パライバトルマリンの精霊王は青い薔薇のきみの夢をみる

riy

文字の大きさ
上 下
7 / 30

第7話、ヒビが入る

しおりを挟む




「レオン」
「うわ!」
 大広間へ行くと突然背後から抱きしめられてレオンは声を上げた。
 前触れなく己に抱き付いてくるのは記憶の中に一人しかいない。
「結局行かなかったのか?」
「行ったよ? でも日付またいじゃったんだよね。レオンに会いたかったから時間軸弄ってこの時間に戻ってきた」
「お前って本当に何でもアリだな」
 時間軸を簡単に操るなんて、教師ですら出来る技じゃない。
 相変わらずのチート加減にウンザリとした表情を浮かべた。
「その前に、俺ら契約してからは毎日会ってるだろ。しかも三年目だぞ……別に明日でも良かったのに」
 会う所か、ほぼ毎日体も重ねている。
 卒業間近になってからは一日の回数までもが増えたくらいだ。
「後三ヶ月もしないうちにレオンと離れちゃうでしょ。レオンは俺の。誰にも離したくない。少しの時間だって惜しいよ」
 はぁーっと果てしなく深いため息をついた。
「ランベルト……前々から思ってたけど、お前の好きは〝ごっこ彼氏〟の好きなのか? ただ単にお気に入りのオモチャを取られたくないってだけだろ? 最近……度を越してないか?」
 自分で言っておきながら、言葉が身に刺さる。
「友達以上恋人未満てこうじゃないの? レオンを好きな設定だけじゃダメ?」
 頭痛と眩暈がした。
 それなら〝ごっこ〟じゃなくてオモチャの方だ。
 ——設定、ね。ああ……良いよ。その好きで間違いないんだよ。でも俺が欲しいのは、そういう意味の〝好き〟じゃない。
 口に出してしまいそうになるのを懸命に堪えた。
「お前の言う〝好き〟は〝ごっこ彼氏〟じゃない。単なる〝執着〟だよ。お気に入りのオモチャを取られたくないとかそういったものだ。でもさ、俺はオモチャじゃない。オモチャにはそこまで感情移入はしないもんなんだよ。ランベルト……悪いけどもうこのまま自分の部屋に帰ってくれないか?」
 心臓が嫌な音を立てている。
 その感情の名は知っているけれど、今は考えたくなかった。
「レオン、俺の部屋に来てくれないの?」
 視線を伏せたランベルトからの問いかけに緩く首を振る。
「来てくれたのにごめん。行かないよ。それと暫くの間会いたくない」
 ——ごめんな。俺はお前が好きなんだよ。
 契約に抵触してしまっている段階でランベルトとの関係は成り立っていない。
 これ以上気持ちに嘘をついて一緒に居れない。気が付いた時点でさっさと切るべきだった。
 ランベルトと関わるようになった事を後悔しはじめている。
 オモチャと同列に扱って欲しくもない。
「待ってよレオン。何で? 何でそうなっちゃうの。急にどうしたの? さっきまでいつもと同じだったでしょ? また誰かに何か言われた?」
 焦ったように腕を掴まれ、そっと離す。
「違う、そうじゃない。どうもしないよ。本当はずっと思ってた。俺も考えたい事があるからもう行くよ。頭を冷やす時間が欲しい」
 ランベルトが与えてくる行為や言葉が、遊びの延長線として捉えきれなくなってどれくらい経つのだろう。
 言葉にするとまた真実味を増してしまいそうで、それ以降何も言えなくなった。
 ——契約は切って貰おう。互いの為にならない。
 否、つらいから逃げたかった。
 次に会った時に話を持ち出してみようと嘆息して、ランベルトを置いて自分のとこの寮へ繋がっているワープゲートを通り抜ける。
 自室に戻るとケミルが、呆れたような表情で薔薇を見つめていた。
「なあ……何この大量の薔薇……」
 袋を見つめて大きく瞬きしている。
「ああ、ランベルトが授業中にふざけて俺の上に降らせたんだ。勿体無いから母さんに送ろうと思って貰ってきた。ごめんすぐに送る準備をするから、二時間くらい我慢してくれないか?」
「それはまあ良いけど……」
「サンキュ。助かる」
 着替えてすぐに取り掛かる。
「折角だからこの部屋にも飾れば?」
「それもそうだな……」
 キリの良い本数で十本にしようかと思ったけれど、思っていた以上に結構ボリュームがある。
 結局七本にして、先にプリザーブドフラワーへ変えた。
「お、何だレオン。片想い中か?」
 ドキリとした。
「え、何で?」
「薔薇って色や本数に意味があるんだよ。赤薔薇の七本は〝密やかな想い〟だからな。で? 誰よその相手。ランベルトか?」
 ニヤニヤしながら見つめられる。
 無意識な本数にしたつもりだったのに、今の胸の内を曝け出されたような気になって苦笑した。
「ランベルトは友人だよ。アイツ悪ふざけし過ぎるんだ。薔薇の本数は適当に選んだだけだし。へえ、意味があるんだな。因みに青やレインボーだと何か変わるのか?」
 興味津々に聞き返すと、どうやらケミルは恋バナがしたかったようで興味を削がれたような顔をしている。
「何だ狙ってなかったんかよ。つまんねえ~。うーん、青だと本数の意味までは分からないけど、花言葉は奇跡とか夢叶うって意味じゃなかったかな。レインボーにも奇跡って意味あるけどもう一つは、無限の可能性だな」
 ランベルトも意図したわけじゃないだろう。
 お互い頭が冷えて普通に顔を合わせられるようになったら教えてみようかと思考を巡らせる。
 全ての薔薇を魔法でプリザーブドフラワーにして、各自の部屋に設置されている自宅への物質転移装置に入れて、署名の代わりに装置に向けて魔法力を流し込む。一瞬の間に中身が消えた。
 ——これで完了だ。
 時計を見るともう日付けが変わっていた。
 ——魔法を使いすぎて疲れた。
 元々魔法力量が多くないのもあって、満身創痍だった。
 シャワーを終わらせるなりベッドに潜り込んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...