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番外編 枯れない花【過去出会い編〜抗争前まで】
枯れない花・1
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※前田、日比谷、拓馬とのアレコレは全カット、それに合わせて内容を一部変更してます。
叩きつけるような勢いで降り注いでいる雨を受けながら、羽琉は最近見つけた廃工場へと向かって走っていた。
唯一の心安ぐ場所であり、隠れ場所でもあった。
家には居場所などない。産みの母親が、男を取っ替え引っ替え連れ込むからだ。
それに物心ついてからも随分と長い間、視線さえも合った事のない女を母などと呼びたくない。
広いだけで何もないこの廃工場の方がずっとマシだった。
リュックの中に、家からくすねてきた食べ物を詰めて、外に飛び出して今に至る。
タオル類も持って来れば良かったと心の中でため息をついた。
見渡す限り人っ子一人いない。それもその筈だ。こんな真夜中に外にいる子どもの方がおかしいのだから。
居場所がない。生きづらい。学校という場所に通わせて貰った事もない。
それに、何処にいても一人ならば、己に害のない場所がいい。
廃工場には、びしょ濡れになっても拭くものさえなかったが、構わずに扉に手をかけようとして止めた。
きちんと閉めた筈の扉が少しだけ開いている。
——誰かいるのか?
なるべく音を立てないように扉の中に身を割り込ませると、突然胸ぐらを掴まれて床に押し倒された。
「いった!」
同年代くらいだろうか? その少年に馬乗りにされている。
「お前は誰だ?」
「こっちのセリフだ。此処は俺が先に寝ぐらにしてたんだぞ」
負けじと睨みつけながら羽琉が言うと、少年はどこかホッとしたような表情を浮かべて羽琉の上から退いた。
「悪かった。ただ、行く所がない。決まるまでは居させてくれ」
「お前も……家がないのか?」
己と同じ境遇にいるのかと思うと、仲間が出来た気がして少し嬉しくなった。
「お前も? まさか同じ転移者か?」
「てん……い?」
その時は何を言われているのか分からなくて首を捻った。
「いや、そんなわけないな……。悪い、何でもない。忘れてくれ」
「よく分かんねえけど、ここは誰も来ないから大丈夫だ。行く所ないならずっと居てくれていい」
電球に明かりを灯してリュックを下ろす。
子供のくせにやたら大人びた喋り方をする少年に向けて言うと、驚いたような表情をとられた。
「俺が犯罪者だったらどうするんだ?」
「それはない。本当の犯罪者はお前みたいな気品ある態度は取らない。俺はずっとそういう奴らのとこで暮らしてた……だから違いなら良く分かる」
ジッと正面から見つめる。幼少期からの癖で真っ直ぐ人を観察する癖がついていた。
自分に害をなす人間とそうじゃない人間を見分ける為に。
少年は害をなす人間じゃない。それどころか、初めて見つけたかもしれない仲間だ。
「俺は羽琉だ。五十嵐羽琉。お前は?」
「俺はストレイト……いや、ケースケ……だ」
「んじゃ、けーすけな。なあ、腹減ってねえか?」
リュックを漁ってパンを取り出す。一つしかないので半分こにして、啓介に手渡した羽琉は先にパンにかぶり付いた。
続いて啓介がパンを口にする。
「けーすけは学校行ってるのか?」
「何だそれは?」
「ふはっ、やっぱり同じだな俺たち。先生って呼ばれている大人がいて、言葉や数字を教えてくれるらしい。俺も行ってねえ。でも行ってみたかったんだよな」
「ふーん? 行けば良いだろ?」
「なんか戸籍やら親の承諾やら学校からの案内やらが必要って聞いた。俺はこの世に存在していない人間だから行けない……」
「なら俺も同じだな。生まれた時に捨てられている。母は顔すら見た事がない」
ああ、やっぱり同じなのだ。
この出会いは、仲間が欲しかった己にとっては、まるで運命みたいだと感じてしまい、生まれてきて初めて心の底から笑った。
叩きつけるような勢いで降り注いでいる雨を受けながら、羽琉は最近見つけた廃工場へと向かって走っていた。
唯一の心安ぐ場所であり、隠れ場所でもあった。
家には居場所などない。産みの母親が、男を取っ替え引っ替え連れ込むからだ。
それに物心ついてからも随分と長い間、視線さえも合った事のない女を母などと呼びたくない。
広いだけで何もないこの廃工場の方がずっとマシだった。
リュックの中に、家からくすねてきた食べ物を詰めて、外に飛び出して今に至る。
タオル類も持って来れば良かったと心の中でため息をついた。
見渡す限り人っ子一人いない。それもその筈だ。こんな真夜中に外にいる子どもの方がおかしいのだから。
居場所がない。生きづらい。学校という場所に通わせて貰った事もない。
それに、何処にいても一人ならば、己に害のない場所がいい。
廃工場には、びしょ濡れになっても拭くものさえなかったが、構わずに扉に手をかけようとして止めた。
きちんと閉めた筈の扉が少しだけ開いている。
——誰かいるのか?
なるべく音を立てないように扉の中に身を割り込ませると、突然胸ぐらを掴まれて床に押し倒された。
「いった!」
同年代くらいだろうか? その少年に馬乗りにされている。
「お前は誰だ?」
「こっちのセリフだ。此処は俺が先に寝ぐらにしてたんだぞ」
負けじと睨みつけながら羽琉が言うと、少年はどこかホッとしたような表情を浮かべて羽琉の上から退いた。
「悪かった。ただ、行く所がない。決まるまでは居させてくれ」
「お前も……家がないのか?」
己と同じ境遇にいるのかと思うと、仲間が出来た気がして少し嬉しくなった。
「お前も? まさか同じ転移者か?」
「てん……い?」
その時は何を言われているのか分からなくて首を捻った。
「いや、そんなわけないな……。悪い、何でもない。忘れてくれ」
「よく分かんねえけど、ここは誰も来ないから大丈夫だ。行く所ないならずっと居てくれていい」
電球に明かりを灯してリュックを下ろす。
子供のくせにやたら大人びた喋り方をする少年に向けて言うと、驚いたような表情をとられた。
「俺が犯罪者だったらどうするんだ?」
「それはない。本当の犯罪者はお前みたいな気品ある態度は取らない。俺はずっとそういう奴らのとこで暮らしてた……だから違いなら良く分かる」
ジッと正面から見つめる。幼少期からの癖で真っ直ぐ人を観察する癖がついていた。
自分に害をなす人間とそうじゃない人間を見分ける為に。
少年は害をなす人間じゃない。それどころか、初めて見つけたかもしれない仲間だ。
「俺は羽琉だ。五十嵐羽琉。お前は?」
「俺はストレイト……いや、ケースケ……だ」
「んじゃ、けーすけな。なあ、腹減ってねえか?」
リュックを漁ってパンを取り出す。一つしかないので半分こにして、啓介に手渡した羽琉は先にパンにかぶり付いた。
続いて啓介がパンを口にする。
「けーすけは学校行ってるのか?」
「何だそれは?」
「ふはっ、やっぱり同じだな俺たち。先生って呼ばれている大人がいて、言葉や数字を教えてくれるらしい。俺も行ってねえ。でも行ってみたかったんだよな」
「ふーん? 行けば良いだろ?」
「なんか戸籍やら親の承諾やら学校からの案内やらが必要って聞いた。俺はこの世に存在していない人間だから行けない……」
「なら俺も同じだな。生まれた時に捨てられている。母は顔すら見た事がない」
ああ、やっぱり同じなのだ。
この出会いは、仲間が欲しかった己にとっては、まるで運命みたいだと感じてしまい、生まれてきて初めて心の底から笑った。
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