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番外編 枯れない花【過去出会い編〜抗争前まで】
枯れない花・3
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「啓介! サボんな!」
「んなとこ毎日やらなくても誰も気付かねえよ」
不知火会に身を置くようになって七年の月日が流れていた。
組長が、己の名前に漢字をつけてくれ、また苗字のなかった啓介には苗字も与えられた。
啓介とずっと一緒なのも嬉しかったし、何より組長の元に居られるのが嬉しかった。
唯一尊敬出来て下につきたいと思えたたった一人の大人。
いずれこの人の為に身を張る覚悟を決めている。
決心を新たにしたのは十五歳の時だ。
それを話すと何故か啓介は不機嫌になって、夜になると毎日人の布団の中に潜り込むようになった。
——何だ? 寂しいのか? てか、またうなじが痛え……。
啓介が居ると、決まって怪我をした覚えのないうなじに痛みを感じるようになっていた。
痛みのある日は、皆が中々視線を合わせてくれずに首を捻ったものだ。
これが二年続いている。
掃除の事で揉めていると、組長が歩いてきた。
「啓介、掃除は退屈か?」
「はい」
「なら、うちの奴らと組み手でもしてみるか?」
「何だよそれ。狡い! 俺もやりたいです」
「お前らは本当に昔から二人セットだな」
苦笑される。
「いいぞ、羽琉。お前も来い」
連れて行かれたのは渡辺と矢島という幹部二人の所だった。
「先ずは矢島と渡辺の鳩尾に一撃でも入れられたら合格だ」
「「え……えええーーー」」
渡辺と矢島がどれだけ手だれなのか分かっているだけに不満を口にしたものの、始めてみると意外と楽しくて、昔啓介と喧嘩の練習をしていた時みたいに心が躍った。
それを何日も続けて行くと五日目にしてやっと一本取れた。次の日に啓介も矢島から一本取っていた。
***
啓介と二人で夕食の買い出しに行かされ、帰路を辿っていた時だった。
「ぶつかっといて、ごめんだけで済むわけねえだろ!」
荒々しい男の声が聞こえてきて視線を向けると、大人の男に胸ぐらを掴まれている少年がいた。
絡まれているというのに、やけに冷めた目をしている少年がかつての己らに重なったのかもしれない。
「おい……羽琉!」
胸ぐらを掴んでいる男に思いっきり飛び蹴りを喰らわせて、少年の手を掴むなり走った。
無言のまま見上げてきた少年の目は、さっきまでの冷めた視線とは違ってキラキラと輝いている。
——何かあったのか?
不思議に思っていると少年が興奮気味に口を開いた。
「……き」
「何か言ったか?」
「兄貴!! おれなんでもするんで舎弟にして下さい!!」
「はあ、何か嫌な予感がする……」
ボソリと嫌そうな顔で呟いた啓介とは対照的に、少年は尻尾を振り乱す勢いで生き生きしている。
「俺らこれでも極道だぞ? うちの組長は仁義ある良い人だけどな」
「う……、でもまあ極道は怖いけど、兄貴いるんならそこ入りたいっす! 親からは捨てられてるし、学校ももう行ってないんで大丈夫っす! おれ、西川拓馬って言います!」
「俺は羽琉だ。そっちは啓介」
「ただいまー今戻りました!」
「お邪魔します」
夕食の買い出しと一緒に拓馬を連れて帰ると、無言のままの組長の横で組員たちが爆笑していた。
己の背後では啓介と拓馬がいがみ合っている。
何で会った初っ端から仲悪いんだコイツらと思いながら尻目に見やる。
「羽琉……俺は買い物に行ってこいとは言ったが駄犬を拾って来いとは言っていないぞ。しかもこの様子じゃ、啓介との相性は最悪だと思うが、本当に良かったのか」
「相性とか分かるんですね。流石です組長!」
「いや……そうじゃない。多分気がついておらんのはお前だけだ」
良く分からなかったが、背後の二人がうるさかったので「組長が喋ってんだろが! うるせえよ!」と一喝した。
シンと静まり返ったので、拓馬の腕を引いて組長の前に立たせる。
「ほら、挨拶しろ拓馬」
「西川拓馬っす。さっき兄貴の舎弟になりました。何でもやるんでここで働かせて下さいっす!!」
「まあ、いい。こっちに来い。あと鈴木、ちょっとコイツの身元を探れ」
「はいっす! お邪魔します!」
「分かりました」
組長が拓馬を座敷の部屋に連れて行っている間に、啓介と縁側に腰掛ける。啓介がぶすくれていた。
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