上 下
60 / 65
番外編 枯れない花【過去出会い編〜抗争前まで】

枯れない花・1

しおりを挟む
※前田、日比谷、拓馬とのアレコレは全カット、それに合わせて内容を一部変更してます。





 叩きつけるような勢いで降り注いでいる雨を受けながら、羽琉は最近見つけた廃工場へと向かって走っていた。
 唯一の心安ぐ場所であり、隠れ場所でもあった。
 家には居場所などない。産みの母親が、男を取っ替え引っ替え連れ込むからだ。
 それに物心ついてからも随分と長い間、視線さえも合った事のない女を母などと呼びたくない。
 広いだけで何もないこの廃工場の方がずっとマシだった。
 リュックの中に、家からくすねてきた食べ物を詰めて、外に飛び出して今に至る。
 タオル類も持って来れば良かったと心の中でため息をついた。
 見渡す限り人っ子一人いない。それもその筈だ。こんな真夜中に外にいる子どもの方がおかしいのだから。
 居場所がない。生きづらい。学校という場所に通わせて貰った事もない。
 それに、何処にいても一人ならば、己に害のない場所がいい。
 廃工場には、びしょ濡れになっても拭くものさえなかったが、構わずに扉に手をかけようとして止めた。
 きちんと閉めた筈の扉が少しだけ開いている。
 ——誰かいるのか?
 なるべく音を立てないように扉の中に身を割り込ませると、突然胸ぐらを掴まれて床に押し倒された。
「いった!」
 同年代くらいだろうか? その少年に馬乗りにされている。
「お前は誰だ?」
「こっちのセリフだ。此処は俺が先に寝ぐらにしてたんだぞ」
 負けじと睨みつけながら羽琉が言うと、少年はどこかホッとしたような表情を浮かべて羽琉の上から退いた。
「悪かった。ただ、行く所がない。決まるまでは居させてくれ」
「お前も……家がないのか?」
 己と同じ境遇にいるのかと思うと、仲間が出来た気がして少し嬉しくなった。
「お前も? まさか同じ転移者か?」
「てん……い?」
 その時は何を言われているのか分からなくて首を捻った。
「いや、そんなわけないな……。悪い、何でもない。忘れてくれ」
「よく分かんねえけど、ここは誰も来ないから大丈夫だ。行く所ないならずっと居てくれていい」
 電球に明かりを灯してリュックを下ろす。
 子供のくせにやたら大人びた喋り方をする少年に向けて言うと、驚いたような表情をとられた。
「俺が犯罪者だったらどうするんだ?」
「それはない。本当の犯罪者はお前みたいな気品ある態度は取らない。俺はずっとそういう奴らのとこで暮らしてた……だから違いなら良く分かる」
 ジッと正面から見つめる。幼少期からの癖で真っ直ぐ人を観察する癖がついていた。
 自分に害をなす人間とそうじゃない人間を見分ける為に。
 少年は害をなす人間じゃない。それどころか、初めて見つけたかもしれない仲間だ。
「俺は羽琉だ。五十嵐羽琉。お前は?」
「俺はストレイト……いや、ケースケ……だ」
「んじゃ、けーすけな。なあ、腹減ってねえか?」
 リュックを漁ってパンを取り出す。一つしかないので半分こにして、啓介に手渡した羽琉は先にパンにかぶり付いた。
 続いて啓介がパンを口にする。
「けーすけは学校行ってるのか?」
「何だそれは?」
「ふはっ、やっぱり同じだな俺たち。先生って呼ばれている大人がいて、言葉や数字を教えてくれるらしい。俺も行ってねえ。でも行ってみたかったんだよな」
「ふーん? 行けば良いだろ?」
「なんか戸籍やら親の承諾やら学校からの案内やらが必要って聞いた。俺はこの世に存在していない人間だから行けない……」
「なら俺も同じだな。生まれた時に捨てられている。母は顔すら見た事がない」
 ああ、やっぱり同じなのだ。
 この出会いは、仲間が欲しかった己にとっては、まるで運命みたいだと感じてしまい、生まれてきて初めて心の底から笑った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

処理中です...