇと何も出来ねえくせによ!」
逃げる前にザッと確認した所、男が五人はいる。捕まれば終わりだ。
今まで自分がどれだけランベルトに守られていたのかが分かって、泣きたいくらい惨めだった。
髪を引かれて後ろ向きに倒れる。
「くそ、離せ!」
「おい、誰か口塞いでろ!」
押さえつけられて、思いっきり指を噛んだ。
「いったー!」
揉み合いになっているうちに、運動服を肌けさせられ、体を戦慄かせた。
「うーわ、色しろっ」
胸の突起に触れられて鳥肌が立つ。
——気持ち悪い!
「感度は良さそうじゃねーかよ」
ランベルト以外に触られるのがこの上ない程に不愉快だった。吐き気さえ込み上げてきて、身をよじろうとするもしっかりと押さえつけられていて動けもしない。
「い、やだ。や……だ。俺に……っ触る、な!」
「おい、さっさと脱がせろ」
下履きごとズボンをずらされていく。
「いや、だ。嫌だ! 触るな! 嫌だ‼︎」
「だから、コイツの口塞げって!」
心臓が大きく脈を打ち、突然全身に熱いくらいの血液が流し込まれていく。
「何してるの?」
——ラ、ンベルト?
「レオンに何かしたら俺何するか分からないよって言ったよね。消されたいの?」
容赦なく放たれた雷魔法に感電して、全員泡を吹いて倒れた。
軽々と前向きに抱えられ腕の中に閉じ込められる。
「大丈夫だったレオン? ごめんね遅くなって」
首がもげそうな程に頷いてランベルトの首にしがみついた。
「こわ……、怖かっ……た」
体の震えが止まらずにいるせいで、ちゃんと力を込められない。
「ラン、ベルト……っ」
男たちに触れられたのは気持ち悪さしかなかったのに、ランベルトに触れられると安心感しかない。
「いや、だっ。気持ち悪い……っ、気持ち、悪い」
「怖かったね。もう大丈夫だよ」
「お前以外……ッ嫌だ!」
心がスッと軽くなって、全然訪れていなかった眠気が急に押し寄せてきた。
頭の中がフワフワしていて、心地良い。
「ラン……っベルトがいい。俺、ランベルトがいい。お前のこと…………きだ」
「え?」
「お前が……いい。ランベルトがいい」
歩む足が止まり、振動が無くなる。
夢うつつになっているのもあって、自分が何を言っているのかも分かっていなかった。
「ねえ、レオン……それって」
ランベルトの問いかけは聞こえていたけれど、これ以上睡魔に勝てなくて目を閉じた。
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